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29.オルフェンと魔導師の部屋
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昨夜は久しぶりに、ゼファールもリュカもぐっすり眠れた。
飛竜での空中散歩の余韻が残る朝、リュカは元気よくゼファールの横を歩く。
「今日からまた勉強だな」
「うん。ゼファがそばにいるから平気だよ」
ゼファールは照れながら、リュカの頭を軽く撫でた。
ゼファールが机に向かって、数日分の仕事を片付けようとした瞬間。
――コンコン。
入ってきたのは、宰相 オルフェン。
平凡な外見で注意を引かないが、その目だけは鋭い。
手には分厚い書類の束。
「ゼファ殿。たまには息抜きも結構だ、……しかし――」
机に ドサァッ と置かれる書類。
「こうも毎日サボってばかりでは、仕事が山のように溜まる一方ですぞ」
ゼファールは露骨に顔をそむける。
「……まぁ、リュカが来たから仕方ないだろ」
「理由になりませぬ。領主としての自覚を持ってください」
横でリュカがオロオロ。
「ご、ごめんなさい。ゼファの邪魔しちゃった?」
「リュカのせいじゃない。オルフェンが厳しすぎるんだ」
「厳しい? 当然です。だれかさんが働かぬ間、私とカリオンで全部片付けていたのですから」
「……カリオン、余計なこと言ったな」
オルフェンは咳払いし、表情を和らげてリュカのほうを向いた。
「私はオルフェン。ゼファ殿の母上の従兄弟にあたり、魔王城では父親代わりのようなものです。
政治や領地運営のことなど、あなたにも必要なことは私がお教えしましょう」
リュカはほっとして笑った。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、お二人とも――」
オルフェンはゼファを鋭く指差した。
「働くように!」
そう言い残して去っていった。
ゼファールはうなだれた。
オルフェンが出ていった後、今度はカリオンが静かに入室。
「リュカ殿、本日もよろしくお願いいたします。
ここは魔王陛下の執務室ですので」
「うん、がんばる!」
ゼファは書類の山に囲まれながら、二人を横目で見やる。
「……なんか、俺だけ働かされてないか?」
「ゼファ殿がサボった分ですよ」
カリオン。
リュカはゼファールに小声で囁く。
「終わったら、一緒にお茶しよ?」
ゼファールの顔が途端に緩む。
「……仕方ねぇ。早く終わらせるか」
結局、リュカのひとことが一番の効果だったり……。
こうしてまた、ゼファール・リュカ・カリオンの三人での勉強の日々が始まった。
リュカがペンを持って、カリオンから出された課題に悪戦苦闘していると、扉の外から控えめなノックが聞こえた。
「リュカ殿、アルド様がお呼びです」
若い魔導師の声に、リュカが顔を上げる。
「え……僕?」
すると、ゼファールがすぐに立ち上がる。
「俺も行く。あいつら、この前の暴走のこと根掘り葉掘り聞くんだろうし——」
しかし、カリオンがゼファの襟をつまんで引き止めた。
「ゼファール様はこちらでお仕事です」
「……お前、それなぁ」
「事実ですので」
ゼファールが渋い顔をする。
その横では、リュカが不安げにゼファールの袖を握っている。
「ゼファ……」
ゼファールはその手をそっと包み返した。
「怖くねえよ。アルドは優しいし、俺がすぐ呼ばれたら行くから。
終わったら戻ってこい。夕飯のときは一緒だ」
リュカは小さくうなずき、若い魔導師に連れていかれた。
ゼファールは仕事の書類を睨んでいて、落ちつかない。
「……マジで心配なんだけど」
「心を鬼にしてください」
カリオンは書類から目を離さずに注意した。
アルドの研究室に着くと、魔導師たちがざわつきながらリュカを迎えた。
「こちらが例の、魔力暴走を——」
「こんなに細いのに……?」
「触らない! まだ安定していない!」
見慣れない魔導師たちが何人もいて、自分を見てゴソゴソ喋っているから、リュカはおどおどしてしまう。
「ひ、ひとりずつ喋って……」
アルドが軽く指を鳴らし、全員を黙らせた。
「リュカ、怖くない。今日は確認だけだよ。
暴走の原因……たぶん魔力の器が急に大きくなったんだ」
アルドはリュカに目線を合わせるように、屈んで言う。
「……器?」
リュカがアルドを見上げる。
「魔力を入れておく袋みたいなもの。
君は急に袋が大きくなって、中身の魔力が暴れ出してる状態」
説明の後、リュカは部屋の奥へ案内されて、魔力の流れを測ったり、魔力の量を見たり、
さらに身体検査までされたりした。
「うー……くすぐったい……」
魔導師たちは至って、まじめだが、リュカには少し大げさに見えた。
それからアルドから、
「じゃあ、魔力の流し方を教えるよ」
と魔力制御の練習を始めた。
しかしアルドから、教えられた方法でやってみても、
「……あれ? 魔力、全然うまく動かない……」
「うーん、違うね……もっと肩の力を抜いて……」
「ぬ、抜いてるんだけど……分かんない……」
何度やっても魔力が暴れたり、途中でピタッと止まったり。
アルドはそれを簡単にやって見せるのに、リュカは全然うまくいかない。
リュカはしょんぼりしてしまう。
「アルド……僕、どうすれば……?」
アルドは優しく肩に手を置いた。
「君は魔力の体質が特殊だから、一般的な方法は合わないかもしれないね。
……ゼファ様に聞くのが一番かもね」
すると、リュカの目がぱっと明るくなった。
「ゼファとなら、できそう……!」
「今は仕事中だから夕食のとき聞くといいよ。
ゼファ様の魔王の魔力は君と相性がいいから、それなら、きっと安定するよ」
「うん! そうする!」
リュカは笑って、胸を張った。
飛竜での空中散歩の余韻が残る朝、リュカは元気よくゼファールの横を歩く。
「今日からまた勉強だな」
「うん。ゼファがそばにいるから平気だよ」
ゼファールは照れながら、リュカの頭を軽く撫でた。
ゼファールが机に向かって、数日分の仕事を片付けようとした瞬間。
――コンコン。
入ってきたのは、宰相 オルフェン。
平凡な外見で注意を引かないが、その目だけは鋭い。
手には分厚い書類の束。
「ゼファ殿。たまには息抜きも結構だ、……しかし――」
机に ドサァッ と置かれる書類。
「こうも毎日サボってばかりでは、仕事が山のように溜まる一方ですぞ」
ゼファールは露骨に顔をそむける。
「……まぁ、リュカが来たから仕方ないだろ」
「理由になりませぬ。領主としての自覚を持ってください」
横でリュカがオロオロ。
「ご、ごめんなさい。ゼファの邪魔しちゃった?」
「リュカのせいじゃない。オルフェンが厳しすぎるんだ」
「厳しい? 当然です。だれかさんが働かぬ間、私とカリオンで全部片付けていたのですから」
「……カリオン、余計なこと言ったな」
オルフェンは咳払いし、表情を和らげてリュカのほうを向いた。
「私はオルフェン。ゼファ殿の母上の従兄弟にあたり、魔王城では父親代わりのようなものです。
政治や領地運営のことなど、あなたにも必要なことは私がお教えしましょう」
リュカはほっとして笑った。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、お二人とも――」
オルフェンはゼファを鋭く指差した。
「働くように!」
そう言い残して去っていった。
ゼファールはうなだれた。
オルフェンが出ていった後、今度はカリオンが静かに入室。
「リュカ殿、本日もよろしくお願いいたします。
ここは魔王陛下の執務室ですので」
「うん、がんばる!」
ゼファは書類の山に囲まれながら、二人を横目で見やる。
「……なんか、俺だけ働かされてないか?」
「ゼファ殿がサボった分ですよ」
カリオン。
リュカはゼファールに小声で囁く。
「終わったら、一緒にお茶しよ?」
ゼファールの顔が途端に緩む。
「……仕方ねぇ。早く終わらせるか」
結局、リュカのひとことが一番の効果だったり……。
こうしてまた、ゼファール・リュカ・カリオンの三人での勉強の日々が始まった。
リュカがペンを持って、カリオンから出された課題に悪戦苦闘していると、扉の外から控えめなノックが聞こえた。
「リュカ殿、アルド様がお呼びです」
若い魔導師の声に、リュカが顔を上げる。
「え……僕?」
すると、ゼファールがすぐに立ち上がる。
「俺も行く。あいつら、この前の暴走のこと根掘り葉掘り聞くんだろうし——」
しかし、カリオンがゼファの襟をつまんで引き止めた。
「ゼファール様はこちらでお仕事です」
「……お前、それなぁ」
「事実ですので」
ゼファールが渋い顔をする。
その横では、リュカが不安げにゼファールの袖を握っている。
「ゼファ……」
ゼファールはその手をそっと包み返した。
「怖くねえよ。アルドは優しいし、俺がすぐ呼ばれたら行くから。
終わったら戻ってこい。夕飯のときは一緒だ」
リュカは小さくうなずき、若い魔導師に連れていかれた。
ゼファールは仕事の書類を睨んでいて、落ちつかない。
「……マジで心配なんだけど」
「心を鬼にしてください」
カリオンは書類から目を離さずに注意した。
アルドの研究室に着くと、魔導師たちがざわつきながらリュカを迎えた。
「こちらが例の、魔力暴走を——」
「こんなに細いのに……?」
「触らない! まだ安定していない!」
見慣れない魔導師たちが何人もいて、自分を見てゴソゴソ喋っているから、リュカはおどおどしてしまう。
「ひ、ひとりずつ喋って……」
アルドが軽く指を鳴らし、全員を黙らせた。
「リュカ、怖くない。今日は確認だけだよ。
暴走の原因……たぶん魔力の器が急に大きくなったんだ」
アルドはリュカに目線を合わせるように、屈んで言う。
「……器?」
リュカがアルドを見上げる。
「魔力を入れておく袋みたいなもの。
君は急に袋が大きくなって、中身の魔力が暴れ出してる状態」
説明の後、リュカは部屋の奥へ案内されて、魔力の流れを測ったり、魔力の量を見たり、
さらに身体検査までされたりした。
「うー……くすぐったい……」
魔導師たちは至って、まじめだが、リュカには少し大げさに見えた。
それからアルドから、
「じゃあ、魔力の流し方を教えるよ」
と魔力制御の練習を始めた。
しかしアルドから、教えられた方法でやってみても、
「……あれ? 魔力、全然うまく動かない……」
「うーん、違うね……もっと肩の力を抜いて……」
「ぬ、抜いてるんだけど……分かんない……」
何度やっても魔力が暴れたり、途中でピタッと止まったり。
アルドはそれを簡単にやって見せるのに、リュカは全然うまくいかない。
リュカはしょんぼりしてしまう。
「アルド……僕、どうすれば……?」
アルドは優しく肩に手を置いた。
「君は魔力の体質が特殊だから、一般的な方法は合わないかもしれないね。
……ゼファ様に聞くのが一番かもね」
すると、リュカの目がぱっと明るくなった。
「ゼファとなら、できそう……!」
「今は仕事中だから夕食のとき聞くといいよ。
ゼファ様の魔王の魔力は君と相性がいいから、それなら、きっと安定するよ」
「うん! そうする!」
リュカは笑って、胸を張った。
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