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36.剣術大会が終わって
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剣術大会が終わって、リュカはまたカリオンとの勉強をゼファの執務室でするようになった。
「ねぇ、カリオン。何でまた、マナーとかやんないといけないの」
書取りの練習しながらリュカがたずねると、カリオンはペンを走らせながら答える。
「来週には王都に行くんですよ、リュカ殿。
王宮にはマナーに厳しい方が大勢いらっしゃいます。ゼファ様に恥をかかせないでくださいね!」
ゼファールは珍しく仕事しながら、
「リュカは俺の後ろに隠れてれば、大丈夫だ」
ニコニコしている。
「……か、隠れないよ、僕、大丈夫だ!」
強がりリュカに二人は苦笑いしながら、カリオンが言う。
「なら、もう少しマナーの勉強がんばりましょう」
なんだかんだで二人にいいように転がされてる気がするが、リュカも楽しんでいた。
そこへ、やってきたのは。
「リュカ~、いるか?」
騎士団の鎧を着たままのガイル。
執務室に入るなり、リュカに近づき、勧誘を始める。
「リュカ、やっぱり騎士団に入らないか?」
すると、ゼファールが
「リュカは騎士団になんか、やんねえ!」
怒ったように言う。
また嫉妬してる……、ガイルは苦笑いしながら、
「剣術大会三位だぞ、その素質は本物だぞ」
リュカはガイルの言葉に頷きながら
「剣、面白いなって思ったし…ちょっと興味あるかも」
と話すと、ゼファールは表情を曇らせる。
「だめだ。リュカ、おまえは俺の側にいろ」
ゼファールの言い方が恋人を取られた男のようで、
ガイルも「あっ…これは無理だ」と悟って引き下がる。
結局、ガイルがリュカの個人コーチとして定期的に稽古をつける、という落としどころで、決着した。
ガイルはリュカお気に入りなので、ゼファールは複雑。
リュカはリュカで、ガイルに褒められると嬉しそうにしている。
ゼファールは嫉妬は膨らむばかりだった。
マナーの勉強は執務室にいる時ばかりではない。
もちろん、食事の時間もあるわけで。
「む、むずかしい…食器多すぎ…」
王宮でのディナーに準じたような献立が並んでいる。
いつもなら目を輝かせるリュカも、マナーの勉強となると、そうも言ってられなくなる。
「全部覚えなくていい。俺が見てるから」
ゼファールがリュカの方を見ながら言う。
すると、カリオンがゼファールにひと言。
「……殿下。リュカ殿が自立できるようにも配慮を」
ゼファールは聞いているのか、
「俺が見る」
カリオンは頭を抱えて、
(全然聞いてない…)
と嘆いていた……。
夜。
ゼファールの部屋で、リュカが当たり前のようにゼファールにくっついている。
ゼファールの胸に頭を預けながら、ふと不安そうに尋ねる。
「ゼファ……王都って、怖くない?」
ゼファールはその柔らかい髪を撫でながら、少し迷ってから言う。
「大丈夫だ、と言いたいが……注意しろ。
特に、王妃と第一王子にはな」
「……王妃さま? ゼファのお兄さん?」
「そうだ。あの二人は俺を敵対している。
だからリュカ、一人では会うなよ」
低く、真剣に。
その声音に、リュカはぴたりと動きを止める。
リュカはカリオンの話を思い出す。
――王妃さまはゼファを辺境に追いやったんだ。
――第一王子は、有能なゼファが邪魔だった。
胸の奥がきゅっとなる。
ゼファールはリュカの肩を抱き寄せる。
「心配するな。おまえは俺が守る。
ただ……おまえの身に指一本触れさせたくないんだ」
その言い方が、あまりに優しくて、
リュカは小さく頷く。
「……うん。ゼファの言うこと、守る」
ゼファの胸元にぴったり寄り添っていたリュカは、
王都の話の不安が少し消えたからか、息がゆっくり穏やかになっていった。
ゼファはその変化を感じ取り、
腕の中の小さな体をそっと抱き寄せる。
「……リュカ。
おまえがそばにいると、俺も安心するんだ」
リュカはふにゃっとした声で返事をした。
眠りに落ちかけているとき特有の、柔らかい声。
「ん……ゼファぁ……」
ゼファの胸に頬をこすりつけるようにして、
甘ったれた子どものようにすり寄ってくる。
その仕草が可愛くて、
ゼファは思わず髪に口づけた。
「……寝ろ、リュカ。ここは安全だ」
リュカの体がゆるんでいく。
力が抜け、指先がゼファの服を離れて、
ぽすん、とゼファの腕の中に沈み込む。
次の瞬間――
ふわり、と淡い光がリュカを包んだ。
毛並みが生え、耳がぴくりと立ち、
尻尾がもぞもぞとゼファの腰を撫でる。
眠ると自然にオオカミへと戻る姿。
ゼファはその変化に、もうすっかり慣れていて、
「可愛いな……」と小さく笑った。
大きな青灰色のオオカミが、
まるで子犬のように丸まってゼファの腹に頭を置く。
ゼファはその頭を撫でる。
指がふかふかの毛並みを梳くたび、リュカの尻尾が嬉しそうに揺れる。
完全に無意識の幸せの反応。
「……リュカ。
王都なんて、どうでもいいくらい……
俺にとっておまえは大事なんだぞ」
返事はない。
代わりに、オオカミのリュカが鼻先をゼファに押しつけた。
ゼファは目を細めて、その鼻先に指を添える。
「離れない。何があっても守る。だから……安心して眠れ」
まるで子を守るように、
オオカミになったリュカを抱きしめたまま、
ゼファはゆっくりと目を閉じた。
静かで、温かくて、
互いの鼓動がぴたりと重なる夜だった。
「ねぇ、カリオン。何でまた、マナーとかやんないといけないの」
書取りの練習しながらリュカがたずねると、カリオンはペンを走らせながら答える。
「来週には王都に行くんですよ、リュカ殿。
王宮にはマナーに厳しい方が大勢いらっしゃいます。ゼファ様に恥をかかせないでくださいね!」
ゼファールは珍しく仕事しながら、
「リュカは俺の後ろに隠れてれば、大丈夫だ」
ニコニコしている。
「……か、隠れないよ、僕、大丈夫だ!」
強がりリュカに二人は苦笑いしながら、カリオンが言う。
「なら、もう少しマナーの勉強がんばりましょう」
なんだかんだで二人にいいように転がされてる気がするが、リュカも楽しんでいた。
そこへ、やってきたのは。
「リュカ~、いるか?」
騎士団の鎧を着たままのガイル。
執務室に入るなり、リュカに近づき、勧誘を始める。
「リュカ、やっぱり騎士団に入らないか?」
すると、ゼファールが
「リュカは騎士団になんか、やんねえ!」
怒ったように言う。
また嫉妬してる……、ガイルは苦笑いしながら、
「剣術大会三位だぞ、その素質は本物だぞ」
リュカはガイルの言葉に頷きながら
「剣、面白いなって思ったし…ちょっと興味あるかも」
と話すと、ゼファールは表情を曇らせる。
「だめだ。リュカ、おまえは俺の側にいろ」
ゼファールの言い方が恋人を取られた男のようで、
ガイルも「あっ…これは無理だ」と悟って引き下がる。
結局、ガイルがリュカの個人コーチとして定期的に稽古をつける、という落としどころで、決着した。
ガイルはリュカお気に入りなので、ゼファールは複雑。
リュカはリュカで、ガイルに褒められると嬉しそうにしている。
ゼファールは嫉妬は膨らむばかりだった。
マナーの勉強は執務室にいる時ばかりではない。
もちろん、食事の時間もあるわけで。
「む、むずかしい…食器多すぎ…」
王宮でのディナーに準じたような献立が並んでいる。
いつもなら目を輝かせるリュカも、マナーの勉強となると、そうも言ってられなくなる。
「全部覚えなくていい。俺が見てるから」
ゼファールがリュカの方を見ながら言う。
すると、カリオンがゼファールにひと言。
「……殿下。リュカ殿が自立できるようにも配慮を」
ゼファールは聞いているのか、
「俺が見る」
カリオンは頭を抱えて、
(全然聞いてない…)
と嘆いていた……。
夜。
ゼファールの部屋で、リュカが当たり前のようにゼファールにくっついている。
ゼファールの胸に頭を預けながら、ふと不安そうに尋ねる。
「ゼファ……王都って、怖くない?」
ゼファールはその柔らかい髪を撫でながら、少し迷ってから言う。
「大丈夫だ、と言いたいが……注意しろ。
特に、王妃と第一王子にはな」
「……王妃さま? ゼファのお兄さん?」
「そうだ。あの二人は俺を敵対している。
だからリュカ、一人では会うなよ」
低く、真剣に。
その声音に、リュカはぴたりと動きを止める。
リュカはカリオンの話を思い出す。
――王妃さまはゼファを辺境に追いやったんだ。
――第一王子は、有能なゼファが邪魔だった。
胸の奥がきゅっとなる。
ゼファールはリュカの肩を抱き寄せる。
「心配するな。おまえは俺が守る。
ただ……おまえの身に指一本触れさせたくないんだ」
その言い方が、あまりに優しくて、
リュカは小さく頷く。
「……うん。ゼファの言うこと、守る」
ゼファの胸元にぴったり寄り添っていたリュカは、
王都の話の不安が少し消えたからか、息がゆっくり穏やかになっていった。
ゼファはその変化を感じ取り、
腕の中の小さな体をそっと抱き寄せる。
「……リュカ。
おまえがそばにいると、俺も安心するんだ」
リュカはふにゃっとした声で返事をした。
眠りに落ちかけているとき特有の、柔らかい声。
「ん……ゼファぁ……」
ゼファの胸に頬をこすりつけるようにして、
甘ったれた子どものようにすり寄ってくる。
その仕草が可愛くて、
ゼファは思わず髪に口づけた。
「……寝ろ、リュカ。ここは安全だ」
リュカの体がゆるんでいく。
力が抜け、指先がゼファの服を離れて、
ぽすん、とゼファの腕の中に沈み込む。
次の瞬間――
ふわり、と淡い光がリュカを包んだ。
毛並みが生え、耳がぴくりと立ち、
尻尾がもぞもぞとゼファの腰を撫でる。
眠ると自然にオオカミへと戻る姿。
ゼファはその変化に、もうすっかり慣れていて、
「可愛いな……」と小さく笑った。
大きな青灰色のオオカミが、
まるで子犬のように丸まってゼファの腹に頭を置く。
ゼファはその頭を撫でる。
指がふかふかの毛並みを梳くたび、リュカの尻尾が嬉しそうに揺れる。
完全に無意識の幸せの反応。
「……リュカ。
王都なんて、どうでもいいくらい……
俺にとっておまえは大事なんだぞ」
返事はない。
代わりに、オオカミのリュカが鼻先をゼファに押しつけた。
ゼファは目を細めて、その鼻先に指を添える。
「離れない。何があっても守る。だから……安心して眠れ」
まるで子を守るように、
オオカミになったリュカを抱きしめたまま、
ゼファはゆっくりと目を閉じた。
静かで、温かくて、
互いの鼓動がぴたりと重なる夜だった。
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