聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

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2話 皇帝陛下のご指名

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「……え、ええええええっっ!!?」

 私の絶叫が、夜の魔の森にこだました。
 神聖アルマ帝国現皇帝アジュラ四世。
 それは、強大な軍事力と領土を持つ、この大陸の覇者の名だ。
 冷徹で無慈悲、逆らう者は容赦なく切り捨てる「氷の皇帝」として恐れられているはずの……。

「う、嘘ですよね? だって、皇帝陛下がこんな場所で、しかも狼の姿で……」
『嘘ではない。……む、そこだ。耳の裏をもう少し強めに頼む』 
「あ……はい、ここ、でいいですか?」

 皇帝だと名乗られても、目の前にいるのは巨大なもふもふ。
 要望通り耳の裏を優しく撫でてみると、彼は気持ちよさそうに目を細め、後ろ足でリズムを取り始めた。
 はっきり言って威厳が全くない。

『ふぅ……生き返った心地だ。貴様の指は魔法のようだな』
「あ、ありがとうございます」
『ところで貴様はなぜこのような場所にいる。貴様のようなか弱き少女が立ち入ってよい場所ではないぞ』
「っ、それは……」
『話してみよ。礼代わりに聞いてやろう』

 そう言われてしまっては正直に答えるほかないので、仕方なく私はこれまでの出来事をすべて話した。
 妹の策略に嵌められたこと。婚約者に裏切られたこと。家族に見捨てられたこと。
 裏切られ絶望の果てに孤独に死ぬことを望まれたことを。

 ひとしきりブラッシングを堪能すると、白狼——皇帝陛下は、ゆっくりと身を起こした。
 その瞬間、彼の体が眩い光に包まれる。
 光の粒子が収束し、形作られたのは、人型のシルエット。

 光が晴れた後に立っていたのは、銀糸のような長髪に、黄金の瞳を持つ、息を飲むほど美しい青年だった。
 ただし、頭にはぴょこんと白い獣耳があり、腰からはふさふさの尻尾が生えているけれど。

「ええっ……!」
「そう怖がるな。呪いが完全に解けていないゆえ、耳と尾が残っているだけだ」

 アジュラ陛下は、裸体に身にまとっていたマントを羽織ると、私を見下ろした。
 だがその眼差しは、先ほどまでの甘えるようなものとは違い、鋭い支配者の色を帯びていた。

「リリアナ、言ったな。貴様は国を追放され、家族にも捨てられたと」
「……はい」
「ならば、未練はあるまい。余と共に我が帝国へ来い」
「え……?」

 アジュラ陛下は私の前に膝をつき、わざわざ同じ目線でそっと私の手を取った。
 その手は温かく、大きかった。

「余の呪いを解くには、貴様のその手が必要だ。……いや、訂正しよう。余が貴様を気に入った。貴様の手放しでは、もう眠れそうにない」 
「へ、陛下……?」
「契約だ、リリアナ。余の専属ブラッシング係……いや、『聖獣の守護者』として余の側におれ。衣食住はもちろん、貴様を虐げた者たちが後悔して泣きついてくるほどの地位と名誉を約束しよう」

 黄金の瞳が、私を射抜く。
 地位も名誉もどうでもよかった。
 ただ、誰も私を必要としなかった世界で、この最強の聖獣ひとだけが、私を「必要だ」と言ってくれた。

「……私で、いいのですか? ただの、動物好きの役立たずですよ?」
「『ただの』ではない。今日からは余が貴様を唯一無二の存在にしてやると言っている」

 その言葉に、冷え切っていた心がじわりと熱くなる。
 私は涙を拭い、彼の手を握り返した。

「……はい! 謹んで、お受けいたします!」

 こうして私は、捨てられた森から、大陸最強の皇帝陛下に「お持ち帰り」されることになったのだ。
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