シュガーサマー ビターライフ  ── Sugar Summer Bitter Life ──

風良桑 るな

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一章 八羽の折鶴

 三 ──

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 空を覆う雲が太陽の日差しを遮り、僅かに白を貫通した光も揺らめくカーテンが部屋に入るのを拒んでいた。部屋を照らすのは天井についたオフホワイトの光を放つ蛍光灯。その光が鶴を照らしている。
「もしあの時、遊びに誘うのを諦めていたら、あの子が心を閉ざしたままだったら、仲間に入れようなんてしなかったら、きっとあの子は自殺のうとしていた」
 過去の事は嬉しいことでも悲しいことでも全ては後の祭り。戻ることはできないし、その過去を変えることはできない。その影響を受けた現在と未来を切り開くことしかできない。
 数えきれない程の分岐点の中から意図せず、もしくは見える中から選んで一本を選ぶ。それ以外は見逃していく。
「一緒に遊んで家の外へと触れ合わせる。そんな軽々しいイメージとは裏腹に、やっている事の重さを思い知ることになったんだ」
 何度も分岐点を通過して進んだ先に、とても高い壁が待ち受けることもある。別の道を捜すため迂回するか、乗り越えていくか、それとも乗り越えられず下へと沈没するか。どれを選んでも人生のルートは進んでいく。
「どういうことですか」それを聞いていた部員らは首を捻っていた。
「引きこもりの原因にも理由がある。その子の場合は、だった。学校でのいじめだ。遊ぶことじゃ何ともならない。救うには心だけじゃなくて、学校の体制を変えることが必要だった。高校生には荷が重いものだったよ」
 藍色の鶴を手に取った。
 一言で表すなら完璧。美しく優雅な折鶴だ。それでいて心に抱える闇と見つけた希望を体現している。メッセージ性すら持たせている鶴だった。
 今度は赤紫色の鶴を手に取った。
 乱暴で乱雑な折鶴。適当さがあるように見えるこれにも、奥底の真心があるように見える。
 しんみりとした部屋の中では皆の手が止まっていた。
 不思議と放つ周波が勝呂に視線を集めていく。
「それは遊びのボランティアでは言い表せない。だからこそ、命に関わるボランティアなんだ」
 もし物語とするのならば、それはヒガナの物語だけでは事足りない。もう一人、彼女の存在が大きく左右する。その人物の名は神崎 双葉かんざき ふたば。彼女もまた闇を抱える一人であった。
「シュガーサマー」幸せな一夏の青春。砂糖のような甘くて幸せな夏。
「ビターライフ」彼女達の生きた辛い人生。ブラックコーヒーのように苦い人生。
「シュガーサマー、ビターライフってなんですか」との質問が現れた。当たり前だ。突然、その言葉を発したのだから。
 突然現れた言葉。その説明を秒で考えていく。
「うーん。そのボランティアとそれに繋がる物語を表した、造語ってとこだな」
 一瞬現れた穏やかな風。
 その風がカーテンを小さく揺らした。
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