魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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43.リュカの思い

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リュカには、理由がわからなかった。

どうして、ゼファは一緒にいてくれないのだろう。

忙しいのは知っている。
仕事があることも、国王の城にいる以上、簡単に帰れないことも。

それでも――。

胸の奥が、じんじんと痛んだ。
まるで、冷たい水にずっと手を入れているみたいに。

ゼファールに触れようとしたとき、
ゼファールの手が近づいたとき。

――いやだ。

そう思ってしまった自分に、リュカは一番驚いた。

嫌いになったわけじゃない。
むしろ逆……。

触れられそうになると、胸がきゅっと締めつけられて、息が苦しくなる。
心臓が、すごい速さでバクバクする。
理由がわからない恐怖だけが、先に立つ。

――本当は一緒にいたいのに。
――ゼファに抱きしめてもらいたいのに。

リュカは、ゼファールが苦しくなるから、ゼファールに避けられてると感じていた。
食事のときも寝るときも。
リュカの隣には、カリオンやアルドやほかの従者がいる。
時折、見えるゼファールの表情がつらそうで、リュカもつらくなる。

「……なんで、だろ」

アルドと一緒にいるときは、そんなことはない。
いつも通りだ。笑えるし、話せるし、魔術の話も楽しい。

「無理すんなよ」

アルドはそう言ってくれる。
兄みたいに、当たり前の顔で隣にいる。

ルーシアやミレーニアも、仕事の合間に顔を出してくれる。
お菓子を持ってきたり、城の噂話をしたり。

「リュカ、今度一緒に庭を歩こうよ」
「オオカミの姿、また見たいな」

笑って、答える。
楽しいはずだ。

でも。

ゼファールはいない。

扉が開く音がするたびに、
足音が聞こえるたびに、
リュカは無意識に顔を上げてしまう。

――違う。

そのたびに、胸が少しだけ沈む。

夜、ひとりになると、もっとはっきりわかる。
オオカミの姿に戻って、丸くなっても、落ち着かない。

ゼファールの気配が、遠い。

「……ゼファ」

名前を呼ぶと、胸がまた痛んだ。

どうして一緒にいられないんだろう。
どうして、触れられないんだろう。

本当は、そばにいてほしいのに。

理由のない違和感と、理由のない寂しさだけが、
リュカの中に、静かに積もっていった。

ゼファと一緒じゃない夜は、長くて、寂しかった。


次の日。
久しぶりだ、とリュカは思った。
ゼファールと同じ空間にいるのが。

夕食の広間は明るく、人も多い。
音楽も、笑い声もあるのに、リュカの意識は自然と一人に引き寄せられてしまう。

――ゼファ。

遠くにいる彼を、ただ見ている分には、胸の違和感は少ない。
むしろ、少し安心する。
そこにいる、ちゃんと生きている、それだけで。

ゼファールは気づいているのか、時おりこちらを見る。
視線が合いそうになるたび、リュカは慌てて目を逸らした。

(なんで……)

話しかければいいだけなのに。
いつもなら、何も考えずに近づいていたのに。

言葉を探そうとすると、胸の奥がぎゅっと縮む。
触れようとすると、見えない何かに押し返されるような感覚がして、足が止まる。

――怖いわけじゃない。

嫌いになったわけでも、避けたいわけでもない。
むしろ逆だ。

ゼファに近づこうとすると、心臓がうるさくなる。
息が浅くなって、頭が熱くなって、うまく考えられなくなる。

(……変なの)

アルドと話している時は、何も起きない。
ルーシアやミレーニアと笑っている時も、普通だ。

――なのに、ゼファだけ。

ゼファは、今日もまた、声をかけてこなかった。
ただ、たまに――本当にたまに、こちらを見る。

その目が、ひどく、寂しそうで。

リュカは胸の奥をぎゅっと掴まれた気がした。

(そんな顔、しないでよ)

自分が何かしたわけじゃない。
でも、ゼファがそんな顔をする理由は、自分にある気がしてしまう。

苦しい。

ゼファに触れられるのが嫌なのに、
離れると、もっと苦しい。

ゼファが誰かと話しているのを見ると、胸の奥がちくりと痛む。
それが何なのか、まだ名前はわからない。

ただ――

(ゼファが、遠い)

その事実だけが、どうしようもなく寂しかった。

目を伏せたまま、リュカは小さく息を吐く。

(早く……終わらないかな)

この場所も、この時間も。
そして、この、胸がざわざわする感じも。

でも同時に、心のどこかで思ってしまう。

(魔王城に帰ったら、ゼファと、話せるかな)

それを会いたいと呼ぶには、まだ少し怖くて。
でも、どうでもいいなんて、もうとても言えなかった。


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