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その頃工房では
しおりを挟むかつての奉公先であったよろず屋が分店を出すことになり、奉公人達が総出で手伝いに行く最中、手伝いに行く事を柔に許してもらえなかった花色がいつまでも不貞腐れていた。
「俺も分店に手伝いに行きたかったな」
「ダメだ。お前を一人で行かせるなんて、俺が許すわけねえだろ」
「秘湯もあるんだって、浸かってみたかったな…」
「俺の傍を離れねえっていったのはお前だろ。
いい加減、女々しい事言うんじゃねえ!何度言わせんだ」
よろず屋分店の開店準備の日から後ろ髪を引かれている花色が、「でも俺は柔と行きたかったな」とボソリと呟くと見るからにがっかりした。
そんな花色の姿に罪悪感を感じたのか、柔が優しく抱き寄せると、花色が柔の肩口に頭を預けた。
「ったく、いつまでたっても玉の小せい奴だな、おめえは。
ハナちゃん、俺が連れてってやろうか?」
何処からともなくテツが二人の間に割りいるようにしゃしゃり出てきた。
「おとうさん!」
花色が、ぱあーっと明るい笑顔を見せた。
「くそ親父、てめえ何度言えばわかるんだ!こいつは俺んだ!
チッ。おめえもおめえだ、よりによって親父に懐きやがって」
テツが花色を気に入り、自分と同じように可愛がっている事が気に食わない柔が、ついキツイ口調で花色を窘めた。
「だって…お父さん優しい、し」
シュンとした花色の、パッチリした目に涙が滲み始めた。
その一瞬を見逃す事のないテツが事態を煽るようにぶっきらぼうに言い放った。
「あーあ、まーた泣かせちまった。俺は惚れた女をそんな風に泣かせるような事はしたことないけどな。ほんと、玉が小せえな」
テツが抑揚無く柔を非難して、何事も無かった様に去っていった。
テツに張り合い、ついキツイ口調になってしまった事に慌てた柔が、おろおろと花色に取り繕い始めた。
「一人では行かせられねえが、たくさん稼いで俺が必ず連れてってやる。だからそれまで良い子にしてろ、なっ」
柔がおでこに誓いの様に優しい口付けを落とした。
「花色、ヒカルがら
そして、もう一方の双子。
「カツ、分店の手伝いに行かなくて良いのか?」
「あんっ、行きたくない。やだ、違う、イキたいイキたい」
「ったく…どっちだよ」
二人は町へ向かう途中の鬱そうとした森の中の大木の陰で、事の真っ最中であった。
「ああ、ああ来る。あれが来る」
夜は長い快楽で気を失って眠りにつき、昼は短時間に極めるのが勝色の日課になりつつあった。
程なくして細く長い咆哮が放たれた後、あたりはシンと静まり返った。
近くを行きかう行商人が、獣に似たそれを聞いて立ち止まり、恐る恐る木陰に目を凝らしたが、静まり返った辺りを確認すると、安心したようにまた歩き始めた。
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