魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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27.空から見たグレイヴモーラ

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しばらく飛んでいると、緑の森とは似つかわしい所にきた。
瘴気の残り香を求めて徘徊する鳥型魔獣が、急降下して二人に襲いかかってきた。

ゼファールはリュカを片腕で抱き込んだまま、
腰の短剣だけを抜き、体をほとんど動かさずに空中で一閃。

魔獣は悲鳴をあげる暇もなく霧のように散っていった。

「……す、すご……」

ゼファールはいつものように淡々と鞘に収める。
「この辺りはまだ残党がいる。怖かったか?」

リュカは首を横にふる。
でも心臓は速くて、胸の中がざわざわしている。
「こ、怖くない……ゼファがいるから」

ゼファールはふっと小さく笑う。
「ならいい」

ゼファールの微笑みを見た瞬間、
理由も分からず、リュカの顔がほんのり赤くなる。

さっきから、自分でもよくわからない気持ち。
恋と言うには幼すぎて、でもただの憧れと言い切るには胸が熱い。

そのよくわからない初めての感情が、
風といっしょにリュカの胸に残る。


飛竜はゆるやかに谷の高みを滑るように進む。
下に広がる大地は、緑が戻った場所もあれば、灰色のままの地帯もあり、
そのコントラストが復興途中の世界であることを物語っていた。

リュカはゼファールの腕に支えられながら、
眼下の景色を食い入るように見つめる。
「……ひろいんだね、ここ。
ぼくたちが普段いるところだけじゃなくて、まだまだ先があるんだ」

「ああ。ここから向こうの稜線まで——
あっちはまだ瘴気が濃い。魔物の巣も残ってる」

ゼファールの指差す先は、薄く白い靄が揺らいでいる。
そこだけ時間が止まったように荒れたままだ。
「遠征でだいぶ減らしたが、まだ開拓は途上だ。
……まあ、急ぐ必要はない。少しずつ回復してきてる」

風がふわりと二人の髪を揺らす。
飛竜は低く鳴き、旋回して安全な区域の方へ戻る。

しばらく沈黙があった。
リュカは足元に広がる森を見ながら、ぽつりと言った。
「……いずれ、ぼくも手伝えるのかな。
ゼファといっしょに、森をきれいにしたり……開拓したり」

ゼファールの腕が、ほんのわずかにきゅっと力をこめる。
「もちろんだ。
いつかお前が望むなら、いくらでも手伝ってもらう」

「……ほんとに?」

「ああ。
お前は魔力も勘も良い。いずれ竜とも契約できるかもしれんな。
その時は——もっと遠くまで、一緒に行ける」

リュカは胸があたたかくなって、思わず振り向きかける。
振り返ればゼファの顔がすぐそこにあるので、またドキッとして前を向いた。
「……一緒に、か。
それ、なんか……へんな感じ。嬉しいけど」

ゼファは穏やかに笑う。
「焦らなくていい。
お前ができることは、ゆっくり増えていく」

風が頬をなで、二人の影を大地に落とす。
――いまはまだ安全な範囲だけ。
でもその先には、未来の二人が立つかもしれない場所が広がっている。


飛竜でひと回りして、遠くに魔王城が見えてきたころ、リュカがふいに振り向く。
「……ゼファ。少し、森を走ってみたい」

ゼファールは驚いたように目を細め、すぐにうなずく。
「いいぞ。ここなら安全だ。
飛竜はあそこに待機させておく」

飛竜はゼファの指笛に応えて、近くの大岩の上で翼を休める。
リュカはぱっとオオカミの姿に変わり、
草を踏む音も軽やかに、森の中へ走り出した。

ゼファールも後を追い、
しばらくは木立の間を並んで駆けた。

しばらく走ると、木々の雰囲気が変わる。
生い茂った草、見覚えのある巨木、浅い川の跡。

オオカミの姿のリュカが懐かしむように、走るスピードを緩める。
「……ここ、覚えてる。
ぼくが住んでた森の、端っこのほう……」

ゼファールも周囲を見回して、静かに言う。
「ああ。あのとき俺が浄化したのは、もう少し南側だな。
……ここは、まだお前の匂いが残ってる」

リュカは人の姿に戻り、しばらく静かに立つ。
風が梢をゆらし、
朝からずっと胸に溜まっていた感情が、ふっとあふれた。

リュカは空に向かって、小さく手を合わせる。
「父さん、母さん……僕、がんばるね。
ちゃんと、ゼファと一緒に、前に進むよ」

祈りというより、報告に近かった。
それでも森は温かく答えるように風をそよがせた。

ゼファールは少し離れた場所で黙って見守り、
その姿がまるで家族の代わりに聞き届けているようだった。


リュカが振り返って笑う。
「ゼファ、湖、あるんだ。行ってもいい?」

「もちろんだ」

二人で歩くと、小さな湖が陽を受けて輝いている。
水面には雲が映り、静かに波打っていた。

靴を脱いで水辺に座るリュカ。
足先をちゃぷっとつけて、気持ちよさそうに目を細める。
「……なんか、不思議。
前はここにひとりで来てたのに、今はぜんぜん違う気持ち」

「これからは、お前が望むだけ変わっていく。
森も、お前自身もだ」

ゼファの言葉は優しいのにどこか誇らしげで、
リュカは胸の奥がじんと熱くなった。

少し休んで、湖の水を手にすくって顔を冷やしたあと、ゼファールが手を差し出す。
「戻るか。飛竜がそろそろ飽きてる」

「うん!」


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