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37.王都へ
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朝。
魔王城の前庭には、見送りに来た面々がずらりと並んでいた。
ガイル、アルド、魔導師たち、侍女や騎士団の兵士たちまで――
みんなゼファールよりもむしろ、リュカの方を心配そうに見ているよう。
「リュカ、王都では気ぃつけろよー!
ゼファから絶対離れるんじゃねぇぞ!」
ガイルが大声で言い、
その後ろでも騎士団の仲間たちがわかりやすく頷いていた。
「は、はいっ……!」
リュカが背筋を伸ばして頷く。
アルドが杖を肩にトントンと乗せながら、ニヤッと片眉を上げて、リュカを見る。
「リュカ。――王妃様と第一王子には気ぃつけとけよ?
お前、顔に出るタイプだからな」
リュカがむっと睨むと、アルドは手をひらひらさせて笑う。
「はいはい、怒んなって。ヤバそうだったら、魔力でゼファに合図しろよ。
あいつ、お前のことだと秒で飛んでくるだろうから」
軽口を叩きつつも、アルドの目はどこか兄貴らしく心配している。
「ま、無茶すんなよ。お前はお前のまんまでいいんだ」
カリオンたち、馬車組はすでに前日に出ており、
今朝はゼファールとリュカがゆっくり朝食を取ってからの出発だった。
それでも馬車隊が王都に着くのは
明日か明後日になるだろう。
ゼファールは皆を見回し、短く告げる。
「――じゃあ、留守を頼んだぞ」
「お任せください!」
「城は我らが守ります!」
温かい声が一斉に返ってきた。
飛竜の巨大な翼が風を巻き起こし、
リュカの髪をふわりと揺らす。
ゼファールが手を差し出す。
「行くぞ、リュカ」
リュカは小さく頷き、ゼファの腕に抱かれるようにして、飛竜の背に乗った。
次の瞬間、
黒飛竜は空高く舞い上がった。
飛竜の上で、空の冷たい風が肌を打つ。
しかし、ゼファールの腕がしっかりとリュカを支えていた。
眼下には、見慣れた城と森が広がっていく。
しばらくして、ゼファールがふっと横目でリュカを見る。
「……よくここまでついてきたな、リュカ」
「え? な、なに……」
「森でただ走っていたオオカミだったおまえが、
今は俺の隣に立って、堂々と剣を振り、勉強も、礼儀も、全部頑張ってる」
ゼファールの声は、風の中でもはっきり聞こえた。
「立派だ。胸を張れ」
リュカの胸が熱くなる。
ずっと不安だった。
王都でゼファールの隣に立つことなんて、
自分には不釣り合いじゃないかと思っていた。
「……ぼ、僕は……
ただ、ゼファの近くにいたくて……それだけで……」
「それでいい。それだけで、おまえは十分すぎるほど頑張ってる」
ゼファールの言葉は、風よりも温かくて、心にすとんと落ちた。
リュカはそっとゼファの背に寄りかかる。
ゼファールはその頭に手を置き、撫でる。
「王都に着いても――俺の後ろにいればいい。
守るのは俺の役目だ」
「……うん」
安心したように目を細め、リュカはゼファールに体重を預けた。
青い空を、飛竜は滑るように進んでいく。
二人だけの、静かで温かい空の旅だった。
飛竜の背で揺られるうちに、リュカはいつのまにかゼファールの胸に抱き寄せられたまま眠ってしまっていた。
ゼファールは腕の中のリュカを見下ろし、喉の奥で小さく笑う。
「……こんなとこで寝れるなんて、大物だな、お前は」
風を切る音の中で言う声はどこか嬉しそうだ
しばらくして、ゼファールがリュカの肩を軽く揺らす。
「……おい、王都が見えてきたぞ」
ゆっくり目を開いたリュカの視界に、夕陽を受けて煌めく王都の街並みが広がった。
家々の屋根も城壁も川面も、すべてが金色に染まって輝いている。
「……きれい……」
息を呑むリュカの横で、ゼファールは満足げに小さく笑う。
王都の中心、王宮を囲む高い白壁が見えてくると、
リュカはゼファールの腕の中で、胸がきゅっと縮むのを感じた。
空に向かって開かれた飛竜専用の発着場である飛竜塔が魔力の風が渦を巻いていて、飛竜たちが降り立てるように常に空気の流れが整えられている。
「リュカ、しっかりつかまってろよ」
「う、うん……」
飛竜が翼をすぼめ、塔の円形プラットフォームへゆっくりと降下していく。
石畳が近づくにつれ、風が巻き込み、マントが激しくはためく。
ドン……!
着地の振動が足に伝わる。
同時に、控えていた従者たちが一斉にひざをつき、頭を垂れた。
「第二王子ゼファール殿下──ご帰還、心よりお待ちしておりました」
リュカは思わずゼファールの背に隠れた。
王宮の空気は、辺境とはまるで違った。
きらめく装飾、きっちり並ぶ制服、漂う緊張。
全てが王の居場所だった。
「兄上!」
聞き慣れた声の方を見ると、ルーシアが駆け寄ってきて、ミレーニアもすぐ後ろに続いた。
「おかえり、お兄さま。……リュカも、一緒に来たんだね」
ミレーニアが微笑むと、リュカは少しほっとして顔を出した。
「う、うん。お、遅くなってごめん」
「大丈夫。王都は初めてでしょ?緊張しなくていいよ」
しかし、従者たちの視線はチラチラとリュカへ向かう。
ヒト型ではあるが、頭の上の耳や大きなもふもふの尻尾が見える、一見わからない正体。
でもゼファールが一歩前に出て、淡々と言い切った。
「この子は俺の客だ。失礼のないように」
その一言で空気が一瞬で引き締まる。
誰も彼もが直立し、深々と頭を下げた。
リュカはゼファールの袖をそっと引っ張る。
「……ぜ、ゼファ。なんか……怖い」
「平気だ。俺がいる」
ゼファはそれだけ言うと、手を差し伸べる。
リュカの小さな手がその中にすっぽり収まる。
「さあ、王宮へ行こう。まずは国王陛下への挨拶だ」
塔の階段へ向かう二人。
その背中を見送りながら、ルーシアがぽつりとつぶやいた。
「兄上、相変わらず大事にしてる……」
ミレーニアも小さく微笑む。
「……しょうがないね、あれはお兄さまの特別なんだもの」
風の吹き抜ける飛竜塔で、
誰よりも緊張しているリュカと、
彼を守るように歩くゼファールの姿があった──。
魔王城の前庭には、見送りに来た面々がずらりと並んでいた。
ガイル、アルド、魔導師たち、侍女や騎士団の兵士たちまで――
みんなゼファールよりもむしろ、リュカの方を心配そうに見ているよう。
「リュカ、王都では気ぃつけろよー!
ゼファから絶対離れるんじゃねぇぞ!」
ガイルが大声で言い、
その後ろでも騎士団の仲間たちがわかりやすく頷いていた。
「は、はいっ……!」
リュカが背筋を伸ばして頷く。
アルドが杖を肩にトントンと乗せながら、ニヤッと片眉を上げて、リュカを見る。
「リュカ。――王妃様と第一王子には気ぃつけとけよ?
お前、顔に出るタイプだからな」
リュカがむっと睨むと、アルドは手をひらひらさせて笑う。
「はいはい、怒んなって。ヤバそうだったら、魔力でゼファに合図しろよ。
あいつ、お前のことだと秒で飛んでくるだろうから」
軽口を叩きつつも、アルドの目はどこか兄貴らしく心配している。
「ま、無茶すんなよ。お前はお前のまんまでいいんだ」
カリオンたち、馬車組はすでに前日に出ており、
今朝はゼファールとリュカがゆっくり朝食を取ってからの出発だった。
それでも馬車隊が王都に着くのは
明日か明後日になるだろう。
ゼファールは皆を見回し、短く告げる。
「――じゃあ、留守を頼んだぞ」
「お任せください!」
「城は我らが守ります!」
温かい声が一斉に返ってきた。
飛竜の巨大な翼が風を巻き起こし、
リュカの髪をふわりと揺らす。
ゼファールが手を差し出す。
「行くぞ、リュカ」
リュカは小さく頷き、ゼファの腕に抱かれるようにして、飛竜の背に乗った。
次の瞬間、
黒飛竜は空高く舞い上がった。
飛竜の上で、空の冷たい風が肌を打つ。
しかし、ゼファールの腕がしっかりとリュカを支えていた。
眼下には、見慣れた城と森が広がっていく。
しばらくして、ゼファールがふっと横目でリュカを見る。
「……よくここまでついてきたな、リュカ」
「え? な、なに……」
「森でただ走っていたオオカミだったおまえが、
今は俺の隣に立って、堂々と剣を振り、勉強も、礼儀も、全部頑張ってる」
ゼファールの声は、風の中でもはっきり聞こえた。
「立派だ。胸を張れ」
リュカの胸が熱くなる。
ずっと不安だった。
王都でゼファールの隣に立つことなんて、
自分には不釣り合いじゃないかと思っていた。
「……ぼ、僕は……
ただ、ゼファの近くにいたくて……それだけで……」
「それでいい。それだけで、おまえは十分すぎるほど頑張ってる」
ゼファールの言葉は、風よりも温かくて、心にすとんと落ちた。
リュカはそっとゼファの背に寄りかかる。
ゼファールはその頭に手を置き、撫でる。
「王都に着いても――俺の後ろにいればいい。
守るのは俺の役目だ」
「……うん」
安心したように目を細め、リュカはゼファールに体重を預けた。
青い空を、飛竜は滑るように進んでいく。
二人だけの、静かで温かい空の旅だった。
飛竜の背で揺られるうちに、リュカはいつのまにかゼファールの胸に抱き寄せられたまま眠ってしまっていた。
ゼファールは腕の中のリュカを見下ろし、喉の奥で小さく笑う。
「……こんなとこで寝れるなんて、大物だな、お前は」
風を切る音の中で言う声はどこか嬉しそうだ
しばらくして、ゼファールがリュカの肩を軽く揺らす。
「……おい、王都が見えてきたぞ」
ゆっくり目を開いたリュカの視界に、夕陽を受けて煌めく王都の街並みが広がった。
家々の屋根も城壁も川面も、すべてが金色に染まって輝いている。
「……きれい……」
息を呑むリュカの横で、ゼファールは満足げに小さく笑う。
王都の中心、王宮を囲む高い白壁が見えてくると、
リュカはゼファールの腕の中で、胸がきゅっと縮むのを感じた。
空に向かって開かれた飛竜専用の発着場である飛竜塔が魔力の風が渦を巻いていて、飛竜たちが降り立てるように常に空気の流れが整えられている。
「リュカ、しっかりつかまってろよ」
「う、うん……」
飛竜が翼をすぼめ、塔の円形プラットフォームへゆっくりと降下していく。
石畳が近づくにつれ、風が巻き込み、マントが激しくはためく。
ドン……!
着地の振動が足に伝わる。
同時に、控えていた従者たちが一斉にひざをつき、頭を垂れた。
「第二王子ゼファール殿下──ご帰還、心よりお待ちしておりました」
リュカは思わずゼファールの背に隠れた。
王宮の空気は、辺境とはまるで違った。
きらめく装飾、きっちり並ぶ制服、漂う緊張。
全てが王の居場所だった。
「兄上!」
聞き慣れた声の方を見ると、ルーシアが駆け寄ってきて、ミレーニアもすぐ後ろに続いた。
「おかえり、お兄さま。……リュカも、一緒に来たんだね」
ミレーニアが微笑むと、リュカは少しほっとして顔を出した。
「う、うん。お、遅くなってごめん」
「大丈夫。王都は初めてでしょ?緊張しなくていいよ」
しかし、従者たちの視線はチラチラとリュカへ向かう。
ヒト型ではあるが、頭の上の耳や大きなもふもふの尻尾が見える、一見わからない正体。
でもゼファールが一歩前に出て、淡々と言い切った。
「この子は俺の客だ。失礼のないように」
その一言で空気が一瞬で引き締まる。
誰も彼もが直立し、深々と頭を下げた。
リュカはゼファールの袖をそっと引っ張る。
「……ぜ、ゼファ。なんか……怖い」
「平気だ。俺がいる」
ゼファはそれだけ言うと、手を差し伸べる。
リュカの小さな手がその中にすっぽり収まる。
「さあ、王宮へ行こう。まずは国王陛下への挨拶だ」
塔の階段へ向かう二人。
その背中を見送りながら、ルーシアがぽつりとつぶやいた。
「兄上、相変わらず大事にしてる……」
ミレーニアも小さく微笑む。
「……しょうがないね、あれはお兄さまの特別なんだもの」
風の吹き抜ける飛竜塔で、
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彼を守るように歩くゼファールの姿があった──。
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