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最終話 失って、手に入れたもの
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ドクン。
私の魔力が流れると同時に、暴れていた黒い泥が一瞬で硬直した。
「人間には効かなくても……あなたはもう、半分『魔獣』でしょう?」
私は静かに告げた。
悪魔と融合したミナは、もはや人間ではない。
私の対動植物の力の対象内だ。
本来、動物のケアというのは、汚れを落とし、絡まった毛を解き、あるべき姿に戻してあげること。
ならば、このドロドロとした欲望と悪意の塊も、私にとっては「酷い毛玉」と同じだ。
だから私がグルーミングでそれを取り除いてあげる。
私の手から、眩いプラチナの光が奔流となって溢れ出す。
それは攻撃的な衝撃波ではなく、どこまでも優しく、温かい光。
しかし、汚れきった悪魔にとっては、存在を否定される最強の浄化光だった。
『ギ、ギギ……ヤメロ、熱イ、溶ケルゥゥゥ!!』
「ごめんね。でも、その子をあなたの餌にしてあげるわけにはいかないの」
私は櫛で梳かすように、魔力を核の深部へと浸透させる。
ミナの魂にへばりついた悪魔の概念を、根こそぎ引き剥がすイメージで。
ボシュゥゥゥッ!!
黒い泥が悲鳴を上げながら蒸発していく。
私が吸い取った穢れは、背後にいるアジュラ様がすかさず噛み砕き、消滅させてくれる。
完璧な連携だった。
『ア、アァ……お姉、さま……?』
黒い泥が剥がれ落ち、中からミナの体があらわになる。
悪魔が消滅すると同時に、空を覆っていた暗雲が割れ、一条の光が差し込んだ。
♢♢♢
戦いが終わり、王城の中庭には静寂が戻っていた。
悪魔は完全に消滅し、アジュラ様の呪いも——悪魔という元凶が消えたことで——完全に浄化された。
地面には、ミナが力なく横たわっていた。
おそらく命に別状はない。ただ眠っているだけだ。
だが、その体からは魔力が完全に失われていた。
聖女の力はもちろん、悪魔から得た力も、全て。
「う、うう……私の、力が……」
ミナが呆然と自分の手を見つめる。
そこへ、気絶から目覚めた父とカイルが駆け寄ってきた。
「ミナ! 無事か! おい、聖女の力はどうなった!?」
「早くこの国を元通りにしろ! じゃないと俺たちは破滅だぞ!」
二人が心配していたのは、ミナの体ではなく、彼女の「利用価値」だけだった。
ミナは絶望した目で二人を見上げ、そして私を見た。
「……どうして。どうして殺さなかったのよ」
「殺す必要性を感じなかったからよ。あなたのことは憎いけど、死んでほしいわけじゃないの」
「っ、なんで! なんであんたはいつもそうなのよ! 私の方が明るくて可愛くて何倍も魅力があるのに、聖女ってだけで私よりも価値があるなんてズルいじゃない!」
「だから……奪ったの?」
「そうよ! 聖女の力さえあれば私は完璧になれる! みんなが私を必要とするって思って!!」
「……その結果がこれよ。特別な力があったって、完璧になんてなれるわけじゃない。見てみなさい、あなたを見る彼らの目を」
「ッ……!」
私は冷たく言い放った。
人間の姿に戻ったアジュラ陛下が、私の腰を抱き寄せながら告げる。
「リリアナの慈悲に感謝するがいい。だが、貴様らが犯した罪は消えん」
アジュラ陛下の合図で、帝国軍の兵士たちが雪崩れ込んでくる。
この国は、悪魔を召喚し大陸を危機に陥れた罪で、帝国の管理下に置かれることになったのだ。
その責任を取る形で侯爵家は取り潰し。王族であるカイルにも相応の罰が下ることだろう。。
父とカイル、そしてミナは、これからは平民以下の身分として、荒れ果てた土地を自らの手で耕し、一生をかけて償うことになるだろう。
「待ってくれ! 俺は騙されていただけなんだ!」
「リリアナ! 育ててやった恩を忘れたか!」
「……」
二人の哀れな男の見苦しい叫び声が遠ざかっていく。
だけど、いつもあれこれ騒ぎ立てるミナは、何故か大人しく遠くを見つめていた。
だけどそれを見送っても、私の心はもう痛みもしなかった。
ただ、長く絡まっていた悪い因縁が、ようやく解けたような安堵感だけがあった。
「……終わったな、リリアナ」
「はい、陛下」
アジュラ陛下は私の手を取り、跪いてその甲に口づけをした。
背景には、浄化されたばかりの青空と、芽吹き始めた緑。
「礼を言う。貴様のおかげで、余も、この世界も救われた」
「そんな……私はただ、グルーミングが得意だっただけです」
私が照れ隠しで言うと、陛下は悪戯っぽく笑い、私の耳元で囁いた。
「ならば、城に戻ったら続きを頼む。……今夜は、朝まで離さんからな?」
甘く、熱のこもった声。
私は顔が沸騰するのを感じながらも、幸せな予感に胸を躍らせた。
「……はい。覚悟しておきます、私だけの可愛い狼様」
捨てられた聖女と、呪われた皇帝。
数奇な運命で出会った二人の「もふもふ」で「溺愛」なスローライフはすぐそこまで迫っていた。
私の魔力が流れると同時に、暴れていた黒い泥が一瞬で硬直した。
「人間には効かなくても……あなたはもう、半分『魔獣』でしょう?」
私は静かに告げた。
悪魔と融合したミナは、もはや人間ではない。
私の対動植物の力の対象内だ。
本来、動物のケアというのは、汚れを落とし、絡まった毛を解き、あるべき姿に戻してあげること。
ならば、このドロドロとした欲望と悪意の塊も、私にとっては「酷い毛玉」と同じだ。
だから私がグルーミングでそれを取り除いてあげる。
私の手から、眩いプラチナの光が奔流となって溢れ出す。
それは攻撃的な衝撃波ではなく、どこまでも優しく、温かい光。
しかし、汚れきった悪魔にとっては、存在を否定される最強の浄化光だった。
『ギ、ギギ……ヤメロ、熱イ、溶ケルゥゥゥ!!』
「ごめんね。でも、その子をあなたの餌にしてあげるわけにはいかないの」
私は櫛で梳かすように、魔力を核の深部へと浸透させる。
ミナの魂にへばりついた悪魔の概念を、根こそぎ引き剥がすイメージで。
ボシュゥゥゥッ!!
黒い泥が悲鳴を上げながら蒸発していく。
私が吸い取った穢れは、背後にいるアジュラ様がすかさず噛み砕き、消滅させてくれる。
完璧な連携だった。
『ア、アァ……お姉、さま……?』
黒い泥が剥がれ落ち、中からミナの体があらわになる。
悪魔が消滅すると同時に、空を覆っていた暗雲が割れ、一条の光が差し込んだ。
♢♢♢
戦いが終わり、王城の中庭には静寂が戻っていた。
悪魔は完全に消滅し、アジュラ様の呪いも——悪魔という元凶が消えたことで——完全に浄化された。
地面には、ミナが力なく横たわっていた。
おそらく命に別状はない。ただ眠っているだけだ。
だが、その体からは魔力が完全に失われていた。
聖女の力はもちろん、悪魔から得た力も、全て。
「う、うう……私の、力が……」
ミナが呆然と自分の手を見つめる。
そこへ、気絶から目覚めた父とカイルが駆け寄ってきた。
「ミナ! 無事か! おい、聖女の力はどうなった!?」
「早くこの国を元通りにしろ! じゃないと俺たちは破滅だぞ!」
二人が心配していたのは、ミナの体ではなく、彼女の「利用価値」だけだった。
ミナは絶望した目で二人を見上げ、そして私を見た。
「……どうして。どうして殺さなかったのよ」
「殺す必要性を感じなかったからよ。あなたのことは憎いけど、死んでほしいわけじゃないの」
「っ、なんで! なんであんたはいつもそうなのよ! 私の方が明るくて可愛くて何倍も魅力があるのに、聖女ってだけで私よりも価値があるなんてズルいじゃない!」
「だから……奪ったの?」
「そうよ! 聖女の力さえあれば私は完璧になれる! みんなが私を必要とするって思って!!」
「……その結果がこれよ。特別な力があったって、完璧になんてなれるわけじゃない。見てみなさい、あなたを見る彼らの目を」
「ッ……!」
私は冷たく言い放った。
人間の姿に戻ったアジュラ陛下が、私の腰を抱き寄せながら告げる。
「リリアナの慈悲に感謝するがいい。だが、貴様らが犯した罪は消えん」
アジュラ陛下の合図で、帝国軍の兵士たちが雪崩れ込んでくる。
この国は、悪魔を召喚し大陸を危機に陥れた罪で、帝国の管理下に置かれることになったのだ。
その責任を取る形で侯爵家は取り潰し。王族であるカイルにも相応の罰が下ることだろう。。
父とカイル、そしてミナは、これからは平民以下の身分として、荒れ果てた土地を自らの手で耕し、一生をかけて償うことになるだろう。
「待ってくれ! 俺は騙されていただけなんだ!」
「リリアナ! 育ててやった恩を忘れたか!」
「……」
二人の哀れな男の見苦しい叫び声が遠ざかっていく。
だけど、いつもあれこれ騒ぎ立てるミナは、何故か大人しく遠くを見つめていた。
だけどそれを見送っても、私の心はもう痛みもしなかった。
ただ、長く絡まっていた悪い因縁が、ようやく解けたような安堵感だけがあった。
「……終わったな、リリアナ」
「はい、陛下」
アジュラ陛下は私の手を取り、跪いてその甲に口づけをした。
背景には、浄化されたばかりの青空と、芽吹き始めた緑。
「礼を言う。貴様のおかげで、余も、この世界も救われた」
「そんな……私はただ、グルーミングが得意だっただけです」
私が照れ隠しで言うと、陛下は悪戯っぽく笑い、私の耳元で囁いた。
「ならば、城に戻ったら続きを頼む。……今夜は、朝まで離さんからな?」
甘く、熱のこもった声。
私は顔が沸騰するのを感じながらも、幸せな予感に胸を躍らせた。
「……はい。覚悟しておきます、私だけの可愛い狼様」
捨てられた聖女と、呪われた皇帝。
数奇な運命で出会った二人の「もふもふ」で「溺愛」なスローライフはすぐそこまで迫っていた。
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