聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

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9話 白と黒の獣

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 サレス王国の国境を越えた瞬間、肌にまとわりつくような不快な空気が私たちを包んだ。
 かつて緑豊かだった平原は枯れ果て、家畜たちは痩せ細り、目から光を失っている。
 王都へ近づくにつれ、その惨状は酷くなっていった。

「ひ、ひぃぃ……助けてくれ……」
「ううっ、もうだめだ……」

 道端には力尽きた人々が倒れ込んでいる。
 その中には、かつて私を「地味だ」と嘲笑っていた貴族たちの姿もあった。
 彼らの華美な衣装は泥にまみれ、見る影もない。
 私たちは転移魔法で一気に王城の上空へと移動した。
 そこには、信じられない光景が広がっていた。

「な、なんだあれは……!」

 城が、巨大な黒いドーム状の何かに飲み込まれかけている。
 その中心にいたのは、異形の怪物だった。
 人の形はしているが、背中からは漆黒の触手が無数に伸び、周囲の大地から無理やり精霊力を吸い上げている。
 顔の左半分だけがかろうじてミナの面影を残していたが、右半分は崩れた泥のように醜く歪んでいた。

『アァ……力が……もっと、もっとよコセェェェ!!』

 耳障りな叫び声。
 あれが、私の妹の成れの果てらしい。

「ミナ……」
「……見るに堪えんな。欲望に飲まれ、器そのものが壊れている」

 アジュラ陛下が吐き捨てるように言う。
 その時、崩れかけた城のバルコニーに、父とカイルの姿が見えた。

「お、おい見ろ! あれはアルマ帝国の皇帝だ!」
「それにリリアナもいるぞ! おいリリアナ! 助けてくれ! ミナが狂ったんだ!」
「そうだ! お前の妹だろう! なんとかしろ!」

 二人は私たちに向かって必死に手を振っていた。
 自分たちが私を捨てたことなど忘れ、恥も外聞もなく命乞いをする姿。
 かつてはあんなに大きく見えた父やカイルが、今は豆粒のように小さく、哀れに見えた。

「……黙れ、下種どもが」

 アジュラ様が一睨みすると、強烈な覇気に当てられた二人は白目を剥いて気絶した。

「さて、リリアナ。掃除の時間だ」
 「はい!」

 アジュラ陛下の体が光に包まれる。
 顕現したのは、あの夜に出会った時よりもさらに巨大で、神々しいほどの威圧感を放つ白狼の姿。
 私はその背中にしっかりと掴まる。

『行くぞ!』

 アジュラ陛下が咆哮と共に急降下する。
 隕石のような衝撃が、異形の怪物——ミナを襲った。

『ギャァァァァァ!!』

 ミナの悲鳴が響く。
 アジュラ陛下の爪が黒い触手を切り裂き、牙が瘴気を噛み砕く。
 圧倒的な戦闘力。
 しかし、ミナと融合した悪魔もまた、しぶとかった。

『イタイ……許サナイ……お姉様ダケハ、許サナイィィ!!』

 ミナの触手が再生し、鞭のように私たちを襲う。
 さらに悪いことに、切断された触手が周囲の空間からさらに無理やり精霊力を吸い上げようとしていた。

『チッ、きりがないな。倒すこと自体は容易いが、これ以上暴れさせれば、この土地自体が死ぬぞ』

 アジュラ様が忌々しげに唸る。
 悪魔は倒されるたびに、再生のために周囲の生命力を奪う。
 力でねじ伏せようとすればするほど、サレス王国が滅びに近づくという悪循環。
 だからこそ、かつてアジュラ様はこの身を犠牲にして「封印」を選んだのだ。

 でも、今は違う。私がいる。

「陛下、私をあの子の懐まで連れて行ってください! そうすれば多分――なんとかなります!」
『……承知した。しっかり掴まっておれよ、余の愛し子!』

 白狼が空を駆ける。
 無数の触手を紙一重で躱し、アジュラ様はミナの懐へと飛び込んだ。
 目の前には、悪魔の核と融合し、憎悪に染まったミナの顔。

『死ネェェェェ!!』

 迫りくる黒い泥。
 私は恐れずに手を伸ばした。
 攻撃魔法じゃない。防御魔法でもない。
 私が使うのは、いつだって一つだけ。

「——こんなに汚れちゃって……。大丈夫、すぐに綺麗にしてあげるから」

 私の手が、ミナの額にある「悪魔の核」に触れた。
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