魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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26.また来てね

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魔力暴走の一件から少しして、ゼファが腕を組んで一言。
「……お前たち、いつまで仕事をサボっているんだ」

ルーシアは「むっ」としつつも、どこか楽しそうに微笑み、
ミレーニアは分かりやすく肩をすくめて笑う。

「仕事は滞りなくやってますよ。でも、兄上が言うなら、そろそろ帰ります」

「そうね、リュカくんの邪魔ばっかりしてたら嫌われちゃうしね~」

リュカはちょっと照れて耳がぺたり。
「また遊びにきて……」

リュカがぼそっと言うと、耳聡く聞いていたミレーニアがニカって笑う。
「……かわいい!」
ミレーニアはゼファールを見て、
「お兄さまが夢中になるのもわかる気がする」

ゼファールが咳払いして、リュカを抱きよせる。
「こらっ、あんまりリュカを見るな」
リュカは尻尾がボワってなって、恥ずかしくてゼファールに顔を押しあててる。

それから外に出ると、ルーシアとミレーニアはそれぞれの方法で飛竜を呼んだ。
ルーシアとミレーニアは飛竜に乗り、
翼を広げた飛竜が風を巻き起こす。

リュカは目を輝かせて、竜を見上げる。

「お兄さま、たまには王都にも来てね」
兄妹は手を振って、空へ飛び去っていった。



飛竜の消えていった空を見つめながら、
リュカはぽつりと言う。
「……僕も、龍に乗りたい」

ゼファは横目で見て、ふっと笑う。

「なら……少し散歩でもするか。飛竜で」

リュカの耳と尻尾がぱっと立つ。

ゼファは指笛を――
ピーッ
と短く鋭く吹く。

すると、どこからともなく風を切る音がして
黒銀の飛竜が大きな翼を広げ、風を巻き上げながら地面に降り立った。
黄金の瞳を細めてゼファールを見下ろすその姿は、野生の威厳に満ちているが――
ゼファールの前ではまるで従順な犬のように静かだ。

リュカは目を輝かせて近づき、そっと鼻先を撫でる。
「ほんとうに来た……!……きれい。大きい……すごい……!」

ゼファールは得意げになり、竜の鞍に手を置きながら、リュカを竜へエスコートする。
「こいつは俺の呼び方を覚えてるからな。
乗れ、前だ、リュカ。手綱は俺が持つ」

リュカはこくんと頷き、鞍に軽々とよじ登る。
そのすぐ後ろからゼファが乗り、
大きな腕がリュカの両脇を通って手綱を握る。

リュカは自然とゼファの胸に背中を預けた。
「……あったかい」

ゼファールがニヤリとしながら、
「落ちるなよ」

飛竜がひとつ地を蹴り──
次の瞬間、大きく翼を広げて空へ駆け上がった。


風が耳元で唸り、髪が後ろへ流れる。
リュカの瞳は驚きと喜びでいっぱいだ。

ゼファールが指で方向を示す。

「見ろ。あの辺りは、昔は瘴気だらけで近寄れなかったんだぞ」

今は光に包まれた緑の海のような森。
自然が生き返ったように輝いている。

「こんなにきれいなのに……?」
リュカが不思議そうに言う。

「浄化するのに半年かかった。俺が最初に降り立ったのも、あの場所だ」
指差された地点。
大地に走る深い爪跡のような窪みが、まだわずかに残っている。

リュカはゼファールの腕に身を預けながら聞く。
「ゼファが、一人で?」

ゼファールは淡々と頷く。
「魔物も多かった。……あそこには、大型の獣が巣を作っていた」

飛竜が滑らかに旋回し、
その巣跡の上空をゆっくりと回る。

リュカは少し身震いする。
だがすぐに、後ろから抱き込むゼファの腕の暖かさで安心が広がる。
「……ゼファって、すごいんだね」

ゼファールは苦笑気味。
「そうか?」

こつん、とリュカがゼファールの胸に頭を寄せる。
「うん。すごい。かっこいい」

風よりも早く、ゼファールの呼吸が一瞬止まった。


しばらくして、ゼファールがふと呟く。
「……いずれ、お前も龍と契約できるかもしれんな」

「ぼくも? 龍と?」
リュカはわくわくする。

「魔力が安定して、感情の制御が上手くなればな。飛竜は賢い。気に入った相手にしか従わないんだ」

リュカは小さくどきどきしながら胸に手を当てる。
「……気に入ってもらえるかな。ぼく」

ゼファールは言い切った。
「大丈夫だ。お前なら、きっと選ばれる」

その言い方があまりにも自然で、力強くて──
リュカの胸がじんわり熱くなった。

飛竜は再び高く舞い上がり、
二人を乗せてグレイヴモーラの青空を滑るように駆けた。


突然、山の裂け目から強い突風が吹き上がった。

「わっ……!!」

リュカの身体が前に投げ出されそうになった瞬間、
ゼファールの片腕がぎゅっとリュカの胸の前に回り込み、
もう片手で手綱を引き、飛竜を素早く安定させる。

「大丈夫だ。落ちるわけない。俺がいるだろ」
低くて落ち着いた声が、背中越しに響く。
その声の振動がリュカの背に伝わって、鼓動が跳ねる。
胸の奥がよくわからないまま熱くなる。

リュカは、ゼファールの腕の力強さと、背中に感じる温度で動けなくなる。
「……ゼファ、あったかい……」
怖くてドキドキしてるのか、よくわからないけど、リュカはそのあたたかさに包まれて、幸せだった。
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