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42.リュカにかけられた魔術
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式典が終わり、ゼファールは、いち早く辺境に帰りかった。
しかし、久方ぶりに王都に来たとなると、仕事がいろいろとあり、しばらくは滞在することになった。
朝、起きるとリュカは、まだオオカミの姿で寝ていた。
つい、無意識にリュカに触れようとしてしまったゼファール。
「……触らないで」
リュカが苦しそうに言う。
……なぜ、こんなに辛そうな顔をするのか。
イグナーツの術のせいなのか。
ゼファールにはわからなかった。
「今は、ゼファのそばにいたくない」
そう言うリュカは泣きそうな顔をしていた。
「……リュカ、何か術がかかってるのかもしれないな。解いてやれなくて、ごめんな……」
ゼファールはそう言うと、静かに離れた。
仕事中は、カリオンと仕事をしているが、リュカについていることができず、不本意ながらアルドを呼ぶことにした。
アルドにしらせを送ると、すぐに王宮へと来た。
アルドはリュカと仲がいい。
リュカにとっては兄貴のような存在で、リュカを弟のように接していて、そんな仲の良さがゼファールは気に食わなかった。
そんなアルドからは 、リュカと1日過ごして、
「僕といる分にはリュカは何も変わらないよ。
ゼファ様にだけ作用する魔術がかかってるね」
と言われた。
「すぐに解除を」と頼んでみたが
「僕には専門外だからね」
とアルドに一蹴されてしまう。
「イグナーツ殿下でしょ、彼の術は理屈っぽいから解除には時間かかるんだよね」
アルドに言われ、夜会のあの時か、とゼファールは考える。
――あの時、俺はイグナーツと話してたはずなのに。
リュカには、アルドやカリオンと休むように言い、ゼファールは一人で部屋に下がった。
部屋の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
灯りは最低限で、広すぎる部屋に、ゼファールはひとりだった。
――守れなかった。
その思いが、胸の奥で何度も反響する。
ベッドに腰を下ろし、手袋を外した。
指先に、まだリュカの体温の残滓を探してしまう自分がいる。
アルドの言葉は、嫌というほど正確だった。
「ゼファ様にだけ作用する魔術」
つまり――
リュカを変えたのではない。
自分とリュカの距離だけを歪めた術なのだ。
あの夜会。
バルコニーで、ほんの一瞬、目を離した、その隙。
(……俺が、離れた)
リュカが飲み物を取りに行くと言った時。
引き止めるべきだったんだ。
抱き寄せて、離すべきじゃなかったな。
それなのに俺は、
王子として
弟として
イグナーツの前で立ち止まってしまった。
――その結果が、これだ。
触れれば、避けられる。
触れなくても、距離を感じる。
嫌われたわけじゃない。
怖がられているわけでもない。
それが、余計につらい。
ゼファールは顔を覆った。
リュカは、何も悪くない。
覚えてすらいない。
それでも、身体だけが覚えている。
俺に触れたときの、あの微かな違和感を。
(……俺は、そんな存在だったのか)
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
リュカは、オオカミに戻った。
でも、俺のそばには来なかった。
あの背中。
撫でたときに感じた、あの嫌な感触。
リュカが小さく震えた瞬間、
ゼファールは自分の手を引っ込めた。
――触れないほうが、いい。
そう判断してしまう自分が、いちばん苦しい。
窓の外を見る。
王都の夜は静かで、何事もなかったかのようだ。
即位記念の式典は成功した。
その後の夜会も滞りなく終わった。
誰もが満足し、笑顔だった。
――俺だけが、取り残されている。
ゼファールはゆっくりと立ち上がり、
リュカの部屋の方角を見た。
(……早く、帰ろう)
辺境へ。
城壁も、王族も、イグナーツもいない場所へ。
しかし、仕事がある。
まだ動けない。
それでも――
(それでも俺は、あいつのそばにいたい)
守るためでも、役目でもない。
――ただ、そばにいなければ、息をするのが、しんどい。
ゼファは静かに呟いた。
「……もう、リュカなしでは無理だな」
答える声はない。
それでも、言葉にしなければ耐えられなかった。
王子として生きてきた時間よりも、
剣を握ってきた年月よりも、
リュカと過ごした日々の方が、
ずっと、深く――
自分の命に、食い込んでいたのだった。
しかし、久方ぶりに王都に来たとなると、仕事がいろいろとあり、しばらくは滞在することになった。
朝、起きるとリュカは、まだオオカミの姿で寝ていた。
つい、無意識にリュカに触れようとしてしまったゼファール。
「……触らないで」
リュカが苦しそうに言う。
……なぜ、こんなに辛そうな顔をするのか。
イグナーツの術のせいなのか。
ゼファールにはわからなかった。
「今は、ゼファのそばにいたくない」
そう言うリュカは泣きそうな顔をしていた。
「……リュカ、何か術がかかってるのかもしれないな。解いてやれなくて、ごめんな……」
ゼファールはそう言うと、静かに離れた。
仕事中は、カリオンと仕事をしているが、リュカについていることができず、不本意ながらアルドを呼ぶことにした。
アルドにしらせを送ると、すぐに王宮へと来た。
アルドはリュカと仲がいい。
リュカにとっては兄貴のような存在で、リュカを弟のように接していて、そんな仲の良さがゼファールは気に食わなかった。
そんなアルドからは 、リュカと1日過ごして、
「僕といる分にはリュカは何も変わらないよ。
ゼファ様にだけ作用する魔術がかかってるね」
と言われた。
「すぐに解除を」と頼んでみたが
「僕には専門外だからね」
とアルドに一蹴されてしまう。
「イグナーツ殿下でしょ、彼の術は理屈っぽいから解除には時間かかるんだよね」
アルドに言われ、夜会のあの時か、とゼファールは考える。
――あの時、俺はイグナーツと話してたはずなのに。
リュカには、アルドやカリオンと休むように言い、ゼファールは一人で部屋に下がった。
部屋の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
灯りは最低限で、広すぎる部屋に、ゼファールはひとりだった。
――守れなかった。
その思いが、胸の奥で何度も反響する。
ベッドに腰を下ろし、手袋を外した。
指先に、まだリュカの体温の残滓を探してしまう自分がいる。
アルドの言葉は、嫌というほど正確だった。
「ゼファ様にだけ作用する魔術」
つまり――
リュカを変えたのではない。
自分とリュカの距離だけを歪めた術なのだ。
あの夜会。
バルコニーで、ほんの一瞬、目を離した、その隙。
(……俺が、離れた)
リュカが飲み物を取りに行くと言った時。
引き止めるべきだったんだ。
抱き寄せて、離すべきじゃなかったな。
それなのに俺は、
王子として
弟として
イグナーツの前で立ち止まってしまった。
――その結果が、これだ。
触れれば、避けられる。
触れなくても、距離を感じる。
嫌われたわけじゃない。
怖がられているわけでもない。
それが、余計につらい。
ゼファールは顔を覆った。
リュカは、何も悪くない。
覚えてすらいない。
それでも、身体だけが覚えている。
俺に触れたときの、あの微かな違和感を。
(……俺は、そんな存在だったのか)
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
リュカは、オオカミに戻った。
でも、俺のそばには来なかった。
あの背中。
撫でたときに感じた、あの嫌な感触。
リュカが小さく震えた瞬間、
ゼファールは自分の手を引っ込めた。
――触れないほうが、いい。
そう判断してしまう自分が、いちばん苦しい。
窓の外を見る。
王都の夜は静かで、何事もなかったかのようだ。
即位記念の式典は成功した。
その後の夜会も滞りなく終わった。
誰もが満足し、笑顔だった。
――俺だけが、取り残されている。
ゼファールはゆっくりと立ち上がり、
リュカの部屋の方角を見た。
(……早く、帰ろう)
辺境へ。
城壁も、王族も、イグナーツもいない場所へ。
しかし、仕事がある。
まだ動けない。
それでも――
(それでも俺は、あいつのそばにいたい)
守るためでも、役目でもない。
――ただ、そばにいなければ、息をするのが、しんどい。
ゼファは静かに呟いた。
「……もう、リュカなしでは無理だな」
答える声はない。
それでも、言葉にしなければ耐えられなかった。
王子として生きてきた時間よりも、
剣を握ってきた年月よりも、
リュカと過ごした日々の方が、
ずっと、深く――
自分の命に、食い込んでいたのだった。
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