魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

文字の大きさ
1 / 65

1.出会い

しおりを挟む
雨と泥に濡れた森。
もはやオオカミの群れは壊滅状態だった。
仲間の呻きや魔獣の咆哮は、雨にかき消され、静寂の中に散らばった叫びだけが残る。

「……全滅か……」
側近の兵士が重苦しく呟く。
「魔王さま、あの子たちは……」

その時、別の兵士が叫んだ。
「子どものオオカミが一匹、逃げてったぞー!」

視線を追うが、雨に濡れ、暗い森の中を走る小さな影はあっという間に消えた。
「足が速いな……追えない」
兵士たちは皆、唖然と立ち尽くす。

それから魔王軍は魔獣の残党を掃討し、森を荒らす影を完全に消す。
側近が問いかける。
「逃げたオオカミはどうしますか?」
ゼファールは冷静に答える。
「森の中だ。もうどうしようもない」

こうして魔王軍は帰還し、雨に濡れた森に静寂が戻った。
ただ、まだ小さな命が、森のどこかに息を潜めている――

魔王軍は帰還し、魔王城近くの森まできた。
ゼファールは、微かに漂うオオカミの匂いに気づく。

「森へ寄っていく。皆は先に戻れ」
ゼファールは一人歩き出した。

黒っぽい毛並み、濡れた体、小さな足――
走り抜けていった姿が脳裏に浮かぶ。

匂いを追って森に分け入ると、そこには弱々しく震える、泥まみれの子オオカミの姿があった。

「……あのオオカミか」

青灰色の小さな体が、倒れたまま動かない。
細く震える耳、泥まみれの毛。
金色の瞳は半分閉じられ、力なく呼吸するだけ。

ゼファールは静かに近づき、膝をついて観察する。
「……まだ生きている」

手袋を外し、慎重に子オオカミを抱き上げる。
体の小ささ、震え、濡れた毛……すべてが瀕死の子オオカミの証。
「落ち着け。もう安全だ」

そのまま、抱き上げると外套で包み、魔王城へ連れていく。
ふかふかのクッションの上に寝かせ、小さな毛布をかけて、暖炉のそばに寝かせる。
ゼファールは手で静かに毛を撫でる。
「……生き延びろ。お前は生きなければならない」

ゼファールは子オオカミの息づかいを確認すると、部屋に控える側近のカリオンに
「この子を頼む」
と言い残して、先程の討伐の後片付けに向かった。


子オオカミの意識がゆっくりと戻る。
暖かい、柔らかな寝心地、いい匂いのする毛布、見慣れない天井――

「……ここ……?」

小さく唸る。
体はまだ震え、耳と尻尾を逆立てて威嚇する。
でもその声はかすれ、牙も小さい。

部屋に戻ったゼファールは子オオカミの様子をじっと見ていた。

目覚めた子オオカミに、そっと膝をつき、手を差し出す。
「怖がるな。もう外の危険はない」

子オオカミは一瞬目をそらす。
「……く、くんな……!」

だが体が小さく、怯えているだけで、ゼファールが抱きしめた瞬間に逃げられる力は残っていない。
ゼファールは優しく抱き上げ、胸に押し当てる。

温かさと安心感に、子オオカミの尻尾がわずかに揺れる。
唸り声は弱まり、金色の瞳がゼファールを見上げる。

「私はゼファール、魔王だ。
お前、名は何という」
「……リュカ」

リュカと答える子オオカミの目を見て、ゼファールは
“この小さな命を、守らなければ――”
と感じた。


リュカは小さく唸りながら、まだ震える体を毛布で包まれる。
「……く、くんな……!」
威嚇はするものの、その小さな体は暖かさにすぐ安心してしまう。

ゼファールがそっと膝をつき、温かいミルクを差し出す。
「さあ、飲むがよい、体を温めないと」
「こ、子ども扱いすんな……」
リュカは小さく唸りつつも、ひと舐めすると止まらない。
ペロペロとミルクを飲むリュカの尻尾がわずかに揺れ、耳が少し下がる。

飲み終わると、ゼファールは静かに立ち上がる。
「疲れているだろう、今日はよく休め」
リュカはふぅと息を吐き、まだ半分警戒しながらも横になる。
ゼファールに毛布をかけてもらうと、クンクンと匂いを嗅ぎ、その匂いに安心してすぐに眠ってしまった。


ゼファールはリュカを自分の寝台まで連れて行くと、
自分の隣に寝かせ、自身も眠りについた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

死神は結婚生活が楽しすぎて探し物をすぐ忘れる

ユーリ
BL
「俺たち本当の夫婦になろうな」 駆除対象である死神に出された条件は、なんと結婚! 死神は生きるためにその条件を飲むけれどーー 「お前と結婚してよかった」生かす代わりに結婚を条件に出した悪魔×突然変異で生まれた死神「僕の鎌知りませんか!?」ーー死神は落とした鎌を探そうとするけれど、悪魔との結婚生活が楽しくてすぐに忘れてしまい…。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在―― いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? 「俺のものになって」 「ちょっと、この子を独占しないでよ」 「お前こそ」  ちょっと困るって!   これは、法的事案だよ……! *** ※男主人公をめぐる逆ハーレムあり ※法廷・ミステリーパートの描写あり(基本理解できる範囲になっております) 以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。36話まで1日3回(11時半、15時半、19時半)予約投稿済みです。

チョコレートがつなぐ二つの世界

一ノ瀬麻紀
BL
憧れの先輩に渡せなかったチョコレートを持ったまま、異世界に転移した天音(アマネ) 突然知らない世界に迷い込んだ天音に手を差し伸べてくれたのは、流れの冒険者のアランだった。 初めは戸惑っていた天音も、アランのおかげでこの不思議な世界にも慣れ、充実した日々を過ごしていた。 けど、そんな平和な日々は突然終わりを告げた。 突如として現れた光に包まれ、天音は気づいたら元の世界に戻っていた――。 チョコレートがつなぐ、二人の物語です。 Xにツイノベとして公開したものを改稿しました。 結構変わっているので、ツイノベで読んだ方にも楽しんでもらえると思います。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

処理中です...