無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第三部

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夕飯と入浴をすませて、リビング。
迅さんとソファに並んで座って、旅行雑誌と式場パンフを広げてる。
テーブルには迅さんが淹れてくれたハーブティー。

俺はページをめくりながら、ワクワクしたような気分。
「迅さん、リゾート婚もいいなって思ってたけど……
橘さんと啓さんのとこは赤ちゃんもいるから、遠いと……ね?」

「そうだな。俺も、まだ小さい赤ちゃんを連れ出させるのは気が引ける……な」

「なら、都内か……近くの海のそばがいいな」

「直樹は、海、好きなんだな」

「うん。青い空と白いチャペルと……
ガーデンで、風が気持ちよくて、絶対きれいだろうなぁって。
俺、泣いちゃうかも」
結婚式しているとこを想像してると、自分で言いながら、なんか泣きそうになる、
迅さんが笑ってそっと頭を撫でてくれる。

「泣くのは当日まで取っておけよ」
笑いながら、だけど、とても優しい目をしてる。
「ううぅ……。でも幸せで、自然と出ちゃうんだよ」

「知ってる。
まぁ、“幸せで泣く直樹”は、俺のご褒美だから」
迅さんが真顔でそんなことを言うから、俺は顔じゅう真っ赤になって、固まってしまう。

「……っ、そんなこと言われたら……
泣いちゃいますけど……」
迅さんは笑いながら
「だから、当日泣けばいいから。今泣くな」

穏やかな夜。
二人だけの空気が甘くてやさしい。


また別の日。
「お父さんとお母さん、弟にも来てもらおうと思ってる。
家族にも、ちゃんと見てほしいから」
結婚式の招待客についての話。
迅さんは式場のパンフレットを見ながら、
「うん」
「迅さんは……橘さんと、啓さん一家でいいの?」

迅さんは少し目を伏せて、けれど穏やかに微笑む。
「ああ。
俺には“家族と呼べる人”は、あの二人だけだから」
俺は迅さんにくっついて、
「……うん。
でも俺も迅さんの家族だからね」

迅さんは優しい笑みで髪を撫でてくれる。
言葉少なめだけど、全部伝わってくる。

それから、式場のパンフレットにあるタキシードの写真を見えた。

「迅さん、衣装、どうしましょうか?」
俺はまたワクワクして、迅さんに聞く。
迅さんは俺の顔を面白そうに見ている。

「……おそろいもいいし、色違いもいいし……
白も黒もグレーも、いいなぁ……」
迅さんが笑いをこらえて、
「全部着れば?」
「えー、むりだよ!」
「直樹なら何でも似合うから、決められないし、着たいの着ればいいよ」

迅さんがそんなこと言うから、じわっと嬉しくなる。
「……もう、困らせてるのは迅さんだよ……」

「俺は、直樹が“着たい”って思うものがいい。
でも……」
「でも?」

迅さんは俺の顔を見て、
「白いタキシードも、一度は着てほしい」

「……!」

不意打ちだよ……!
胸がいっぱいになる。
「……着る。
だって、迅さんが見たいって言ってくれたから」

「ありがとう」

「でも黒いのも着たい……」
小声で言うと、迅さんは俺の頭を撫でながら即答。
「前撮りで両方着よう」


「……あぁ、幸せだなぁ……」
俺はソファに座り直してしみじみ言う。
迅さんも
「俺もだよ」

笑い合って、肩を寄せて、静かな夜にふたりの息が重なる。


“ふたりで未来を決めていく”
ただそれだけで、胸が満ちていく夜だった。


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