無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第三部

II

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日曜日。
街は休日らしい、柔らかな空気。

俺たちは紙袋を二つ抱えて、歩いてる。
中身はベビー服、ガラガラ、名前入りスタイ。
俺は初めて行ったベビー用品のお店で、楽しくなってしまい、あれもこれも、と全然選べなかった。

「この小さい服、かわいいですよ!」
「哺乳瓶て、こんなに種類があるんですね!」
「おもちゃ、かわいい、これがいいですよ!」

結局、迅さんが選んでくれたものから
「どっちがいいかな?」と店で悩み続け、
最終的に迅さんが決めた。

「直樹、楽しかったか」
店から出ると、迅さんが聞いてきたので、
「はい、めっちゃ楽しかったです!」
俺は頷いた。


ふたりで笑いながら、
白いタイルのマンションエントランスへ。

オートロック、フロント付き、
ゆったりしたラウンジに花が生けてある。

俺は、少し背伸びする気持ちで
「……こういうところ、いいな……」
と、胸の中で密かに未来を想像する。

ピンポン。
インターフォンを押して、エレベーターで上がる。
玄関前でもう一度、ピンポン。

しばらくして、玄関が開いて、出てきたのは啓さん。
「いらっしゃい、来てくれてありがとう!どうぞ」

リビングに行くと、大きな窓があって、明るい陽射しが刺してる。
柔らかいソファ、
赤ちゃん用マットとおもちゃ。
清潔で、温かい空気。

生後半年の赤ちゃんがぷくぷく。
啓さんに抱かれ、きょとんとした大きな目でこっちを見てる。

「わぁ……大きくなったね。それに……かわいい……」
俺が赤ちゃんのことをずっと見てたら、啓さんが
「抱っこしてみる?」

「え、いいの?じゃあ……」
啓さんは赤ちゃんを俺の腕にのせてくれた。

啓さんが手を離して、赤ちゃんの重さが腕に伝わる。
俺は顔がふわっと優しくなり、頬がほころぶ。

「あう~」
赤ちゃんは笑ってくれた。

「はぁぁ……かわいい……」
俺は迅さんに赤ちゃんを見せてあげるように向きを変える。
迅さんは俺の方見て、嬉しそうにしてる。

そしたら、啓さんが
「うちの子もかわいいけどさ……白鷹さん、直樹くん見すぎじゃない?(笑)」
て笑ってた。

迅さん、微妙に耳が赤い。
俺も少し恥ずかしかった。

ソファに座り、紅茶が並んで、赤ちゃんの成長アルバムを見せてもらう。
柔らかい穏やかな時間。

ふと、迅さんが口を開く。

「……この間、入籍したよ」

「えっ……!やっぱりそうなんだね!おめでとう!!」

橘さんもキッチンから出てきて、しみじみとひと言。

「……よかったな、迅。これで安心だな」

「ああ、心配かけたな、橘」

「お前の家庭、いろいろ大変だったからな。
直樹くんが……お前の“家族”になってくれて、俺は嬉しいよ」

俺が照れくさそうに笑って頭を下げる。
迅さんが
「……直樹のために、結婚式を挙げたいと思ってる」

「いいね、素敵。うちはね、親族だけでリゾートでやったよ。そのまま旅行もして……いい思い出だよ」

啓さんはそう言って、スマホで写真を見せてくれる。
白いチャペル、青い海、花冠、笑顔。

俺は、ニコニコ顔で
「きれい……すてきですね!」

喉の奥で何かあたたかいものが鳴る。
“自分もこんな風に、迅さんと並べたら”
未来の自分たちを想像してたら胸がいっぱいになった。

「直樹くんの衣装、何が似合うかなぁ。
白いスーツ?それともタキシード?」
啓さんが俺を見ながら言うから、俺は、わたわた……
「えっ……わ、わかんない……」

迅さんが
「……白も黒も似合うだろ。
当日まで俺も見たくない」
照れながら即答するから、なんか、ずるい。

俺は耳まで真っ赤だし。

赤ちゃんが直樹の指をにぎる。
「……ふふ」

幸せが胸いっぱい。


橘さんと啓さんが、玄関までお見送り。

そしたら橘さんが真顔で、ぽつり。
「結婚式するんなら……」
続けて、ニヤリと。
「それまで妊娠すんなよ。
ドレス(もしくはタキシード)が台無しになるぞ」

「っっっ……!?//////」
俺は耳まで真っ赤になって、紙袋をぎゅっと抱える。

啓さんが慌てて、
「翔ちゃん、ちょっ、言い方!
“授かり婚も素敵だけど、写真映り考えて計画的にね♡”でしょ」
言いながら、少し吹き出してる。

「や、やめてください……!!」
俺は言うけど、迅さんは後ろでほんのり微笑んでる。

「まぁ……幸せになれよ」

「はい!」

柔らかな夕方の光。
手を繋いで帰るふたり。

心があったかくて、足取りが自然とそろう。


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