無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

文字の大きさ
30 / 53
第二部

白鷹迅②

俺がオフィスで資料に目を通していたとき、見慣れない番号から電話が入った。
「白鷹です」
『白鷹迅さん? 小国直樹の母です。実は直樹が倒れました……病院までお越しいただいてもいいですか』
声は明らかに緊張していた。
(……直樹が、倒れた……!?)
思わず息を呑む。
胸がぎゅっと締め付けられ、呼吸が荒くなる。
「わ、わかりました……すぐに病院に向かう……!」
俺はすぐ行動に移す。
過保護なほどに、全力で直樹を守る覚悟が湧き上がった。

病院に向かう道中、頭の中で思う。
「お前が……直樹が、弱ってるときに、そばにいられないなんて……そんなの、絶対に嫌だ」

瞬間的に頭の中が全て真っ白になった。
タクシーを手配し、急いで乗り込む。
手が震えて、心臓が早鐘のように打つ。
(直樹……待ってろよ、今すぐ行くから……!)

病院に着くと、直樹の両親と大学生くらいの青年がいた。

「うわぁ、びっくりしたじゃないのー! めっちゃイケメンじゃない?」
第一声は、お母さんにそう言われた。

「……あ、あの、直樹くんは?」
俺が恐る恐る訊ねると、
「……兄ちゃん、今検査中だって」
弟が心配そうにこたえてくれたが、どこか冷静だ。

しばらくして、戻ってきた直樹はベッドの上で、まだ少し青ざめた顔で横になっている。
俺を見ると、弱々しくも小さい手を上げて合図する。
「……迅さん……来てくれたんですね……」

お母さんは少し笑みを浮かべながら、
「はい、はい。ちゃんと連絡しましたからね」

俺は直樹のほうに歩いていって、手を握ると、ひんやりしていていつもの生気が感じられなかった。

「直樹……大丈夫、俺がずっとそばにいる……絶対に放さない」

直樹は小さく目を開け、眠そうに微笑む。
「……迅さん……ありがとう……」

その瞬間、俺は心の中で決める。
(家族として……いや、それ以前に、俺は――これからもずっと、お前を守る。ずっと一緒にいよう)

病室で直樹の手を握ったまま、直樹の家族と俺は医師に呼ばれる。

直樹の病状が説明される。
直樹は虫垂炎、いわゆる盲腸というやつだった。
炎症が広がってるので、手術で摘出する、ということだった。

「それで、手術の同意書なんですが……ご家族の署名が必要です」

その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
(家族……か。俺じゃダメ……なのか……)
頭の中で動揺が渦巻く。
目の前の直樹は、まだぐったりしている。

思わず直樹の額に手を当てる。
(俺は、お前を守れないのか……)

同意書には直樹の両親がサインをした。
それから直樹は手術の準備が進められ、出棟した。

待合室で待っているとき、俺は一人項垂れていた。
でも、俺は、決めた。
もう迷わない。
家族として……
いや、俺の直樹を守るために、結婚しよう。

病室に戻り、直樹の寝顔にそっと話しかける。
「直樹……結婚しよう。今すぐじゃなくても、手続きを含めて正式に……ずっと一緒にいるためにな」

まだ麻酔が覚めきらず、うつらうつらしていた直樹は目を細め、少し赤らんだ顔でかすかに微笑む。
「はい……ずっと一緒に……」

握った手をぎゅっと強く握り返してくるその感触に、俺の胸はいっぱいになる。

よし……これで、もうお前を絶対に離さない。

病室は静かだが、二人の心は温かく、甘く満たされていた。
これまでのラブラブな日常の延長で、やっと正式に「家族」となれるのだ。

感想 1

あなたにおすすめの小説

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

祝福を授かりましたが、まるで呪いです。

めっちゃ抹茶
BL
異世界に生まれ変わって出会った、一組の運命の番であるαとΩの話。 ※ご都合主義があります ※オメガバースの知識がある人向け/作中で説明は一切ありません ※主人公が可哀想、ハッピーエンドではありません 主人公目線、あまり悲壮感はありませんがタグをご確認のうえ以上の事を念頭に、大丈夫な方のみお進み下さい。

スウィート・リトル・バタフライ ──恋人のいる親友と唇を重ねる、秘密。

毬村 緋紗子
BL
エブリスタの〈学園BLコンテスト〉佳作受賞作品です。 【 恋人のいる親友と唇を重ねる、秘密── 】 生まれつき口元に、蝶の形の赤いあざのある幸成。 高2になって、クラスメイトになったバスケ部員の松下と親友になるが、いつしか唇を重ねる仲になってしまう。 けれど、松下には、彼女がいて──。 出口の見えない、トライアングル。 気付いた時には、ふたつのそれが絡まり合っていた……。 〈登場人物〉 ・遠野 幸成 (トオノ ユキナリ) 高2 人形めいた顔立ちの、大人しめ男子。 ・松下 涼佑 (マツシタ リョウスケ) 高2 茶色がかった髪の、存在も容貌も派手め男子。 勝ち気な負けず嫌い。 ・緒川 貴宏 (オガワ タカヒロ) 高2 バスケ部副キャプテン。 穏やかで、大人びた性格。 幸成を気にかけているうちに…。 ・中沢 梨絵奈 (ナカザワ リエナ) 高2 松下の彼女。 別クラス。

【創作BLオメガバース】優しくしないで

万里
BL
壮士(そうし)は男のΩ。幼馴染の雅人(まさと)にずっと恋をしていた。雅人は太陽のように眩しくて、壮士の世界を変えてくれた存在。彼の影を追うように、同じスポーツを始め、同じ高校に進学し、ずっと傍にいた。 しかし、壮士のヒートのせいで、雅人も充てられて発情してしまう。壮士は必死に項を守り、番になることを拒む。好きだからこそ、こんな形では結ばれたくなかった。壮士は彼の幸せを願って別の大学へ進学する。 新しい環境で出会ったのは、α・晴臣(はるおみ)。彼もまた、忘れられない人がいるという。 互いに“好きな人”を抱えたまま始まる関係。心の隙間を埋め合うふたり。けれど、偽りのはずだったその関係に、いつしか本物の感情が芽生えていく?

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?