拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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「女神レプスに目通りを願いたい」
 
実は聖女は聖騎士と違い、自由に神を呼び出し、対話することができない。何故なら、聖女はあくまで女神が「闇神フォグを退ける」ために異世界より召喚した存在であり、守護するフォルティアーナに根差す生命ではないからだ。


 あまりにも身勝手な話で、当時話を聞いた時、リナリアは女神が嫌いになったことを思い出す。こちらの思いや立場を考えず、自分達の都合を押し付けてくる女神たちの考えに。

 聖騎士が女神に会いたい、など願うのは前代未聞だった。本来であれば不可侵とさえいえる願いだ。ティガーは厳しい表情を崩さぬまま、問いかける。
 
『何故望む?人の子よ』

 自身の信仰神以外の神に会いたいと告げるのは、下手をすると信仰神を裏切ったと捉えられてもおかしくない所業だ。

 彼が……、フィグルドが雷神ティガーから信頼を勝ち得ていなければ、即刻聖騎士としての資格を剥奪されてもおかしくないほどの、覚悟がいる言葉。

 ひとまずティガーが資格を剥奪せずに真意を問いかけたことで、彼がいかに、ティガーに信頼の厚い聖騎士であるかが伝わってくる。

フィグルドは握ったリナリアの手に、少し痛いくらいの力を込めた。彼とて、一か八かの賭けだったのかもしれない。

 神は人ではない。優しさを求めること自体が間違っているからだ。いくら祝福された愛し子だとしても、その領分を超えた望みを、神が聞くことはない。

 フィグルドは気圧されないように、ぐ、と丹田に力を込めると、答えた。
 
「聖女であり、我が妻であるリナリアの記憶が、私に関する部分だけ消されている」
『……』
「人の領分では『あり得ない』ことだ」

つまりそこに、神の意思の介在を疑っている、とフィグルドは言外に伝える。ティガーの瞳は変わらない。

 たとえ、それが神の意思による介在だとしても。その理由を人が問うことなど、本来許されてはいないからだ。

「頼む。女神に会わせてくれ。俺は、聖騎士としての資格を失っても構わない。だが、リナリアだけは……彼女だけは……」

 俺から奪わないでくれ―――

口調は淡々としているのに、あまりにもフィグルドの悲痛な願いに、リナリアは驚いて、彼の横顔を見つめた。

 リナリアからすれば、ちょっとやってみて、ダメだったら諦めてね、くらいの軽い気持ちだった。けれど、彼にとって自分という存在が、聖騎士という彼の存在そのものを投げうる価値があるものだったと、ここへきて、ようやく理解した。

 嘘でしょ……。どうしよう。私のせいで聖騎士の資格を捨てるなんて……そんなの……

 リナリアにとってまだ彼は昨日出会ったばかりの人物だ。その想いの重たさに、畏怖すら感じてしまう。同時に、本当に微かに「彼にこれほど想われるリナリアが羨ましい」と頭を掠めた。

 けれど、それも一瞬のこと。

『儂がやったとは思わなかったのか』
「……貴方が聖女に関与することは叶わぬだろう。それに、貴方の仕業だとしたら、私になんらかの影響があったはずだ」
 
 彼らの会話に、意識が引き戻される。表情の変わらなかったティガーが、わずかに目を細める。


 神と交渉するとき、決して怯んではいけない。自信なさげにしてはいけない。相手の反応を伺ってはいけない。己の弱い心を晒してはならない。

 フィグルドの確信めいた言葉に、たっぷり間を空けてから、ふん、と鼻を鳴らした。
 
『……あいわかった。どちらにしろ、あれも儂の元へお主らが現れるようなら連れてこいと言っておったしな』
 
 初めて少しだけ、諦めた響きを声に滲ませてティガーが続ける。「あれ」とはおそらく女神レプスのことだろう。

 フィグルドの額に、うっすらと汗が浮かんでいた。それでも表情を崩すことなく、彼は短く口にした。
 
「……恩に着る」





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