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【初音】Hatune

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「ここ、は」
ぼんやりと霞む思考の中で月夜は覚醒した。
「月夜、気がついたのか?」
すぐ傍にいた右代が急いでナースコールを押した。
僅かに視点の合わない月夜の目に右代の心配そうな顔が映る。

「死ね、なかったんだ」
月夜がゆっくりと右手の甲を目に押し当てた。
「は、はは、はは」
月夜の乾いた笑い声に右代はただただ戸惑うばかりで口を噤んだ。

「はあー」
月夜が大きく息を吐く。力のない目で病室の天井を眺めていた月夜の脳裏に、意識を失くす間際の記憶が蘇る。

「変な夢、見てた」
天井を見つめたまま月夜が独り言のように呟いた。
「あいつがいるわけないのに。せっかくあいつのいない所に行けたのに。
最後の最後まであいつが僕を苦しめた」
月夜の目尻から静かに滴が零れ落ちる。その姿を見つめる右代は唇を噛み締めた。
「こうして無様に生き残ったのもあいつのせいなんて。つくづく僕ってどうしようもない大馬鹿だ。思い出したくないのに。あいつの事なんか」
押し当てた右手で隠せない涙を月夜は両腕で覆い隠しながら声を震わせる。
右代は唇を噛み締めたまま、両手のこぶしを震わせていた。

それから間もなく訪れた医師が「もう、大丈夫ですよ」と告げると病室を後にした。

「月夜、お前が助かったのは朱雀のお陰だ」
ようやく右代が重い口を開いた。
「な、に?」
右代の一言で月夜の心臓がドクンと不穏な音を立てる。
「どう、いう」
月夜の脳裏に鮮明に残る記憶がまざまざと蘇る。

『私は、こんなにも貴方を苦しめていたのですか。貴方の為にと決断した結果が、貴方を追い詰めていたんですか。
だめです。目を開けてください。
生きてください。貴方だけはどうか生きてください。
私の存在がこんなにも貴方を苦しめるのなら』
ドクン。再び月夜の心臓が大きく跳ねる。月夜の呼吸が次第に浅くなる。

「うそだ、あれは幻だったんだろ」
浅く呼吸する月夜が過呼吸に陥った。ぜいぜいと苦しみ始めた月夜に、再び右代がナースコールを押した。

「右代さん、ゆっくり呼吸してください。大丈夫ですよ、そう、ゆっくり」
駆けつけた看護師により次第に落ち着きを取り戻す月夜の姿に、右代は握り締めた拳を震わせることしかできなかった。

『生きてください。貴方だけは』
朱雀の最後の表情が月夜の視界いっぱいに広がる。柔らかく微笑んだその顔は月夜への慈愛と後悔が入り混じっているように月夜は感じた。その首筋に当てられた包丁がスローモーションのように振り下ろされ、ダムが決壊したかのように噴出す、赤い、赤い、血。

「す、ざく。すざく。朱雀はどこ。朱雀」
月夜が何度も朱雀を呼ぶ。

「父さん、朱雀は?朱雀は?」
月夜が右代に手を伸ばすが、右代は月夜にそれ以上近寄ることはなく、ベッドから少し離れた場所に佇むばかりだった。

「父さん、一生のお願いです。右代の姓も地位もいりません。不肖の息子の最後のお願いです。朱雀の、所にいかせてください。それを叶えて下されば、僕は二度と右代家の皆さんに会う事のない遠い所に行くと誓いますから、どうか、朱雀に。最後に一目、朱雀に」
月夜が右代に再び手を伸ばす。右代はギュッ握り締めた拳をようやく開放した。

右代はまだ動くのは無理だと言う看護師を説き伏せると、月夜を車椅子に乗せてある場所へと向かった。


ヒカルに抱き潰された慧はヒカルの宣言どおりに次の日、大学を休んだ。そしてその次の朝、慧はヒカルの車で大学まで送ってもらった。
「ありがとうございます」
バタンと助手席のドアを閉めた慧にヒカルが「おい」と声を掛ける。
慧が運転席側に回るとパワーウィンドーが静かに下りる。
「ちょっと耳かせ」
ヒカルが右手の人差し指をクイクイと動かすと慧がそれに釣られるようにヒカルに顔を寄せた。
ヒカルはその一瞬で慧の項を引き寄せ、口付けた。

「「「「「「キャーーーーッ」」」」」」
登校途中の学生たちの悲鳴が沸き起こる。既に校内にポスターの張り出された慧は一躍誰もが噂する有名人に、一夜にしてなっていた。

一瞬判断の鈍った慧が慌てて離れようとするのをヒカルは力強く跳ね除け、慧の口内を蹂躙する。

「んふっ」
慧の抵抗もむなしく慧はヒカルを受け入れるとついに慧が抵抗するのを止めた。

長々と重ねられた唇がゆっくりと離れると、ヒカルは慧の唾液に濡れた口びるを甘噛みしながら啜りとる。

周りの学生たちはドラマのようなその光景に目を奪われていた。

「勃たねえ程度にしといてやる。俺が欲しくなったら早く帰ってくるんだな」
小声のヒカルがニッと片頬で笑うと再び歓声の様な悲鳴が沸きあがる。

「こんくらいけん制しときゃいいだろ。
忘れんじゃねえぞ。お前が俺の女だって事」
そう言い残すとヒカルは車を発進させた。

放心状態で取り残された慧が頬を赤らめながら俯いてそっと自らの唇をなぞった。


出社したヒカルの携帯が着信を知らせる。

「失礼ですが、常陸 勇輝さんの後見人の方ですか?私、中央病院の救急外来の看護師をしております田中と申します」
見知らぬその番号からの声はおずおずとしながら説明し始める。
「実は常陸さんのアパートで火災があり、こちらに救急搬送されたのですが、お身内の方がいらっしゃらないとおっしゃいまして、常陸さんがこちらの番号へかけてほしいと」
ヒカルは肉親の失った勇輝の携帯に自分の登録を『後見人』と登録させていた。何かの際には自分に連絡が来るように仕向けていたのだった。

一通りの説明で勇輝に大きな怪我も火傷もないことがわかるとヒカルは直ぐに車を走らせて中央病院へと向った。

「ヒカル君」
ヒカルが到着すると、勇輝が心細そうに座っていた。ヒカルの姿に勇輝が涙を滲ませる。

「大変だったな」
ヒカルはそう一言声を掛けるとくわしい状況を聞く為に医師と面談した。

田中の報告どおり優輝には怪我もなく、指先の小さな火傷だけだったため、すぐさま携帯でどこかへ連絡を入れると、勇輝を車に乗せ発進した。

「住むとこ、無くなっちまったな」
ヒカルがチラリと勇輝に視線を送ると勇輝は小さな額縁を胸に抱きながらもまだ震えていた。
「事務所のソファで暫くは寝泊りしようと思ってます」
勇輝がヒカルに心配を掛けまいと無理やりに微笑んだ。それを虚勢だと知るヒカルはビジネスホテルの駐車場へと車を滑り込ませた。

「ここは?」
連れてこられたシングルルームの一室で勇輝がきょろきょろと辺りを見回す。
「事務所のソファで寝泊りなんかして風邪でも引いたらどうする。暫くはここで暮らせ。俺が既に支払いも済ませた」
ヒカルがぶっきら棒に勇輝に伝えた。
「え、いいよ。悪いよ。ヒカル君にそこまでさせられないよ」
勇輝が懸命にヒカルに大丈夫だと言い張る。

「これは命令だ、勇輝」
ヒカルは勇輝の体を強く抱きしめた。初めての名前呼びに勇輝の体がピクリと反応する。

「ぐすっ、ぐすっ」
ヒカルの腕の中で勇輝が静かに泣く。
ヒカルはそのまま勇輝を泣かせていた。

「マラ、か」
勇輝が体を強張らせる。
「ごめんなさい」
身を小さくしながらも勇輝が下肢をもじもじとさせる。
「すぐ収めますから」
恥ずかしそうにする勇輝に、ヒカルが抱きしめるだけだった手でフレアスカートの上から尻を揉みしだく。

「疲れマラだってあるんだ。火事マラもあるだろ」
ヒカルの手に揉み込まれる勇輝の尻が弛緩と緊張を繰り返し、勇輝の息も上がる。

「準備してこい。抱いてやる」
ヒカルの一言に勇輝が抱き締めていた額縁をテーブルに置き、そそくさとバスルームへ消えた。

ヒカルは目の前の大きな鏡に映る自分を見つめた。

「しゃあねーな」
ヒカルは時間つぶしにタバコに火をつけた。


ロングのタバコを一本吸い終える間もなく、バスタオルを身に纏った勇輝がヒカルの前に姿を現した。

「待ちきれねえ、ってか」
ニイッとヒカルが笑うと勇輝が全身を朱に染めた。

ヒカルは椅子に座ったままフロントホックを外し、前を寛げた。ボロンと飛び出したヒカルのペニスはまだ何の反応も示してはいなかった。

「お前にはさせたこと無かったな。これが欲しきゃ、お前がこいつをなんとかしろ」
挑発するようにヒカルは大きく足を広げた。すると勇輝の目が熱くヒカルのペニスを見つめ、崇める様に傅くと小さな舌先を伸ばした。

「ん、んん、んふっ。んっ」
勇輝がヒカルのペニスを一心不乱に育てるが、僅かに兆しを見せるだけだった。

「へたくそだな。まあ、俺がさせなかったからな」
つたない舌技にどこか嬉しそうなヒカルの声が勇輝の耳を擽る。勇輝は大きく頬張りながらヒカルのペニスを奥へと誘う。途中、勇輝がその大きさにむせるとその締め付けが心地良いかのようにヒカルのペニスの成長が勢いづく。

「もう少し喉の奥まで銜えながら締めろ」
ヒカルは勇輝のストレートヘアーを撫でながら指示を出す。勇輝は嬉しそうにその行為を繰り返した。

「もういいぞ。抜くからな」
ヒカルが立ち上がりながら勇輝の口からペニスを引き抜いた。鞘から引き抜かれた日本刀のようにそそり立ったヒカルのペニスに、勇輝が縋り付きなおも舌を這わせ、浮き上がった血管の一本一本をなぞる。陶酔した顔の勇輝にヒカルはにやりとほくそ笑んだ。

「そんなにフェラが気に入ったか」
ヒカルが勇輝を立ち上がらせると、勇輝が名残惜しそうな顔でヒカルのペニスを見つめた。

「初めてのくせにとんだ淫乱だな」
ヒカルは勇輝の身に纏うバスタオルを剥ぎ取り、今しがた座っていた椅子にバスタオルを掛けて覆い、勇輝の姿を鏡に映したまま背後に立つ。高級なスーツをきっちりと身に着けたままのヒカルと、一際纏わぬ自分の姿に勇輝が鏡から目を逸らす。

「今日は俺に抱かれるお前の姿、見せてやる」
ヒカルは勇輝の尻を大きく開き、その長大なペニスを挿入れ始める。

「んや、出ちゃう」
勇輝が一啼きするとヒカルが勇輝の小ぶりなペニスの根元を押さえて握り締める。
「だめだ」
ヒカルは何度も前後に揺さぶりながらもペニスを埋め込む。

「キツイ。暫くぶりだからな。今日はフルコースでいくからな」
ヒカルも僅かに苦しそうに、それでも勇輝の奥を目指し続けた。

「狭くなってるが俺の形だ」
ヒカルが久しぶりの勇輝の中を確かめるようにわずかに息を吐く。ヒカルは勇輝の中が思い出すまで動かずにいた。

勇輝も落ち着いた頃、ようやく勇輝のペニスから手を離した。
「今日は俺が出すのが先だ。俺が出したらイカせてやる。いいな」
鏡越しにヒカルが勇輝を目つめると、熱の篭った眼差しで勇輝が頷いた。

「んじゃ、動くぞ」
ヒカルが大きく下肢を打ちつけ始める。

「ちゃんと見てろよ」
ヒカルの言葉に勇輝が鏡を見る。ヒカルに打ち付けられるたび勇輝のペニスが勇輝の下腹に打ち付けられる。初めて目の当たりにしたヒカルのペニス。勇輝の中に入る前から圧倒的な存在感に魅了された勇輝は、自分が育てたヒカルのペニスの破壊力に改めて自分より強い雄のなのだと思い知った。それ以上にヒカルに支配されているこの時間が何よりも自分の生まれ持ってる性を無用のものにさせる事を実感していた。
勇輝はとっさにペニスに手を伸ばした。
初めてヒカルに抱かれた日はそれを守ろうとした。でも今日は違っていた。
勇輝はヒカルの言ったとおり、ヒカルよりも先にイカないように自らの意思でペニスを握り締めた。

「あ、ああん。あん、あんっ」
勇輝は啼き続けた。吐き出すことなく渦巻き、ヒカルが望む自分になるその時が来るまで決してペニスから手を離さないと決めたのだった。時折、中でイける感覚が勇輝の中で沸き起こるが、勇輝はその度にペニスを握る手に力を込め、その痛みで散らしていた。

「あんっ、あんっ、あんっ」
ヒカルの下肢が勇輝の尻に当たるパンパンとした音が小刻みでいて、リズミカルに変化する。勇輝がそれに呼応するように喘ぐ。

(来る)
勇輝は本能的に悟った。

パンパンパンパン。
勇輝の前立腺を集中的にこれでもかと言わんばかりに押しつぶし、抉られると次第に勇輝の中の感覚が麻痺し始めた。

「あんっ、あんっ、あんっ」
勇輝は無意識にペニスから手を離した。

(すごい。前でも、中でもイケ、ない)
勇輝は椅子の肘に両手をついて体制を保つ。

(どうしよう。このままずっとこうしてたい。イキたくない)

「ちゃんと見ろっていったろ」
後ろから降りかかるヒカルの声に勇輝が顔を上げて鏡を見る。

(これが、僕?)
だらしなく開いた口から零れ落ちる唾液。胸も弄られず、ただヒカルに中を突かれるだけで先走りを溢れさせ、ヒカルの動きでそれを飛び散らせる自分の姿に、勇輝は自分の中には一欠けらの雄も残ってはいないのだと自覚した。

(僕は雌だ。強い雄に支配される、いや支配されたい雌だ。ヒカル君は初めから知っていたんだ。
ならいっそヒカルの所有物になれたらいいのに)
勇輝が快楽ではない涙を一つ零した。

「出すぞ」
ヒカルがグッと下肢を押し付けるとドクンドクンとしたヒカルの鼓動が勇輝にはっきりと感じられた。そしてその放出された熱も。

「あ、熱い」
勇輝がとっさに口走った。

「まずは前菜からだ」
ヒカルは自らが射精している最中に勇輝のペニスを左手で扱きながら尿道を抉じ開けるように右手の人差し指を捻じ込む。尿道の入り口内部を擽るようにぐるりぐるりと撫で回す。

「んあ、ああーっ」
勇輝が一際大きく啼くと勢い良く精子をバスタオルめがけてぶちまけた。

「あ、はぁ、あっ、はぁ」
勇輝は自分の体を支えるのに精一杯だった。椅子の肘を握る手に力が篭る。

「まだだ。まだ出んだろ」
ヒカルはなおも勇輝のペニスから手を放そうとはしなかった。
クチュクチュと勇輝の精液を纏うヒカルの両手が勇輝にこれ以上の射精を促す。

「出る。また出る」
再び勇輝が射精した。ヒカルは勇輝のペニスの残渣を搾り出すように扱き続ける。

「あ、ああっ」
その度に勇輝のペニスから精液が吐き出され、それは徐徐に量を減らし終には何も出るものがなくなってもヒカルは勇輝の竿と尿道を責め続けた。

「さすがにこれだけじゃだめか」
ヒカルが勇輝の腰を掴んで打ちつけ始める。

「次はお前の好きなメインディッシュだ。中でイカせてやる」
ヒカルはひたすらに下肢を打ちつける。

「さっきは前立腺ばっかり可愛がったからな。奥、責めるぞ」
ヒカルはパンパンと音がするほど引き抜き打ち付ける動きから、密着させたままで最奥に届くように下肢をうねらせ始める。

「あ、ああ、それ、イッちゃう」
ヒカルは勇輝の奥を抉じ開けながら勇輝をいつもイカせる動きを繰り返す。ヒカルに躾けられた勇輝の体は瞬く間に性と精の開放へと上り詰める。

「んあああーっ」
勇輝が咆哮をあげた。

「中でイッたか。この後はイキっぱなしになるな」
これだけの運動量でも息一つ乱さないヒカルが冷静に分析した。
とうとう自らの体を支えきれなくなった勇輝に、ヒカルは目の前の鏡の奥に映るベッドの端に腰掛けると勇輝の両足を後ろから掬い上げた。

「そのまま見てろ。俺の言うことは絶対だ」
ヒカルがベッドのスプリングを利用しながら勇輝の最奥を突き上げる。勇輝が鏡に映る姿をヒカルにいわれるままに凝視する。ヒカルを受け入れながら大きくM字に開脚され隠すことのできない勇輝のペニスは、既に何も出すものがないにも拘わらず熱を持って勃ち上がっていた。ヒカルの突き上げに上下に鎌首を振り悦びの滴を撒き散らす。勇輝はその卑猥な自分の姿に興奮したように再び咆哮をあげてドライオーガスムを迎えた。

「自分の姿に興奮したか。いつに無くよく締まる。でもお前が好きな時にイクのも今日限りだ、これからはお前がイクのは俺が出した後だ。そして俺が出すまではイクな。今日で最後だ」
ヒカルは下肢を突き上げながら勇輝を容赦なく何度もイカせる。ひっきりなしに痙攣する勇輝の中がヒカルのペニス全体に絡みつき勇輝がドライを迎える度にその圧は強さを増す。

ヒカルは下肢の突き上げを同じリズムで繰り返す。

「いい感じだ。そろそろデザートだ」
ヒカルは勇輝の掬い上げていた両足から手をはなし、左腕を回してお互いの体を固定すると、右の手のひら全体で勇輝の亀頭に被せ捏ねくり始める。

「んや、やあ、あん」
勇輝がペニスへの強い刺激とドライの残留、そして奥の突き上げに体を捩ろうとする。しかしそうはさせまいとヒカルが左腕に力を込める。

「ん、や、やあっ。やあ、やあっ」
勇輝が引き剥がそうとヒカルの左腕にしがみ付くが、力では敵わない勇輝にはどうすることもできなかった。
ヒカルの手の中の亀頭は先走りを夥しく溢れさせながらヒカルの愛撫を嬉しそうに甘受する。
ヒカルの突き上げにますます強くなる激流とも言える勇輝の中の動きに、ヒカルが勇輝の終わりを悟りとっさに目の前にある椅子を足で引き寄せた。

「だめ、イク、違う、変、変、やああーーーっ」
ヒカルの右手の隙間からブシャーッと何かが噴出し、バスタオルに染み込む。それを待っていたヒカルがここぞとばかりに勇輝の中で精を解放した。

「やあっん、やあ」
勇輝が弱弱しく喘いでいる最中も勇輝の中はゴクリ、ゴクリと美味しそうにヒカルの精を飲み干す。

「ったく。お前は上の口も下の口も淫乱だな。潮吹きながら俺の精子を貪るなんてな」
一言呟くと、勇輝が弱弱しく言葉を紡いだ。
「だって、ヒカル君、だから。全部欲しい」
勇輝の言葉に気を良くしたヒカルは、緩く突き上げながら優しい手つきで勇輝のペニスを擦り、残渣を出してやった。
「これからはお前の体は俺が支配する。いいな、ここは俺だけのもんだ」

勇輝が全てを吐き出し、力を失ってなお下肢を押しつけながら勇輝の中に君臨するヒカルが長時間に渡った繋がりを解くと、勇輝をベッドに横たえさせた。
自らのペニスの後処理をし、着衣を整えたヒカルは勇輝に向き直った。

「そのまま聞いてろ。俺の家が間もなく完成する。そしたら勇輝、お前は俺の家で暮らせ」
勇輝は何を言われているのかわからなかった。
「今日からお前は俺の女だって言ったんだ」
ヒカルはバスルームから新しいタオルを取ってくると勇輝の体を清め、中に注がれた精液も綺麗に掻き出した。

「ヒカル君、始めて、だね。こんなことしてくれるの」
勇輝が気はずかしさと喜びに思わず尋ねた。

「俺は俺の女には尽くすタイプだからな。明日また来る」
おくびも無く応えたヒカルに勇輝が赤面する。

「で、返事は?ていっても、はい以外は受付ねえがな」
捨て台詞のように言い放ち、ヒカルはホテルを後にした。

(僕がヒカル君の女に。うれしい)
勇輝は体の火照りと心の熱にしばらくの間浸っていた。


集中治療室の前で右代はその歩みを止めた。そのすぐ傍の長いすには朱雀の母である弘子と、見知らぬ女性が悲痛な面持ちで座っていた。月夜の姿を目にした弘子が月夜の元へと駆け寄る。

「月夜、良かった。貴方は無事だったのね」
月夜の顔を覗き込んだ弘子の顔には憔悴の色が浮かび、目の下にはひどい隈が出来ていた。
「朱雀は?」
月夜はすぐさま弘子に尋ねたが、弘子もまた右代同様朱雀の容態を告げることはなかった。

「右代さん、弘子さん。少しだけ、私に月夜さんとお話をさせてはいただけないでしょうか?」
見知らぬ女性が三人に近づき、静かに提案した。
「お二人から真実を告げるのは酷でしょうし」
右代と弘子は渋々了承すると、月夜から離れた所から様子を伺うようにちらちらと視線を送った。

「はじめまして。私、五輪 栖美香と申します」
その自己紹介に月夜の顔が瞬時に翳った。月夜の顔色に栖美香が反応した。
「まっ、当然の反応よね」
栖美香の雰囲気が変わったように月夜は感じた。

「あたしさ、レズビアンなんだ」
栖美香の唐突な告白に月夜は目を見開いた。
「でもうちの分からず屋のパパが結婚はしなくても良いから子供は作れってうるさくってさ。あたしにはれっきとしたパートナーがいるからって断り続けてたんだけど、とうとう痺れ切らして子供作んないと勘当して、パートナーとも引き離すって言い出してさ。
むかつくでしょ。どうしようかなって考えてたときに朱雀に会ったの。
ひょんなことからあたしがレズだって言ったら、引くどころか朱雀も自分には同性のかけがえのないパートナーがいるって告白してきてさ。
色々話すうち、お互いの似通った状況がわかって意気投合したって訳」
栖美香の話についていけない月夜が一人頭をぐるぐるさせる。

「ここまでは大丈夫?」
背をかがめて車椅子の月夜の顔をじっと見つめる栖美香がにやりと笑みを浮かべた。

「似通った状況って言ったでしょ?
あたしは子供を作らないと全てを失う。そして朱雀は愛するハニーに辛い思い想いをさせたくない」
しゃがみこんだ栖美香が月夜と同じ目線になった。

「右代さんに二人の関係がバレて勘当されたんですってね。そのせいでどこか浮かない顔することが多くなったって、朱雀言ってたわ」
月夜はハッと目を見開いた。
「朱雀ね、ずっと右代さんに月夜君の勘当を解くように交渉してたの。でも右代さんが首を縦に振らないどころがとんでもない条件を出してきたって」
月夜は早る気持ちを抑えながら栖美香の言葉の続きを待つ。

「御門財閥の総帥として結婚したと言う事実を世間にしらしめること、そして孫の顔を見せること。それが出来たなら月夜君の勘当も関係も認めるって」

「なっ」
月夜がちらりと右代のほうを見やると、右代が月夜の視線を外した。

「しかも月夜君に事実を話したら約束は保護にするって」
月夜は無言で車椅子の手すりを握り締めた。

「ようやく状況が呑み込めてきた?
だからあたしから提案したんだ、離婚前提の偽の結婚しましょ、って。最初、朱雀には断られたよ。大事な人を裏切る事になるからって。月夜君、全ては貴方を思ってね。
でも右代さんが子供ができたら離婚すればいいだろうって。それでも良いって。
朱雀は悩んでた。でもきっと月夜君は待っててくれるって信じて最終的に朱雀はあたしの提案に乗ってくれたの。
そして全ての条件が揃って君に全てを告白する為に帰国した朱雀が、瀕死の状態の月夜君を見つけたって訳」

「うそだ。だって子供作ったんだろ、あんたたち」
月夜が栖美香を責めるように言葉を搾り出した。

「ばかね、いったでしょ。あたしはレズビアンだって。男となんて、いいえパートナー以外とは性交渉出来る訳ないじゃない。朱雀も、よ。だから人工授精する為に海外に拠点をおいたの。レズビアンだけどあたしは子供は嫌いじゃないし、どうせならあたしのパートナーの子供も欲しかったから。確かにあたしたちは朱雀から精子提供されて出産した。だから父親は朱雀よ。でもそれ以上でもそれ以下の関係でもないわ。いわば同士なの」
強い光を帯びた栖美香の目が真実を物語っていた。

「続けるわ。貴方を見つけた朱雀が貴方の応急処置をしたから貴方はまだ軽く済んだけど、朱雀は心肺停止状態でここに運ばれて来たの。頸動脈を切ったんだもの。
今生きているのも奇跡なのよ」
栖美香が集中治療室を見やる。

「それじゃあ」
月夜の体ががくがくと震え始める。

『月夜さん。愛してます。やっと貴方と共に歩いてゆけると思っていた私が愚かでした』

「あれは、朱雀の本心」
月夜が車椅子から立ち上がると、貧血のためその場に崩れ落ちた。

「先生、容態が急変です。心肺停止しました」
「AED直ぐ用意して。輸血追加、準備急いで」
体に力の入らない月夜の耳に歪んだ音で看護師や医師の声が届く。ぼんやりとした意識の中、右代と弘子が集中治療室に駆け込む姿が月夜の視界に映る。

『生きてください。貴方だけはどうか生きてください』

「朱雀、朱雀、すざくー。うあああーーーー」
朱雀は声が続く限り大声で朱雀の名を呼ぶ。

「大丈夫ですか」
近くにいた看護師が月夜に駆け寄る。

震えた体と再び過呼吸に陥り乱れた呼吸、薄れ行く意識。月夜の手は痺れ指一本も動かせない中、月夜の耳には『生きてください。貴方だけはどうか生きてください』朱雀の悲痛な叫びだけが幾度も木霊していた。
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