28 / 33
28.ゼファとただいま
しおりを挟む
飛竜はゼファールの指笛に応えるように翼をひらき、
二人を乗せてまた空へ飛び立つ。
下に広がる森は、
過去の居場所とこれから変わっていく未来が入り混じっている。
リュカはゼファールの腕に寄りかかりながら、小さくつぶやく。
「……帰ろう、ゼファ」
「ああ。家に戻るぞ」
ゼファールの家という言葉にリュカが微笑む。
飛竜は光の中へ吸い込まれるように、グレイヴモーラの空を飛んで、魔王城へと戻っていった。
夕刻。
夕焼けを背に、飛竜が城の中庭に降り立つと、
すでにカリオンが腕を組んで待っていた。
「——おふたりとも、やっとお戻りですか」
リュカはゼファールに手を引かれて降り、
さっきまでの素直でしんみりモードが嘘のように、
すぐピシッと背中を伸ばす。
「べ、別に!遊んでたわけじゃないし!
ちゃんとゼファと、その……勉強にもなる話してたんだよ!」
カリオンは目を細め、明らかに「はいはい」という顔をしている。
「……リュカ殿はえらいですね」
リュカはツンツンしながら、
「その言い方なんかヘン! ほんとに勉強してたんだよ!グレイヴモーラの領地、見てきたんだ!」
カリオンは少しだけ笑って、
「……ですが今日はもう遅いです。
明日は今日、周った領地の復習をいたしましょう。
しっかり休まないと頭に入りませんからね」
その言葉に、リュカはほっと安堵する——が、
すぐにプイっと横を向いて強がる。
「べつに……どっちでもいいけど。
あしたのほうが効率いいだけだから」
ゼファがその横で小さく苦笑する。
その直後、カリオンは冷たい視線をゼファに向ける。
「……ゼファール陛下。仕事が溜まっています。
ルーシア殿たちが来てから、ほとんど仕事をされてません」
ゼファールは一瞬で顔をそむけた。
「………まぁ、その……多少は」
「明日から爆速で処理してください。いいですね?」
「……はぁ。了解だよ」
ゼファールとカリオンのやりとりに、リュカはくすっと笑ってしまう。
さっきまで森で頼れる背中だったゼファールが、
カリオンの前だと妙に肩身が狭くなっている。
「ゼファ、がんばれ~。
ぼくも……明日から勉強、一緒にがんばろ」
ゼファールは笑って、
「おう。お互いにな」
久しぶりの二人だけの夕食が終わり、
ゼファールが部屋へ戻ろうとしたとき——
リュカが少しそわそわした様子で袖を引いた。
「……あのさ。ゼファ。
今日は……その……一緒に寝ようよ」
ゼファールは一瞬きょとんとして、すぐ穏やかに笑う。
「珍しいな。
……怖い夢でも見そうか?」
リュカはぷいっと顔をそむける。
「ちがうよ!
今日は、なんか……その……いろいろあったから」
――ゼファと空を飛んで、森を走って、
父さんと母さんに話して、
帰ってきてほっとして……。
なんかひとりで寝たくない。
ゼファールには、そんな気持ちが、顔に全部書いてあるのがわかった。
リュカの頭を優しく撫でる。
「ああ。いいぞ。
……じゃあ一緒に風呂に入ってから寝るか」
リュカは嬉しそうに笑って、
「うん!」
浴室に入ると、リュカはぱっとオオカミに変身する。
湯気の中でふわっと毛並みが膨らみ、
ゼファールは苦笑しつつもタオルを手に取った。
「完全にモフる気だな」
オオカミの姿のリュカは
「……だめ?」
金色の目で見上げてくる。
ゼファールは抵抗もせず、むしろ降参するように笑う。
「だめなわけあるか」
ごしごし……と優しく体を洗われ、
リュカは
「うへへ……」と情けない声を漏らす。
人型のときは恥ずかしくて絶対言えないのに、
オオカミになった瞬間、甘えん坊になる。
ゼファールもそんなリュカに肩の力が抜けていった。
リュカの部屋は、ゼファールの部屋と隣り合っていた。
つい昨日まで遠かった部屋がまた近づいた気がする。
リュカはゼファールの部屋の扉を開けた。
ふわりとゼファールの香りがする。
ベッドに上がったリュカは、
人に戻ることなくオオカミの姿のまま丸くなる。
ゼファールがその背に腰を下ろすと、
リュカがもぞもぞと寄ってきて、
胸元に頭をすりつけてきた。
「……おい、近すぎる」
「ん……やだ……」
オオカミの姿のリュカはゼファールの顔を見上げる。
(今日は離れたくない)
言葉にはしないけれど、尻尾の先が小さく揺れて、その気持ちを伝えていた。
ゼファールはため息をつきながらも、
その首をゆっくりと撫でてやる。
「……はいはい。今日は特別だ」
リュカはそのまま、
ゼファールの腕の中で穏やかな寝息を立て始める。
ゼファールは天井を見ながら小さくつぶやいた。
「……まったく。
お前が素直だと、俺のほうが困るんだがな」
けれど声色には優しさしかなく、
触れる手つきも何よりも丁寧だった。
夜は静かに更けていった。
二人を乗せてまた空へ飛び立つ。
下に広がる森は、
過去の居場所とこれから変わっていく未来が入り混じっている。
リュカはゼファールの腕に寄りかかりながら、小さくつぶやく。
「……帰ろう、ゼファ」
「ああ。家に戻るぞ」
ゼファールの家という言葉にリュカが微笑む。
飛竜は光の中へ吸い込まれるように、グレイヴモーラの空を飛んで、魔王城へと戻っていった。
夕刻。
夕焼けを背に、飛竜が城の中庭に降り立つと、
すでにカリオンが腕を組んで待っていた。
「——おふたりとも、やっとお戻りですか」
リュカはゼファールに手を引かれて降り、
さっきまでの素直でしんみりモードが嘘のように、
すぐピシッと背中を伸ばす。
「べ、別に!遊んでたわけじゃないし!
ちゃんとゼファと、その……勉強にもなる話してたんだよ!」
カリオンは目を細め、明らかに「はいはい」という顔をしている。
「……リュカ殿はえらいですね」
リュカはツンツンしながら、
「その言い方なんかヘン! ほんとに勉強してたんだよ!グレイヴモーラの領地、見てきたんだ!」
カリオンは少しだけ笑って、
「……ですが今日はもう遅いです。
明日は今日、周った領地の復習をいたしましょう。
しっかり休まないと頭に入りませんからね」
その言葉に、リュカはほっと安堵する——が、
すぐにプイっと横を向いて強がる。
「べつに……どっちでもいいけど。
あしたのほうが効率いいだけだから」
ゼファがその横で小さく苦笑する。
その直後、カリオンは冷たい視線をゼファに向ける。
「……ゼファール陛下。仕事が溜まっています。
ルーシア殿たちが来てから、ほとんど仕事をされてません」
ゼファールは一瞬で顔をそむけた。
「………まぁ、その……多少は」
「明日から爆速で処理してください。いいですね?」
「……はぁ。了解だよ」
ゼファールとカリオンのやりとりに、リュカはくすっと笑ってしまう。
さっきまで森で頼れる背中だったゼファールが、
カリオンの前だと妙に肩身が狭くなっている。
「ゼファ、がんばれ~。
ぼくも……明日から勉強、一緒にがんばろ」
ゼファールは笑って、
「おう。お互いにな」
久しぶりの二人だけの夕食が終わり、
ゼファールが部屋へ戻ろうとしたとき——
リュカが少しそわそわした様子で袖を引いた。
「……あのさ。ゼファ。
今日は……その……一緒に寝ようよ」
ゼファールは一瞬きょとんとして、すぐ穏やかに笑う。
「珍しいな。
……怖い夢でも見そうか?」
リュカはぷいっと顔をそむける。
「ちがうよ!
今日は、なんか……その……いろいろあったから」
――ゼファと空を飛んで、森を走って、
父さんと母さんに話して、
帰ってきてほっとして……。
なんかひとりで寝たくない。
ゼファールには、そんな気持ちが、顔に全部書いてあるのがわかった。
リュカの頭を優しく撫でる。
「ああ。いいぞ。
……じゃあ一緒に風呂に入ってから寝るか」
リュカは嬉しそうに笑って、
「うん!」
浴室に入ると、リュカはぱっとオオカミに変身する。
湯気の中でふわっと毛並みが膨らみ、
ゼファールは苦笑しつつもタオルを手に取った。
「完全にモフる気だな」
オオカミの姿のリュカは
「……だめ?」
金色の目で見上げてくる。
ゼファールは抵抗もせず、むしろ降参するように笑う。
「だめなわけあるか」
ごしごし……と優しく体を洗われ、
リュカは
「うへへ……」と情けない声を漏らす。
人型のときは恥ずかしくて絶対言えないのに、
オオカミになった瞬間、甘えん坊になる。
ゼファールもそんなリュカに肩の力が抜けていった。
リュカの部屋は、ゼファールの部屋と隣り合っていた。
つい昨日まで遠かった部屋がまた近づいた気がする。
リュカはゼファールの部屋の扉を開けた。
ふわりとゼファールの香りがする。
ベッドに上がったリュカは、
人に戻ることなくオオカミの姿のまま丸くなる。
ゼファールがその背に腰を下ろすと、
リュカがもぞもぞと寄ってきて、
胸元に頭をすりつけてきた。
「……おい、近すぎる」
「ん……やだ……」
オオカミの姿のリュカはゼファールの顔を見上げる。
(今日は離れたくない)
言葉にはしないけれど、尻尾の先が小さく揺れて、その気持ちを伝えていた。
ゼファールはため息をつきながらも、
その首をゆっくりと撫でてやる。
「……はいはい。今日は特別だ」
リュカはそのまま、
ゼファールの腕の中で穏やかな寝息を立て始める。
ゼファールは天井を見ながら小さくつぶやいた。
「……まったく。
お前が素直だと、俺のほうが困るんだがな」
けれど声色には優しさしかなく、
触れる手つきも何よりも丁寧だった。
夜は静かに更けていった。
11
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。
絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」!
畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。
はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。
これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
毎日更新
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる