あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK

文字の大きさ
6 / 17

6話

 翌日。
 私は朝から専用の工房に引きこもっていた。

 昨日はあの信じがたい出来事があってなかなか寝付けなかったけれど、あのまま家に引きこもり続けているくらいならとこうしてここに足を運んだのだ。

 お父様たちも少し心配そうな顔をしてくれていたけれど、私が大丈夫、と一言言うと、

「……そうか。気を付けて行ってこい」

 と送り出してくれた。
 でも今日はいつものように一日中ここにいるわけにはいかない。
 何故なら昨日の件について国王陛下が直接私を指名して呼び出しをされたからだ。

 なんでこんなことで陛下が、などとは思わない。
 陛下もかつては魔導研究者の一人だったからか、あのお方は私の研究に対して深い理解と興味を示してくださっている。
 だから今回のこともきっと無関係ではないと思ってくださってるのかもしれない。

「シェリル様。そろそろ準備をなされた方がよろしいかと」

「うん。分かってる。ありがとうリリカ」

 声をかけてくれたのは私が子供の頃からずっと支えてくれているメイドのリリカ。
 年齢は私の7個上で、私にとっては姉も同然の大切な存在だ。

「…‥シェリル様。一使用人の身としては差し出がましいようですが、その、あまりご無理はなさらないでくださいね」

「……うん。分かってるよ。でも、仮にも婚約者だった人とのいざこざだから、私が逃げるわけにはいかないよ」

「シェリル様は私の大恩人で、やがてこの国には欠かせない存在となるお方。どうかご自身のことをお気遣いくださるよう……」

「……うん、ありがとう」

 リリカは元々、使用人ではなかった。
 正確には我がブランヴェル家に仕えていた使用人の娘だったんだけど、彼女には残念なことに魔法の才能が全くなかったんだ。
 本当は娘をブランヴェル家に仕えさせたかったその人はひどく落胆して、かと言って放っておくわけにもいかないと、リリカには魔法が関係しない単純作業のみが与えられていた。

 リリカも自分には才能がないと自覚しており、昔は滅多に喋らないくらい暗い性格になってしまっていたんだ。
 だから……

「ほら、これ! 使ってみて! ここのボタンを押すだけでいいの。それだけでお湯が沸くから!」

「こ、こう、ですか……?」

 私は彼女に被検体になってもらうことにした。
 身近にいる魔法が全く使えない貴重な存在。
 私が目標としている、誰もが魔導具を気軽に使える世界を目指すために必要な人材だと。

 私がその時彼女に手渡したのは、ボタンひとつで「加熱」の魔法が起動して、中に入れた水をお湯に変化させる魔導具だ。
 まだまだ魔力の消費効率が悪いので実用性はイマイチだけど、近くにある分には私が補充した魔力で賄える。

 お湯を沸かすなんて行為は、直接火にかけるか魔法を使うかの二択しか無かったので、こんな手軽にお湯が沸くことに彼女はひどく驚いていた。
 その時の顔は今でも忘れない。

「す、すごい……!!」

「ね。こういうのがあれば普通のお仕事もきっと簡単にできると思うんだ。だからさ……」

 元々、私は彼女のことがずっと気になっていた。
 やや歳の離れた妹が生まれるまでは、家の中に同世代の女の子が彼女しかいなかったから、どうにかして仲良くなりたいと思っていた。

 だから作った。
 私にはそれを作れる才能があった。
 そして私の頭の中にはまだまだたくさんの便利な発明品の完成図が思い浮かんでいた。

 こんなのでは終わらない。
 もっともっと便利な魔導具を作って、みんなが楽できる世界に。
 リリカみたいな子が不当な扱いをされない世界に。

 そのためなら私はこの程度のことで折れたりはしない。
 この工房にいると、改めてそう強く決心できた。
感想 29

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております