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一章 藤野 玄人、転生しました。

4話 藤野 玄人、ギルドに行きました。

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 翌朝。

 俺はソウルブックを開いて、ステータスを確認した。

 ステータス
 Lv3
 HP 35
 攻撃 26
 防御 20
 魔法力 27
 魔力 34
 精神力 50

 ふむ、Lv2から3に上がったが、下三つの方が上三つに比べて伸びしろが大きいな。

 俺の体質なのか、他の要因なのか。

 今の俺の戦闘スタイルは、精霊槍がメインだから、攻撃力と魔力を伸ばしたいが…どうすればいいんだろうか。

 …と、考えていると、昨日に続き、勢いよく、バンッッ、とドアが開いた。

「おはよう、玄人!朝ごはんを食べましょっ!」

 キャルロットはグッと俺の腕を引っ張ってくる。

「わっ、分かったから離してくれ!コケる!」

「あ、ごめんなさい」

 キャルロットは今日も元気なようだ。



 朝ごはんの後、俺は昨日気になっていたことを聞く。

「なあ、キャルロット」

「ん?」

「この世界には魔法学校とかギルドはあるのか?」

「どっちもあるわよ?でも、魔法学校は軍に入りたかったり、魔法の研究をしたい人が行く場所で、ギルドはある程度お金があって好きな時にモンスターと戦いたいとか、勇者パーティに憧れてるとか、そういう人が行く場所ね」

「魔法学校はお金かかるのか?」

「んー、入学試験で上位になったり、すごい魔法を使ったりすると、お金の支払いが免除になったりはするわね」

「ギルドって、報酬は貰えるのか?」

「貰えるわよ。ただ、たくさんクエストをこなしたり、危険なクエストをたくさん受けないと食べていけなかったりするけど」

「俺はどっちの方がいいかな?」

「そうね、戦闘に自信があるならギルドでこの世界のことを学んでもいいし、最初に、他の人に劣ってても勉強して上に行く自信があるっていうなら、魔法学校がいいと思うわ」

 なるほど、モンスターに攻撃されて肉体的にやられるか、頭脳で最初に劣って恥かく精神的ダメージか、ってことだな。

「あ、両方行くっていう手もありね」

「どういうことだ?」

「いつもは学校に行って、休みの日はギルドで稼ぐのよ」

 なるほど、それはいいな。

「わ、私も魔法学校には通ってるし」

「そっか、友達がいるっていうのは安心だな。じゃ、両方行くかな」

「ほんと?それじゃ、学校でも会えるわね!あ、でも、今は長期休暇だから、学校に通えるのはまだまだ先よ?だから私もここにいるんだし」

「じゃあ、今日はギルドに行ってこようかな」

「私も登録はしてるから案内してあげるわ」

「そっか、それじゃあよろしく頼むよ」



「じゃ、行きましょうか」

 俺たちは外出用の服に着替えた。

 もちろん俺は二着目など持っていないので、屋敷にあったものを借りた。

「ほら、早く早く!」

 犬なら扇風機レベルで尻尾を振ってそうなキャルロット。

「ああ」

 そして、キャルロットは外に出るなり、

「スキル《レフォース》!」

 は?いやいや、待って?

「あの、キャルロットさん?なにしてんすか?」

「ほら、玄人もはやく!」

「いや、俺それ使えないんだけど」

「えっ…じゃ、じゃあ…手」

「え?」

「私が連れてってあげるから!」

 キャルロットは頬を少しだけ赤く染めた。

「あ、ありがとう」

 俺もなんだか恥ずかしくなってしまった。

 でも、キャルロットはすぐに楽しそうな表情になり…

「行くわよっ!」

 屋敷の裏側へ、思いっきりジャンプしていった。

「ぎゃぁぁあぁぁ!」

 待って?ねえ待って?俺また死んじゃうよ?

「ひゃっほーう!たのしいいいい!」

 ダメだこいつ。

 てか、なんでこんなに飛べてるんだろう。

 後で聞いてみることにする。

「もう一回だけ行くわよっ!」

「え?まっ」

 俺が言い終わらないうちにキャルロットは飛び上がった。

「ぉぉぉぅ」

 ダメだ…ガクッ…

 って、生きろ!俺!

 俺が頑張って耐えていると、

 スタッ。

「お、終わった?俺は生きてるのか?」

「それくらいじゃ死なないわよ。さ、行きましょ」

「あ、ああ」

 ん?ここは細い路地だな。

 俺が屋敷に来た時と同じ路地を通ればよかったんじゃないのか?

「なあ、なんでここまで来たんだ?」

「私が王女だからよ。見つかると、色々面倒なのよ」

「でも、昨日はふつうに出てたぞ?」

「ああ、あれは護衛が《黒魔法》を使えたから、見つかる心配がなかったのよ」

 なるほどな。今日は2人だからこっちから来たのか。

「じゃあ、今日も護衛さんを連れて来たらよかったんじゃないのか?」

「あの護衛、今日はシフト入れてないの」

 シフトって、アルバイトかよ。でも、納得。



 そうして、俺たちは町に出た。

 とても活気があっていい街だ。

「はぁ…やっぱり昼間はこうなのよね…」

「ん?どうした?」

「い、いや、何もいってないわよ?」

「何か言ってた気がしたんだけど…」

「き、気のせいよ!さ、行きましょう!」

 そっか、気のせいか。



「ここよ!」

 ほお、これがギルドか。

「案外おしゃれなんだな」

「いや、ここが特別なのよ。ていうか、外観だけね」

「なんで外観だけなんだ?」

「冒険者は男ばっかりだからね。女性冒険者欲しさにこんなのにしたのよ」

 まったくもう、とキャルロットはため息混じりにつぶやいていた。

「さ、行こうか」

「そうね」

 俺たち2人は中に入っていく。

 すると、外観とは180度反対の室内が現れた。

 とにかくうるさい。ただ、イメージより酒臭くもない。いわゆる、賑やかだ。賑やかすぎてうるさいってだけだ。

 ……と、入り口近くにいた男が近づいてきた。

「なあ、俺と一緒に飲まねえ?」

 前言撤回。酒臭い。

「ごめんなさい、あなたに用事はないわ」

「いいじゃねえかよお」

 男がキャルロットの手をぐっと引っ張る。

 こいつ、うざいな。

「おいあんた、やめろよ」

「ああ?んだお前」

「手を離せよ」

「…お前、誰に向かって口聞いてんだ?」

 そこで俺は、ハッと鼻で笑ってやる。

「お前だよ、ハーゲ」

「んだとゴラァ!」

「おいやべえぞ」「ねえ、だれか止めに行きなさいよ」「いや無理だろ」「おいあいつ喧嘩売ってやがるぞ」「あのシャーブ相手にかよ」

「いいか、知らねえようだから教えてやる」

 なんか、みんな教えてくれるな。

「俺様はシャーブ=グライブ、Cランクの冒険者だ!どうだ、ビビったろ!」

 Cランクはすごいんだろうか。

「なあキャルロット、Cランクってすごいのか?」

「さあ、どうなんでしょうね?勇者様は、ライセンス取った時にはもうAランクが目の前だったらしいわよ?」

「ふっ、じゃあそこまですごくないんだな」

「ふふふ」

 俺とキャルロットで全力の挑発をしてみる。

 すると、シャーブは手に持っていた木のジョッキを投げ捨てた。

「おいゴラァ、もう許さんぞ。外に出ろ、決闘だ!ぶっ殺してやる!」

 きたきた。

「おい誰か、マスター呼んだこい!」「分かった!」「ちょっ、誰か止めろよ」「だから無理だって」

 まったく、騒がしいもんだ。



 俺たちは店の前に出た。人はいるが、とても広いから大丈夫だろう。

「おいガキ、サインしろ」

 紙を渡された。アンド隊長の時と同じだ。

 そこには、俺が勝ったらシャーブが土下座して謝ること、シャーブが勝ったら俺の持ち物を全てシャーブに譲ることが書いてある。

 俺はそこにサインした。ま、負けても何も持ってないから別にいいんだけど、負けるつもりはない。

「そ、それでは、藤野 玄人、シャーブ=グライブによる決闘を始めます。…始めっ!」

「死ねやゴラァ!」

 あれ?《レフォース》は使えないのか。

「スキル《冷蔵庫》」

 俺は《冷蔵庫》を発現し、冷凍庫から精霊槍を取り出す。

「はっ、弱そうな槍だなあ!」

 こいつ見る目がないな。そうか、ラノベでいう、主人公の強さを見せるためのかませ犬ポジションか。

 なら、俺もそう対応していこう。

 確か、任意発動のスキルがあったな。どうやって使うんだろう。

 すると、俺の隣にソウルブックが出てきた。

「おいおい、ソウルブックなんてみてる暇ねえぞ!」

「おっと」

 いつのまにかシャーブは目の前にいたようで、俺めがけて右ストレートを放ってきた。

 速かったが、普通に避けれる速さだった。

「っと」

 俺は後ろに飛び退く。

「…少しはやるじゃねえか」

「そりゃどうも」

 俺はソウルブックで使い方を確認する。

 ふむ、地面に突き刺すだけか。やってみよう。

 俺は、地面に思いっきり精霊槍を突き刺す。そしてーー

「スキルッ《アイスミット》!」

 すると、地面から氷の棘がたくさん出てきた。

 ズドンッ、バンッッ、とシャーブめがけて沢山の氷が現れる。

「…は?」

「土下座確定だなっ!」

「ちいっ…《レフォース》っ!」

 なんだ、使えるなら最初から使えばいいのに。

 そう思いながら、俺は真っ直ぐに駆けていく。

 そして、

「スキル《アイスミット》!」

「はっ、同じ手が効くわけ…」

 俺は、氷がシャーブを襲った瞬間、精霊槍で突いた。

「グハッ!」

 シャーブの左腕から鮮血が噴き出した。

「グゥッ…」

 シャーブがよろけた。

「おわりだっ!」

 俺は精霊槍でとどめをさす…が、その刃がシャーブに届くことはなかった。

 何もなかったところから、手が現れて精霊槍を止めたのだ。

「ちょっと、貴方達?何してるのかしら?」

「ま、マスター!」

 シャーブが安堵した声でいう。

「…話を聞かせてもらってもいいかしらぁ?」

 やばい。この人やばい。俺の本能がそう告げている。

「一度戻るわよ」

「「「はい…」」」

 他の人も同じようだ。

 ここは、従っておくか。



「そういうことねぇ…」

 俺たちは、事の経緯を伝えた。

「それって、シャーブが全面的に悪くない?」

「ぐっ…それは、その通りです…」

「じゃ、さっさと謝りなさい?」

「な、なんで俺が…」

 はあ…

「いや、お前負けただろ」

「い、いや、俺はまだ負けてねえぞ!」

「…じゃあ、もう一回やりなさい?それで決めればいいわ」

「ありがとうございますっ」

 ええ…

「待ってろよ、ガキが!」

 俺にそう吐き捨てると、シャーブは外へ走っていった。

「ごめんなさいね?でも、もう少しだけ付き合ってあげて?ね?」

 そんなに言われると断れないなあ。

「わかりました」

「うふふっ、ありがと」

 じゃ、いくか。

 なんだかキャルロットの方から禍々しいオーラを感じるので、見ないことにする。



「私がいるからサインはいらないわね。さあ、両者今度は…ほ・ん・き・で、やってちょうだい?私にいいところ見せると思ってね!」

 そんなこと言われたら本気を出さざるを得ないじゃないか。

「もちろんですよマスター!」

 ん?もしかしてこいつ、マスターさんに惚れてるのか?

 じゃあ、みっともないところをマスターさんに見せてあげよう。

「それじゃ…始めっ!」

「スキル《レフォース》!いくゼェ!」

「スキル《冷凍庫》」

 俺は冷凍庫から精霊槍を取り出す。

「あれは…いいわねぇ」

 マスターさんがなんか言ってるな。

「ザァッ!」

 シャーブが剣を抜いて斬りかかってきた。

 やっぱり、アンド隊長より遅いな。

 速くないわけじゃないけど。

 シャーブは俺の頭の高さで横斬りを繰り出してきた。

「ふっ」

 俺はそれをしゃがんで避けーー精霊槍を、首筋に添えた。

「やっぱ弱いな」

「んだとクソが!」

 シャーブは右脚で蹴ってきた。

 俺はそれを半身でよけ、左腕で背中を一撃。

 精霊槍の柄の先で一撃。

 最後に、左脚からの蹴りで一撃。

「ガッ…」

 シャーブはそのまま倒れていった。

「ま、こんなところか」

 すると、周りから歓声が上がっ
た。
「おいあいつ、シャーブに勝ちやがった!」「しんじらんねえ!」「きゃ~カッコいい~!」「藤野く~ん!」

「勝者、藤野 玄人!」

「やっぱり玄人は強いわね!」

「はは、ありがとな」

 キャルロットはすごくニコニコしてる。

 うざいやつだったからスッキリしたんだろうな。

「それじゃあみんな、中に戻りましょうか」

「「「はーい」」」

 マスターさんは、シャーブをずるずると引きずっていった。



「すいませんでしたぁ!」

 シャーブが俺とキャルロットに土下座している。

「わかればいいから」

「あら、玄人君はやさしいのねぇ」

「それじゃあマスター、俺はこれで!」

 恥ずかしかったのだろう、シャーブは走ってギルドから出ていった。

 なんか、いつか殺してやるとか聞こえたけど、気のせいだ、気のせい。

「ねぇ、玄人」

「ん?どうした?」

「あなた、ここにきた目的忘れてない?」

「…あっ」

「はぁ…行きましょ。カウンターは向こうよ」

「ごめん、行こう」

 俺たちはカウンターへ歩いていった。

「すいません」

「はい、お伺いいたします」

 受付は女性がしてくれた。かわいいな。

「冒険者になりたいんですけど」

「少々お待ちください」

 受付さんが、水晶を持って戻ってきた。

 きたきた、これで魔力とか測るんだな!

「では、これに触れてください」

 俺は水晶に触れる。

「…はい、もう大丈夫です」

 なにか紙に書いている。

 …と、受付さんが何かに驚く。どうしたんだろう。

「ま、マスター!」

「どうしたの?」

「このスキルは何でしょう…」

「…さあ、わたしにもさっぱりだわ。ま、気にしなくていいんじゃないかしら?」

「わかりました。藤野 玄人様」

「は、はい」

「こちらがあなた様のライセンスになります」

 そこには、俺の名前と写真、そして、Dランクと、書いてあった。

「これで登録は終了です。今後とも、ギルド『ロシック』を宜しくお願い致します」

 こうして、俺は無事、冒険者になることができた。
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