303号室

大柴 萌

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1.衝撃

14:33

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―――男は驚愕する。

およそ想像していた光景と目の前の光景にあまりに大きな乖離があったからだ。

肩にかけていたトートバックがずり落ちて床にぶつかり硬い音を立てた。

信じられない光景の中、男はめまぐるしく回る脳内を何とか整理しながらゆっくりと歩みを進めたが、目的地までの数歩の間にそれを理解することは到底出来ない。

一歩、二歩、三歩目で男の靴下は赤く染まる。


「つぐみ…?」


リビングの中心、一人の女性が横たわっていた。

女性の周りには真っ赤な鮮血が広がっていて、僅かに開いた瞳からは生気が失われている。

この現場に遭遇した者なら誰しもが脳内に過るだろう。

【女性が殺されている】と。


「つぐみ!」


もちろん男にもその最悪な結末が脳内を過った。

しかし彼はその結末を受け入れる事が出来ず、駆け寄りその体を揺り動かして何度も名前を呼んだ。


「つぐみ!つぐみ!しっかりするんだ!おい!」


彼がいくら呼びかけても反応はなく、その体はぐったりと横たわったまま。

取り乱しながらも彼は彼女の胸に恐る恐る手を置いた。

理由は明白、彼にとっては恐怖ではあるが知らなければならないのだ。

彼女が生きているのかを。

しばしの静寂の後、彼の手は震え始めてその目には熱いものがこみ上げていた。


「どうして……なんでこんな……」


次の瞬間に彼は横たわっていた彼女の上体を起こし抱きしめた。


「なんでこんな事に!なんで!誰が!」


自分の体に彼女の血が付く事なんて構わず、壊れてしまいそうなほど強く抱きしめる。

悲痛な叫びは十五畳ほどのリビングに虚しく響いた。

そう、既に女性は事切れていた。

なぜこんな事になったのか、誰がやったのか、彼の頭の中は深い悲しみと絶望と疑念が渦巻いていて、とてもじゃないが冷静でいられる状況ではない。

その状態がどれほど続いただろうか、時間にすれば5分程度、彼の体感時間ではほとんど一瞬で過ぎ去った。
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