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21.不穏の足音
しおりを挟む「時間があるときに新居探しはしようと思っているが、できれば治安の良いところがいいからな。周辺環境の調査から始めたいと思っている」
(リナリアに何かあったら大変だ。まぁ……俺が守るが)
フィグルドは内心浮足立つ思いいっぱいで答えた。
「……そ、そんなにもう具体的なお話なんですね……」
だが、リナリアは衝撃に頭がくらくらする。いや、あの予知夢を見て、予想はしていたじゃないか。ショックを受ける方がおかしい。私は彼の恋人でも何でもない。それどころか、旅が終われば赤の他人くらいの薄い関係性だ。
大体、こんな素敵な人に恋人がいない方がおかしい……もの……
自分にそう必死に言い聞かせて万年筆を握るが、どうしてだろう、手記にそのことを書き込めずに手が止まってしまう。次の質問をしたいのに、言葉が出てこない。本当は、その相手を特定して、あの予知夢を阻止できる可能性について探りたかったはずなのに。
「お~、何二人してしけた面してんだ」
その時、大量の紙束を手に持ったディーが食堂へ入って来た。二人の視線が彼へと集まる。
「しけた面……?」
フィグルドとしては二人で将来について語り合っていた感覚なので、ディーの感想が解せない。微妙に眉間に皺を寄せたが、彼と長年一緒にいても気づけるかどうかというわずかな差だ。
ディーはフィグルドの様子など気にもせず、自分の用事を口にする。
「話してるところ悪いが、ちょっといいか?」
「……ディー……、今、俺は……」
せっかくリナリアが自分ともっと仲良くなりたいと頑張ってくれているのに、邪魔しないでほしい、と断ろうとしたフィグルドの言葉を遮るように、リナリアが被せて口を開いた。
「だ、大丈夫です!私、部屋に……」
戻ります、と言いかけて腰を浮かす。
「あ、お前も聞いていけ」
と、そう言いながらディーが手に持った紙の束をテーブルの上に置いた。そう言われてしまっては逃げ出すわけにもいかず、リナリアは大人しく浮かしかけた腰を椅子に再度落とした。
ディーは机の上に置いた紙の束をバラリと崩す。その紙には、人物の絵姿が描かれていた。服装からいってもほとんどが貴族階級に見える。絵姿自体は全身だったり胸から上だったりで一貫性はない。なんとなく、この時代のお見合いの釣書のようなもので使われていることがうかがい知れる。皆、綺麗な服装で姿勢よく描かれているからだ。そして男性も女性も、年齢層もバラバラだ。
「怪しい奴をリストアップしといた。だが、今のところ決め手はないな」
ディーの補足に、意識を切り替えるようにフィグルドはその何枚かを手にとって見つめる。
「多いな……」
「どこかの侯爵様が聖女召喚前に大量粛清なんてやったせいだろうが。見ろ、親類縁者がこぞって恨みつらみを向けてやがる」
その中の一枚を手にとって、ディーはピンと指先で弾いた。
どこかの侯爵様、という言葉にリナリアは思わずフィグルドを見る。フィグルドはその視線に気づくと、一瞬口を噤んだ。聖女に関わる話として、彼女にこの件を話すつもりではいたが、今ではないと思っていた。だが、ディーがここにいろと引き留めたということは、この場で話せということだ。確かに、先延ばしにしたところで迫る危険度が変わるわけでもない、と観念したように説明する。
「本来、リナリアに聞かせるのは我が国の恥だが。こうなっては君にも知っておいてもらわなければ危険がある」
重々しい口調に、リナリアも知らず姿勢を正した。
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