303号室

大柴 萌

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1.衝撃

14:46

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軽率な言葉で怒りのボルテージを上げてしまった堀、振り上げていたゴルフクラブを持つ手が震えている事から命の危険に赤信号が点っているのは明白。

この絶体絶命の状況の中、どうにか生き残る方法を探す。


(ヤバい!一か八かこのまま走って逃げ出せばいけるか?マスクしてるし帽子被ってるから顔見られてない)


しかしこの状況から逃げ出すのは至難。

出入口は夫の背後、クローゼットの中で座っている状態。

ここから逃げるためにはどうにかしてこの夫を突破する必要があった。

脇をすり抜けて駆け抜けるにしても攻撃を受けてしまう可能性は高く、当たり所が悪ければ一発で殺されてしまうかもしれない。

かといって飛びかかって相手を制圧し無効化しようにも、座っている状態からではどうしても時間がかかってしまい反撃をくらってしまうのも理解していた。

この状況下でどうにか生き延びる方法で最も確率が高いのはやはり【説得】だろう。

しかしこの説得もやはりかなり難しい。

相手は興奮状態であり、かつ先程から堀の言葉を全く信じようとしない。

だがもはや考えている暇はない、彼は自分が助かるために半ばヤケクソで言葉を返した。


「だ、旦那だったのか、それは悪かったよ!でも俺じゃないんだよホントに!どうすりゃ信じてくれるんだ!それに俺を殺したらあんたも殺人犯になるぞ!」

「うるさい!黙れ!」

「その姿じゃあんたの方が疑われるぞ!」


苦し紛れに放ったその言葉に夫の興奮状態が一気に沈静化する。

夫である男はその一言により今自分の姿がどんな状態であるのか、初めて自らの体を確認して理解する。

血まみれで倒れていた妻、感情のまま血溜まりの中に足を踏み入れ、妻の体をしっかりと抱きしめてしまった事により自分の服に大量の血がついてしまっていた。

それが何を意味するのか、深く考える必要などない。

この状態を目撃されたのなら疑われるのはどう考えても自分だということ。

さらに加えてあらゆる場所に自分が触った跡がついてしまっている。

つまり自分が妻殺しの犯人だと断定されてしまう可能性すらあった。

万が一目の前の男が無実であって言っている事が本当だとしたら、ここでこの男を殺してしまったらそれこそ取り返しがつかない。


「⋯⋯立て」


ゴルフクラブは変わらず構えたままだったが、先程までの勢いは一気になりを潜めて、今度は静かにそう告げた。

その言葉を聞いた堀には彼の心情は全く理解出来なかったが、それでも何とか一番のピンチを乗り越えたようだと少しだけ安堵する。
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