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26.褒賞
しおりを挟むその後、偽装婚約の作戦はうまく運び、カリーテを誘い出すことができた。うまくディー達が根回しすることで外部へフィグルドの婚約については漏れることがないまま、婚約式当日を迎えた。参列者は聖騎士達と子爵家側の親族のみ。変な勘ぐりをされないようにと、万一フィグルドから標的を変えられる危険性を考えて、リナリアは教会の別室に待機となった。
そして婚約式が始まり、襲いかかってくるカリーテを聖騎士達が連携で抑え込んだ。怒り狂ったカリーテは、令嬢の顔を脱ぎ捨てて獣のように暴れた。それこそ骨が折れておかしな方向へ曲がっていても襲い来る姿は、その場にいた全員へ畏怖を植え込み、彼女の浄化を望んだ。その子爵夫婦の想いに応える形で、聖騎士達は闇神フォグに憑りつかれた不遇な女性として魂を神の元へと還した。
闇神フォグに乗っ取られた時点で、本物のカリーテの魂は永遠の眠りについてしまっている。それを知っているのは聖騎士達と聖女であるリナリアだけ。彼女を大切に思ってくれていた子爵家夫婦にそんな残酷なことをわざわざ告げる必要はない、と結論づけた。
リナリアは、なんとなく、カリーテが闇神フォグに付け入られたのは、父親を断罪したフィグルドを恨んだわけではなく。恋焦がれた相手と結ばれなくなった自分自身の境遇を嘆いたからではないだろうか。彼女の胸元に光る金褐色の宝石のペンダントを見て、そう思った。
フィグルドも大きな怪我なく、難局を超えられたようだ。きちんと「無の力」が発動したようでリナリアはほっと安堵する。
大切な記憶を失うという代償に気づいた時は悲しかったけれど、その記憶を守るためにフィグルドの存在自体を失っては意味がない。
彼を救えたことが誇らしかったし、「無の力」は三回まで。つまりあと一回を使わなければ、フィグルドを全て忘れずにいられるということだ。
彼の声も、瞳も、手の温もりも……
この恋心も、忘れずにいられる
サイアス王国での浄化もいよいよあと少しだ。最近では、フィグルドと接する時は以前と違うドキドキとしたいい意味での緊張に変わった。彼の行動すべてが思わせぶりで、リナリアは恥ずかしいやら嬉しいやらでいっぱいいっぱいになっていた。
全てが終わったら、フィグルドに告白してみようか、なんて考える。
もし本当に両想いだったら、付き合うぐらいはしてくれるかもしれない、と期待に胸を膨らませる。
リナリアの勘違いで、両想いじゃないとしても、想いを伝えるくらいは許してもらえるだろう。
それに振られたとしても、全てが終わったら、リナリアはセカンドライフで城下街へ移り住む。そうしたら二度と顔を合わせることもなく、互いに気まずい思いもしなくてすむから問題ないはずだ。
そう考えると、なんだか卒業式の記念告白みたいだ、なんてわくわくと思いを巡らせた。
その日、リナリアは王城にいた。
残る浄化はあと一カ所。どうやら王城から比較的近い位置に浄化点があるらしく、それなら宿を取るよりは王城から赴いた方が最適だ、となった。
旅の間はほとんどが別の王国にいたが、なんだかんだでサイアス王国が一番落ち着くのは、自分が初めて保護された場所だからかもしれない。
最近は、ちょくちょく浄化の合間に王城に戻ることもあったので、大分建物の中の構造も覚えてきた。
もちろん、顔パスで入れるところは限られているが、リナリアにとってはそれで充分だった。自分に与えてもらった聖女用の部屋に向かう途中、たまたま廊下に面した一室の扉が少しだけ開いていた。
最初は気にせずその前を通り過ぎようとしたが、聞こえてきた話し声に、ぴたりと動きを止める。
「では、慣例どおり?」
「ああ、慣例どおり、フィグルド様は聖女を娶られるだろう」
フィグルドの名が聞こえて、足が動かなくなった。男達は、扉が開いていることに気づいていないようだ。隙間から見える男二人の姿は、この国の貴族諸侯といった格好だ。
「しかし、フィグルド様も災難だな。召喚した聖女が、浄化の旅を終えたら用無しとなるが、放り出すと王国の外聞が悪いからといって、過去すべて聖騎士が妻としてきたんだったか?」
「ああ、道中我儘な小娘のお守りをさせられた挙句、なんの地位も後ろ盾もないような女を妻にしなきゃならんのだからな」
「はぁ、とんだ貧乏くじだな」
耳に飛び込んでくる、信じられない言葉の数々に、リナリアの顔色がみるみる悪くなる。
何……?この人達は……何を……言って……
くらり、と立ち眩みが襲ってくる。
何千年と続く、闇神フォグと、召喚聖女達の戦い。その戦いの終わりに、そんな残酷な結末が待っているなんて……誰が、想像できる?
男達はわずかに嘲笑を含んだ声音に代わり、さらに心無い言葉を吐いた。
「まぁでも、フィグルド様は例の粛清で婚約者を失ったばかりだ。適任だろう」
「そうだな。用済みになるとはいえ、民衆には聖女は人気が高い。他国に持っていかれるよりは幾分有益といえる」
「せいぜい、国民の求心力になってくれれば、使い道もあるというものだ」
「ははっ、違いない」
まるで聖女を、物扱いするような言動に、ふらり、とリナリアはよろけた。壁に手をついて身体をなんとか支えると、これ以上聞いてはいられなくて、なんとか気づかれないように静かにその場を離れた。
―――――――とんだ貧乏くじだな
耳を塞いでも、男の蔑んだ声が、わんわんと脳内で響いていた。
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