魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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60.リュカの決意

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城の空気が、少し変わった。

はっきり何かが変わったわけじゃない。
でも、視線が違う。
声のかけ方が、どこか丁寧になった。

――伴侶候補、だから?

そう思うと、胸の奥がむずむずした。

嬉しい。
でも同時に、不安にもなる。

(……本当に、僕でいいのかな)

ゼファは強い。
魔力も、剣も、判断も。
でも、並び立つには、まだ足りない気がして。



だから、リュカは今日も剣を握る。

「来い、リュカ」
ガイが木剣を構える。
「手ぇ抜くなよ」

「言われなくても!」

ぶつかる音が響く。
速さ、力、間合い。
リュカの剣技は、ガイと拮抗している。

ガイはゼファールの幼馴染で、剣術で苦戦する相手。
リュカは持ち前の野生の勘で、いつの間に対等に戦えるようになった。

リュカが、ガイの一撃を弾き、踏み込んだ。
刃先が、ほぼ同時に止まった。

「……ちっ」
ガイが舌打ちする。
「ほぼ互角だな」

リュカは息を整えながら、ツンと顎を上げる。
「ほぼって言うな」

「欲張りだな」
ガイは笑った。
「十分だろ。あのゼファと、同じ戦場に立つってんなら」

その言葉に、胸がきゅっとなる。
「……ほんとに?」

ぽろっと出た声に、ガイは少しだけ真面目な顔になった。
尻尾がぱたぱたする。

「おう」
そして、わざと軽く言う。
「むしろ、あいつが無茶したら、お前が止める側だからな」

「……っ、なにそれ」
顔が熱くなる。
「知らない」

そう言いながら、
尻尾が、つい嬉しそうにぱたぱた揺れていた。


午後は魔術の稽古だ。

アルドと並び、複合術式を組む。
高度で、集中を要するもの。

「焦らないよ。
ゼファ様と同じ感覚で合わせてみてみ」

リュカは深呼吸する。
それから静かに魔力を流す。
術が、安定してきた。

「……できた」

光が収束し、綺麗に消えていった。
アルドは目を見開き、それから静かに頷いた。

「おお!
これなら、ゼファ様と並列で扱えるぞ」

リュカは、思わず拳を握る。
(役に、立てる……)

「顔に出てんぞ」
アルドが微笑む。
「不安と、期待と、全部……?」

「……うるさいっ!」

ツンとした声。
でも否定はしない。

アルドは少しだけ声を落とす。

「大丈夫だな。

ゼファ様が選んだのは、
守られる存在なんかじゃない

共に立つ相手だからな」

顔を真っ赤にしたリュカは、何も言えなくなる。
尻尾がぱたぱた揺れていた。



部屋に戻る廊下で、リュカは立ち止まった。

……追いつきたい。
並びたい。
置いていかれたくない。
でも――
手、引いてくれるの、ずるいんだよな。
剣も、魔術も、言葉も。
みんな、上手に背中を押してくるし。

リュカは、ツンとしながらも、
胸の奥があたたかくなるのを、止められない。


その夜、ゼファールの隣で、リュカは小さく呟いた。
「……僕、ちゃんと、隣に行くからな」

ゼファールは何も言わず、ただ腕を回してくれた。

それで、十分だった。


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