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引渡し
しおりを挟むついに引き渡しの日を迎えた。
よろず屋の男児たちが総出で旅籠、食事処に必要な調理道具や皿などを大きな風呂敷に包んで背負った。重い調理道具や寝具などは荷台に積んだ。
よろず屋を離れる八人の荷物のうち、きはだ、柑子そして婿殿の荷物だけは紅が背負った。少し歩けるようになったきはだを勝三が、元気は回復したが、片目の柑子を豊二が背負うためであった。
まだ日の昇らないうちに出発して分店を目指し、所々何度も休みながら、昼過ぎには到着した。
「待ってましたよ、皆様方」
宿夫婦が、旅支度のいでたちで出てきた。
仕上がり具合を、紅が一つ一つ確認した。
「申し分ない。これは手直し代と残りの金だ」
権利書を紅に渡すと、宿夫婦は足取り軽く峠を下って行った。
『よろず屋分店』を男児たちが物珍しげに歩き見ていた。
「疲れたであろう。今夜はみなでここに泊まるぞ」
紅の一言に一斉に歓喜の声が上がった。
そんな、ちょうどの頃合で食材が届き始めた。
「さあ、荷物を運び込め。萱草は厨房に食材を運び入れ、みなの食事の用意と仕込みをしてくれ。厨房の者は萱草を手伝え。
旅籠の者は各部屋に荷物を運び入れて片せ。萱草夫婦と婿殿の部屋は各自にさせるゆえ、手伝わぬとも良い。各自終わったものから大浴場に入れ。
おい、どこに行くつもりだ、杏お前もだ」
こっそりとサボるつもりだったのか、杏の肩がビクついた。
「ちぇ、見つかっちまったか」
杏が悪びれる様子もなく呟いた。
「それからお峰、お前たちの部屋は大浴場の奥の突き当たりだ。向こうへ歩いて行けば直ぐにわかる。仕込みで手の離せない萱草の荷物を片すのも妻の役目だ。
次に婿殿の部屋に案内する、ついて来られよ」
四人が連れてこられたのは、客室の一番の奥側の部屋であった。
「この部屋はもともと二間続きの客室でな、少し改築を施して、完全に部屋を仕切って襖をつけた。それならばお互いに気がねすることもなかろう。そしてもう一つ」
部屋の突き当りまで進んだ紅が襖を開けた。
「ここは脱衣所だ。そしてこの奥に」
紅はその奥の扉を開いた。
それを目にした四人が息を飲んだ。
「壷湯だ。この仕切りの向こうにも同じ壷湯がついていて、この部屋とは造りが対称になっておる。この湯が、こいつらの体に良い作用を与えると思ってな。
それでここに決めたのだ」
そこは以前セツたちが泊まった部屋だった。セツの話を聞いた紅が真っ先に考えたのが、この部屋の手直しであった。
「紅殿、わたしも勝三もなんとお礼を述べて良いのやら」
年長の豊二が礼を述べると、勝三、きはだそして柑子も頭を下げた。
「俺は『婿殿』を至極大事にする性質でね。
改めてこいつらとこの店のこと、よろしく頼んだ」
「「紅さま…」」
きはだと柑子が同時に呟くと、紅は二人の頭に手を置いた。
「いいか、お前達は婿殿の言う事聞くんだぞ。
なに、年に二度はお前たちに会える。わかったか。
こらこら、俺も明日まではここに居るんだ。今から湿っぽくなるな。
これからしなくちゃならねえこと、あるだろ。片して風呂に入ったら食事処に来い」
酔ってドンちゃん騒ぎの男児の笑い声が、分店に何時までも響き渡る。酒の飲めない男児達も、若葉と鶯に甘水を注いで貰っては楽しんでいた。
その姿を、紅と濡羽が見守っていた。
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