魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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25.久しぶりのゼファ

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魔王城の奥、ゼファールの私室。

扉を閉めた途端、ゼファールは腕の中にいたリュカをそっと床に下ろす。
「リュカ、大丈夫か?」

リュカは一瞬だけゼファールを見上げた。
ほっとしたように瞳が揺れ、次の瞬間、ふわりと毛が生え、青灰色のオオカミの姿へと変わる。
そして、さっきまでの不安を取り返すように
ゼファールの足元へすりすり、もふっと頭を押しつけた。

ゼファールの目が緩む。
「……かわいいやつだ」

リュカは、今の今まで拗ねて、嫉妬して、怖くて、ずっと張りつめていた心をゼファールに預けるように、
胸元へ飛び乗り、鼻先でもそもそと匂いを確かめる。

ゼファールは重さも気にせず、ソファに腰掛けて
リュカの背をゆっくり撫でた。
手に触れる毛並みは、相変わらず柔らかい。
魔力が安定している時のリュカは、絹のように滑らか。
「……やっと、帰ってきてくれたな。
最近はルーシアやミレーニアの相手ばかりで、寂しかっただろ。」

リュカは耳をへにょっと倒して、
ゼファールの膝の上でもぞりと寝返り、まるで声の代わりに尻尾で返事をする。

──久しぶりに、安心して甘えられる。

その気持ちがそのままゼファールに伝わるようで、
ゼファールは微笑みながらリュカを抱きしめた。

やがてリュカはゼファールの腕の中でまどろみはじめ、ゆっくりと寝息を立てた。

「……おやすみ、リュカ」
ゼファはその小さな頭を撫でながら、静かに目を細めた。



騒動の発生した魔王城の深部。
魔力の渦のあった場所を調査しているカリオンの元へ、ルーシアが歩み寄った。

カリオンは軽く礼をする。
「ルーシア殿、ミレーニア殿、ご無事で何よりです。
魔力の暴走について、少しお話を伺えれば」

「私は平気だ。だが……あれはリュカの魔力が干渉したのだな」
「私も大丈夫。リュカくんから伸びた魔力がお兄さまを召喚したのかしら」

カリオンは苦笑した。

「ええ。まだ魔力の制御が未熟なため感情に左右されてしまいます。
でも、悪意ではありません。
ゼファ様を呼ぶため、必死だったのだと思います。
あの子は……本当に、ゼファ様を慕っております」

ルーシアは少し遠い目をする。
「……そういうことか。
なるほど、あれだけ避けられたわけだ」

「避けられた……というより、
リュカ殿は、怖かったのだと思いますよ、あなたたちとか自分の立場とか能力とか……」

ルーシアが驚いて目を瞬かせる。
「怖い? 私が?」

「ルーシア殿の第一印象は、あの子から見れば、圧の強い敵に見えたのでしょう」

ルーシアが苦笑する。
「……昔から、初対面で怖がられる。」

カリオンはにこやかに続けた。
「リュカ殿の扱いなら、アルド殿が最も上手ですが……
好きな相手の弟なんですから、時間が解決してくれますよ」

ルーシアは、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「……そうなるといいな」



その夜の私的晩餐。

長いテーブルではなく、丸卓。
ゼファールの提案で、わざと距離が近くなる配置にしてある。

ゼファールの右隣にリュカ。
左にルーシア、向かい側がミレーニア。

料理が運ばれ、しばらく和やかな沈黙が流れた後、
ルーシアが静かに口を開いた。
「……なあ、リュカ。
君は……オオカミの群れの、生き残りだと聞いた」

リュカはスプーンを握りながら、こくんとうなずく。
ゼファールが横から補足する。

「森で偶然出会った。最初は全身傷だらけで……
ここに来てからは俺のあとをずっとついてきたんだ」

ゼファールの言葉にリュカは照れくさそうに、無言でスプーンを動かす。

ミレーニアがゼファールとリュカの方を見ながらたずねる。
「お兄さまがオオカミになって森を走ったと聞きましたけど、……本当なんですか?」

リュカは少し恥ずかしそうにしながらも、
「……うん。ゼファ、すごく速い。風みたいだった」
と小声で答える。

ゼファールはどこか誇らしげ。
「お前がついてきたからだ。
あの森では、俺ひとりだけより、お前が隣にいるほうが速いぞ」

リュカの耳が赤く染まり、スプーンがふるふる震えた。

ルーシアはその様子を眺め、ふっと笑う。
「本当に……君は兄上が、兄上は君が、好きなのだな」

リュカは言葉を返さず、代わりにゼファの袖をそっとつまんだ。
その仕草がもう答えだった。

続けて、ルーシアが自分の思い出話を語る。

「兄上は昔から孤立していた。
魔力量が桁違いで、誰も近づけなかったから。
だが……君には近づいていくのだな」

リュカはモジモジしながらも、ゼファのほうを見上げる。
ゼファは苦笑してリュカの頭をくしゃっと撫でた。
「当たり前だ。
俺は……こいつの傍がいちばん心地いいからな」

リュカは耳を伏せて、尻尾をちょこんと揺らしながら
「……そば、いる」
と小さな声で返した。

ルーシアは、そのやり取りを見て、柔らかく笑う。
「……やっぱり君で良かったよ、リュカ」
「ええ、リュカくん、お兄さまをよろしくね」

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