拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう

花虎

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26-2.

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 そうして、リナリアは最後の浄化を終えた。後日、国王に浄化を終えた報告に行くことになった。事前にその場で褒賞について希望を聞かれるから、考えておいてほしい、と宰相の人から説明を受けた。

 フォルティアーナ聖騎士団の執務室から、伝言を終えた宰相が出ていく。その姿を見送ると、執務室にいた全員が少し肩の力を抜いた。
 
「褒賞ね~。私欲しいものは大体手に入っちゃうのよねぇ」
 
 困ったわ、これが贅沢な悩みってやつかしら、と頬に手をあてて悩んでいるエカルラートに、ディーが一生悩んでろ、と吐き捨てている。今は執務室の三人掛けのソファにリナリアとイサラが並んで座り、その後ろから背もたれに肘をついて顎を乗せているエカルラート。正面の二人掛けのソファにはディーが一人胡坐をかいて座っている。いつもどおり、ノエスはその後ろに立っていて、フィグルドは執務机で仕事をしている。
 
「……僕は……、シュリーエン王国に研究所が欲しいな……」
 
ぽつ、とイサラが呟く。聞くところによると、自分の能力は様々なエネルギー源に応用ができそうだと気づいたらしく、元々身体を動かすことよりも魔法実験が好きなイサラとしては、自分の能力開発もかねて、様々な研究をしたいのだそうだ。だが、そのためにはある程度広大な土地や実験室がないと力加減を間違えて被害が出る可能性があるということで、今まで思い切りやれなかったと言う。

 イサラが以前、規格外の氷像を作り出していたのを思い出して、なるほど、イサラらしいとリナリアが納得していると。
 
「偉いわねぇ~イサラちゃんは」
 
エカルラートが褒めながら紫の頭をわしゃわしゃとかき回すと、イサラは心底嫌そうな顔をして影の中に隠れてしまった。

「ノエスちゃんは?」
「……山三つ」
 
隠れてしまったイサラを気にすることなくエカルラートが水を向けると、あまりにも簡潔な答えが返ってくる。エカルラートはむむっと唇を尖らせた。
 
「三つも必要~?」
「……鑑賞用、保存用、布教用」
 
ノエスのまるで推しグッズに対する考え方に、思わずリナリアが噴き出すと、皆に不思議そうな顔をされた。エカルラートはさらに悩まし気に眉間に皺を寄せる。
 
「意外と皆考えているのね。私も無人島でももらって、巨大行楽地でも作ろうかしら。ディーちゃんは何をもらうか決めているの?」
 
ソファの上でつまらなさそうに皆の話を聞いていたディーが、あー、と顔を顰める。
 
「孤児院に全額寄付だな」
「ちょ!かっこつけないでよ!」
「つけてねーよ」

ぎゃぁぎゃぁとエカルラートがわざわざディーの傍まで行って抗議してくるのを、両手で突っぱねながら、ディーがリナリアの方へ顔を向けた。
 
「一緒にくるか?」
「……え?」
 
思いもしなかった問いかけに、きょとんとする。ディーは少し言いにくそうに顔を歪ませつつ続ける。
 
「ミーシュタットはまぁ、あんま面白いってことはねぇかもだけど。住めばまぁまぁ、居心地がいい」
 
不器用な彼なりの、差し伸べられた手。表情が複雑なのも、怒っているわけではなく、照れているからだと予想がついた。驚いて何も言えずにいるリナリアの視界に、エカルラートがディーから離れて目の前に割り込んでくる。
 
「そんなのずるいわよ!リナリアちゃん!来るなら私のリム王国に来なさいよ!歓迎するわよ!毎日日替わり着せ替えも出来るわ!」

勢い込んだエカルラートの足元から、先ほど隠れてしまったイサラが、にゅ、と顔を出した。胸くらいまで出てきて、少し頬を朱に染めつつ、小さな声で主張する。
 
「リナリア、僕の研究所にリナリアの部屋作るね……」
「あ?お前何勝手なこと言ってんだ」
 
 発言にディーが突っ込むと、イサラが「勝手じゃない」と頬を膨らませて反論している。エカルラートは一人、夢が広がっているようで、その場でくるくると踊り出した。何故かリナリアと一緒にショーパレードをするところまで彼の話が飛躍している。

 目まぐるしいお誘いの中で、ノエスがいつの間にか移動してきていて、リナリアの後ろから、声をかけた。
 
「山……可愛い動物いっぱいいる。うさぎ、リス、アルパカ」
 
ノエスの言葉に、ちょっとだけ惹かれてリナリアが目を輝かせると、他の聖騎士達が「ずるい!」と怒っている。

 賑やかに騒ぐリナリアと聖騎士達の様子を耳に入れながら仕事をしていたフィグルドが、持っていた書類を机の上でとん、と整えると同時に、音でその場を鎮めた。

 そうして彼はいつもと変わらない無表情と淡々とした口調で、宣言した。
 
「リナリアは駄目だ。俺の妻になるからな」




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