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プロローグ
点滅する巨大繭
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谷を抜けるたび、光は強くなった。
ただの燐光ではない。糸一本一本が呼吸している。暗黒に浮かぶ赤の点滅は、まるで無数の眼球がこちらを凝視しているかのようだった。網膜の奥が焼かれるような、じわりと滲む痛みが広がる。
「……気持ち悪ぃ」
フウカは舌打ちし、肩の《霊葬》二式を構え直す。彼女の声はいつも通り明るいが、指の先は震えていた。小柄な骨格を支える筋肉の収縮は早く、緊張がそのまま脈打つ。
その震えを隠すように、彼女はわざと笑う。
「あたいの嫌いなタイプだよ。見られてる気がすんのはな」
「気のせいではない」クシェルは短く答える。
声は冷たい。だが心臓は喉を叩き、胃袋は鉛のように沈んでいる。
(見られているのは、確かだ。糸が視線を運んでくる。網に触れた瞬間、心まで捕らえる。俺たちは“覗かれている”のだ)
通信に混線が走った。
明らかに仲間のものではないノイズがしきりに強く波を起こす。
――来い。
女とも男ともつかぬ、声帯を持たぬ音。耳に入るのではなく、脳の後頭葉へ直接焼き付く。
「っ……」フウカは肩を振るわせた。
「聞こえたか?」
「いや、あたいは幻聴とか信じないね」彼女は強がるように言い、あえて大声で笑った。
「だが、もしそうなら――その声の奴をぶん殴って黙らせるだけさ!」
その一言で、場の空気はわずかに戻った。
クシェルは横目で彼女を見る。小さな身体が、瓦礫に影を落とす。背丈は子どもと変わらない。だが眼差しには、子どものものではない鋭さがある。
(強い。いや、強がっているだけかもしれない。それでも俺よりずっと――人前で臆病を隠すのが上手い)
ただの燐光ではない。糸一本一本が呼吸している。暗黒に浮かぶ赤の点滅は、まるで無数の眼球がこちらを凝視しているかのようだった。網膜の奥が焼かれるような、じわりと滲む痛みが広がる。
「……気持ち悪ぃ」
フウカは舌打ちし、肩の《霊葬》二式を構え直す。彼女の声はいつも通り明るいが、指の先は震えていた。小柄な骨格を支える筋肉の収縮は早く、緊張がそのまま脈打つ。
その震えを隠すように、彼女はわざと笑う。
「あたいの嫌いなタイプだよ。見られてる気がすんのはな」
「気のせいではない」クシェルは短く答える。
声は冷たい。だが心臓は喉を叩き、胃袋は鉛のように沈んでいる。
(見られているのは、確かだ。糸が視線を運んでくる。網に触れた瞬間、心まで捕らえる。俺たちは“覗かれている”のだ)
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明らかに仲間のものではないノイズがしきりに強く波を起こす。
――来い。
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「っ……」フウカは肩を振るわせた。
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