拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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3.神との対話

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 その日、結局仕事探しを諦めたリナリアが、ひとまずの宿をとろうとしたところ、フィグルドが泊まっている宿なら口利きができると言ってきた。

 最初、変に彼に世話になることで引け目が出来るのは嫌だったので断ったのだが、国境付近で賑わうこの街は宿探しにも苦労すると言う。グレードを下げれば見つかるかもしれないが、人が集まる街特有の治安の悪い宿になってしまう可能性があるらしい。

 リナリアは何故か着いてくるフィグルドをしばらく無視して、何軒か表通りの宿を回ったが、どこも彼の言うとおり満室だった。そうなってくると、路地裏などの表通りから外れたところを探すしかない。

 もっと早い時間だったら空いていたかもしれないのに、とじっとりとフィグルドを恨めし気にねめつけるが、これっぽっちも効いていなさそうだ。

 リナリアは観念して、フィグルドに宿の口利きをお願いした。

 仕方ない。さすがに野宿だの、ネズミや泥棒が出る宿だのは現代日本で育った自分には耐えがたい。

 フィグルドにお願いすると、あとはあれよあれよという間に全て彼がやってくれた。宿代に関しても、支払いを先にすませてくれて、自分で払うと申し出たが、先ほど食堂で迷惑をかけたことの謝罪だと言われてしまった。

それでも、と食い下がると、フィグルドは「食堂で俺の分も支払ってくれただろう、これで相殺だ」とスマートに誘導されてしまった。これ以上、宿のカウンターの前で食い下がるのは、迷惑にもなりそうだし、リナリアとしても、貴重な今後の生活費を節約できるのはありがたい。それに、フィグルドが連れてきてくれた宿はとても綺麗で身なりのいい客ばかりが行き交っているため、高額そうだ。多分一晩一室三万ゴルド以上はするとみた。先ほどの食堂で支払った食事代は二人分で千ゴルド程度。比べるべくもない。
 
 うぅ……イケメンの上に、スパダリとか……

思わず心の中でツッコんでしまう。

 ここが現代日本で、友人が一緒にいたらミーハーのようにきゃぁきゃぁ騒いで楽しめていたかもしれないな、なんてぼんやりと考えた。

 案内された部屋に荷物を置いて一息ついていると、隣の部屋らしいフィグルドが訪れて、一階の食堂で共に夕食をとろうと提案があった。本当は一人で落ち着いて食べたかったが、リナリアの記憶が「どこまであって、どこからが無いのか、把握したい」と言われてしまうと拒否しづらい。

 リナリア自身が無くした記憶を取り戻したいかどうかは、正直まだよくわからない。何故なら、日本で十八歳まで育ってきた記憶もあるし、この異世界に召喚された後の記憶だってある。欠けた記憶自体は本当に一部分らしく、生きていく上での常識的な知識や感覚が失われたわけではない。

 でも、こんな中途半端な記憶喪失なんてあるのだろうか……

記憶喪失で一部失うといったら例えば頭に強い衝撃を受けた事故の前後だったり、精神的にショックを受ける大きな出来事があった前後といったイメージだ。けれど、リナリア自身どちらも身に覚えがないし、記憶がぽっかり空いているというよりは、虫食いになっている感じだから、少し違う。

 昼間に訪れた大衆食堂とは異なり、落ち着いたレストラン風の食堂で美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、リナリアは自分が覚えていることをなんとか思い出しながら説明した。

 日本から突然召喚され、聖女をやらされたこと。浄化の旅には四人のフォルティアーナ聖騎士団の騎士が随行してくれたこと。一年ほど前に全ての浄化が終わったこと。

 ただ、旅の詳しい内容などは少し曖昧だった。断片的といえばいいのか、覚えている記憶の場面がところどころ飛んでいる。だけど、大筋は覚えているのでリナリアとしては問題はない。それよりも記憶がもっと怪しいのは、浄化を終えた後のこの一年だ。こちらはほとんど覚えておらず、気づいたら一年経過し、このカテラの街に手記を胸に抱いて立っていた感覚だった。

「……なるほど……俺に関する記憶だけが欠如しているのか……」
 
ぼそり、と呟かれたその言葉は、リナリアの耳には届かないほど小さなものだった。首を傾げるリナリアに、フィグルドは告げた。
 
「雷神ティガーへ会いに行ってみよう」





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