魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

文字の大きさ
24 / 65

24.ゼファ、来て

しおりを挟む
「リュカ!!」

ゼファが駆け寄ると同時に、
リュカはよろめきながら人型に戻り、
そのままゼファの胸に倒れこんだ。

「っ……ゼ……ファ……」

小さな声。
震える手がゼファの服を掴む。

ゼファは強く抱きしめた。

「よくやった……よく俺を呼んだ……!!
怖かっただろう……リュカ……!」

胸に顔を押しつけ、
リュカの魔力を包み込むように抱きしめる。

リュカの強張っていた心が、
一気にほどけていく。

(ゼファ……来てくれた……
ぼくを……選んでくれた……)

リュカの瞳から涙がぽろりと落ちた。


安全を確保したルーシアは、
ふたりを見つめて息を呑んだ。

(……あの子……)

自分のために魔力を使い、
兄上を呼び寄せた。

兄上は、
その魔力に吸い寄せられるように戻って来た。

そしてリュカを抱きしめた瞬間に
空気が震えた。

(……兄上とこの子は……繋がっている……
血筋でも魔族の位でもない……
もっと深い何かで……)

ルーシアの胸に、静かな尊敬が生まれた。

――リュカ……あなたは……兄上の隣にふさわしい


魔力暴走の一件がおさまり、ようやく魔導師たちが後処理に入った頃。
ルーシアはゆっくりとリュカの前に歩み寄る。

ふて寝から戻ったばかりのリュカはまだゼファールの腕の中にいて、目を合わせづらくて顔をそむけている。

ゼファールは事情をほぼ理解しておらず、
「リュカ、落ち着いたか?」
と優しくリュカの背を撫でているだけ。

そんな兄とリュカの距離に、ルーシアはようやく確信する。

(……ああ。兄上とこの子は、こうして呼び合っているんだ)

そして、ルーシアは少し姿勢を正してリュカに話しかけた。

「……リュカ。
先ほどは、助けてくれてありがとう。」

リュカはびくっとして、ゼファールのマントの影に隠れる。
人見知りの獣の子そのもの。
でも、耳がぴくっと動いているので聞いているのは確か。

ルーシアは微笑む。

「君の魔力、綺麗だったよ。
兄上の魔力と同じ色をしていた。……まるで呼び合うみたいに。」

その言葉に、リュカの耳がさらにぴくっと跳ねた。

ルーシアは続ける。

「初めて見たとき、私は君を獣扱いをしてしまった。
兄上にまとわりつく得体の知れない存在だと……そう思っていた。」

リュカの肩が小さく震え、しゅんとする。

「でも違った。
君は兄上を想い、兄上のために魔力を整え、学び、訓練して……
今日だって、兄上を呼ぶために、自分を傷つけながら魔法陣を繋げた。」

ルーシアは少し声を落として、素直に頭を下げた。

「認めるよ。
……君は、兄上の隣に立つ資格がある」

リュカは驚いたようにルーシアを見た。

喉の奥で小さく「……ん」と鳴く。
まだツンの割合が多くて、素直に「ありがとう」なんて言えないけれど、
その尻尾は正直に揺れていた。


二人の空気がようやく和らいだ瞬間、
ゼファールがぽん、とリュカの腰を抱き寄せた。

「よかった。やっとちゃんと挨拶できたな。
ルーシア、お前も無事で何よりだ。
ミレーニアも大丈夫か?」

……完全に雰囲気を読んでいない。

リュカはゼファールに寄りかかり、
「……ゼファ、帰る……」
とつぶやく。

この言葉を聞いた瞬間、ゼファールは全部を理解した気になってうんうん頷く。

「よし。じゃあ帰るか。」

ルーシアとミレーニア、魔導師、侍従たちが
「えっ!? ちょっ……兄上!? 報告は——」
と慌てるのも気にせず、

ゼファールはそのままリュカを抱えて部屋へ向かって歩き出す。

リュカはゼファールの胸にぎゅっと顔を埋め、
久しぶりに満たされたように喉を鳴らす。


ぽかんと見送るルーシアたち。
魔導師の一人がぽつりとつぶやく。

「……しばらく、戻ってこないですね」

「ええ。今日はもう、邪魔しない方がいいでしょうね」

「あの子、あれだけゼファール様を想って……かわいらしいものですね」

ルーシアは苦笑しながら肩をすくめる。

「まったく……。
兄上も、どうしてこんなにややこしい子を好きになったのか……」
「ほんとにそうね」

だがその声には、もう嘲りも見下しもなかった。

ただ、弟として妹としての優しいあたたかさだけがあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

死神は結婚生活が楽しすぎて探し物をすぐ忘れる

ユーリ
BL
「俺たち本当の夫婦になろうな」 駆除対象である死神に出された条件は、なんと結婚! 死神は生きるためにその条件を飲むけれどーー 「お前と結婚してよかった」生かす代わりに結婚を条件に出した悪魔×突然変異で生まれた死神「僕の鎌知りませんか!?」ーー死神は落とした鎌を探そうとするけれど、悪魔との結婚生活が楽しくてすぐに忘れてしまい…。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在―― いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? 「俺のものになって」 「ちょっと、この子を独占しないでよ」 「お前こそ」  ちょっと困るって!   これは、法的事案だよ……! *** ※男主人公をめぐる逆ハーレムあり ※法廷・ミステリーパートの描写あり(基本理解できる範囲になっております) 以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。36話まで1日3回(11時半、15時半、19時半)予約投稿済みです。

チョコレートがつなぐ二つの世界

一ノ瀬麻紀
BL
憧れの先輩に渡せなかったチョコレートを持ったまま、異世界に転移した天音(アマネ) 突然知らない世界に迷い込んだ天音に手を差し伸べてくれたのは、流れの冒険者のアランだった。 初めは戸惑っていた天音も、アランのおかげでこの不思議な世界にも慣れ、充実した日々を過ごしていた。 けど、そんな平和な日々は突然終わりを告げた。 突如として現れた光に包まれ、天音は気づいたら元の世界に戻っていた――。 チョコレートがつなぐ、二人の物語です。 Xにツイノベとして公開したものを改稿しました。 結構変わっているので、ツイノベで読んだ方にも楽しんでもらえると思います。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...