5 / 17
一章 八羽の折鶴
三 ──
しおりを挟む
空を覆う雲が太陽の日差しを遮り、僅かに白を貫通した光も揺らめくカーテンが部屋に入るのを拒んでいた。部屋を照らすのは天井についたオフホワイトの光を放つ蛍光灯。その光が鶴を照らしている。
「もしあの時、遊びに誘うのを諦めていたら、あの子が心を閉ざしたままだったら、仲間に入れようなんてしなかったら、きっとあの子は自殺のうとしていた」
過去の事は嬉しいことでも悲しいことでも全ては後の祭り。戻ることはできないし、その過去を変えることはできない。その影響を受けた現在と未来を切り開くことしかできない。
数えきれない程の分岐点の中から意図せず、もしくは見える中から選んで一本を選ぶ。それ以外は見逃していく。
「一緒に遊んで家の外へと触れ合わせる。そんな軽々しいイメージとは裏腹に、やっている事の重さを思い知ることになったんだ」
何度も分岐点を通過して進んだ先に、とても高い壁が待ち受けることもある。別の道を捜すため迂回するか、乗り越えていくか、それとも乗り越えられず下へと沈没するか。どれを選んでも人生のルートは進んでいく。
「どういうことですか」それを聞いていた部員らは首を捻っていた。
「引きこもりの原因にも理由がある。その子の場合は、いじめだった。学校でのいじめだ。遊ぶことじゃ何ともならない。救うには心だけじゃなくて、学校の体制を変えることが必要だった。高校生には荷が重いものだったよ」
藍色の鶴を手に取った。
一言で表すなら完璧。美しく優雅な折鶴だ。それでいて心に抱える闇と見つけた希望を体現している。メッセージ性すら持たせている鶴だった。
今度は赤紫色の鶴を手に取った。
乱暴で乱雑な折鶴。適当さがあるように見えるこれにも、奥底の真心があるように見える。
しんみりとした部屋の中では皆の手が止まっていた。
不思議と放つ周波が勝呂に視線を集めていく。
「それは遊びのボランティアでは言い表せない。だからこそ、命に関わるボランティアなんだ」
もし物語とするのならば、それはヒガナの物語だけでは事足りない。もう一人、彼女の存在が大きく左右する。その人物の名は神崎 双葉。彼女もまた闇を抱える一人であった。
「シュガーサマー」幸せな一夏の青春。砂糖のような甘くて幸せな夏。
「ビターライフ」彼女達の生きた辛い人生。ブラックコーヒーのように苦い人生。
「シュガーサマー、ビターライフってなんですか」との質問が現れた。当たり前だ。突然、その言葉を発したのだから。
突然現れた言葉。その説明を秒で考えていく。
「うーん。そのボランティアとそれに繋がる物語を表した、造語ってとこだな」
一瞬現れた穏やかな風。
その風がカーテンを小さく揺らした。
「もしあの時、遊びに誘うのを諦めていたら、あの子が心を閉ざしたままだったら、仲間に入れようなんてしなかったら、きっとあの子は自殺のうとしていた」
過去の事は嬉しいことでも悲しいことでも全ては後の祭り。戻ることはできないし、その過去を変えることはできない。その影響を受けた現在と未来を切り開くことしかできない。
数えきれない程の分岐点の中から意図せず、もしくは見える中から選んで一本を選ぶ。それ以外は見逃していく。
「一緒に遊んで家の外へと触れ合わせる。そんな軽々しいイメージとは裏腹に、やっている事の重さを思い知ることになったんだ」
何度も分岐点を通過して進んだ先に、とても高い壁が待ち受けることもある。別の道を捜すため迂回するか、乗り越えていくか、それとも乗り越えられず下へと沈没するか。どれを選んでも人生のルートは進んでいく。
「どういうことですか」それを聞いていた部員らは首を捻っていた。
「引きこもりの原因にも理由がある。その子の場合は、いじめだった。学校でのいじめだ。遊ぶことじゃ何ともならない。救うには心だけじゃなくて、学校の体制を変えることが必要だった。高校生には荷が重いものだったよ」
藍色の鶴を手に取った。
一言で表すなら完璧。美しく優雅な折鶴だ。それでいて心に抱える闇と見つけた希望を体現している。メッセージ性すら持たせている鶴だった。
今度は赤紫色の鶴を手に取った。
乱暴で乱雑な折鶴。適当さがあるように見えるこれにも、奥底の真心があるように見える。
しんみりとした部屋の中では皆の手が止まっていた。
不思議と放つ周波が勝呂に視線を集めていく。
「それは遊びのボランティアでは言い表せない。だからこそ、命に関わるボランティアなんだ」
もし物語とするのならば、それはヒガナの物語だけでは事足りない。もう一人、彼女の存在が大きく左右する。その人物の名は神崎 双葉。彼女もまた闇を抱える一人であった。
「シュガーサマー」幸せな一夏の青春。砂糖のような甘くて幸せな夏。
「ビターライフ」彼女達の生きた辛い人生。ブラックコーヒーのように苦い人生。
「シュガーサマー、ビターライフってなんですか」との質問が現れた。当たり前だ。突然、その言葉を発したのだから。
突然現れた言葉。その説明を秒で考えていく。
「うーん。そのボランティアとそれに繋がる物語を表した、造語ってとこだな」
一瞬現れた穏やかな風。
その風がカーテンを小さく揺らした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる