303号室

大柴 萌

文字の大きさ
3 / 4
1.衝撃

14:40

しおりを挟む
ゴルフクラブを右手にそろりそろりと歩みを進め、折れ戸の前で立ち止まる。

静寂に包まれた寝室、クローゼット内から音は聞こえてこない。

相手がどう出てくるかわからない以上、いつでも攻撃できる体勢を整えておく必要がある。

ゴルフクラブはいつでも振り下ろせるように振りかぶった状態を維持、左手で折れ戸の取っ手に手をかけ、一度深呼吸を入れて一気に開け放った。


「わあああ!待て待て待て待て!待って!待ってくれ!」


開けた瞬間に放たれた声、声の主はクローゼットの中に座り込んでひどく怯えていた。

手を顔の前にかざして防御の体勢のまま必死に説得を試みる。


「殺さないでくれ!俺じゃない!俺は何もしてない!」


一気に言葉を畳み掛けるクローゼットの男。

すぐにゴルフクラブで殴り掛かってやろうと思っていた彼はまるで自分が彼女を殺した犯人かのような言われように思わず逡巡する。

振り下ろす寸前だった右手をそのままぐっと堪え、クローゼットにいた謎の男の言葉に返答する。


「お前がつぐみを殺したのか⁉」

「違う!俺じゃない!俺は水道工事の人間だ!鍵が開いてたから中に入ったらこんな事になってて……」

「嘘をつくな!」

「嘘じゃない!本当なんだよ!信じてくれよ!」

「じゃあなんでここに隠れてた⁉」

「やばいと思って外に出ようと思ったんだ!そしたらあんたが入ってきたから!」


業者の男は作業用のつなぎを着ていて苗字が縫われていた。

男の名前は堀。深く被った帽子から茶髪がはみ出し、鼻まで黒いマスクを着用している為、その顔の全体像を知ることはできない。


「お前がやってないなら隠れる必要ないだろ!」

「ここにいたら疑われると思ってとっさに隠れたんだよ!ホントにマジなんだって!」

「そんな話信じれるわけないだろ」

「待て待て!ほらこのつなぎ見ればわかるだろ?」

「……」


堀はそこでようやくかざしていた手の隙間から目の前に立つ男の姿を見て戦慄する。

血まみれの男、片手にゴルフクラブを持ち今にも振り下ろしてきそうな圧迫感。

一つでも言葉を間違えてしまえば殺されてしまう、そんな感覚を本能的に感じ取っていた。


(ヤバいヤバいヤバい!これマジヤバいぞ!なんとかしてここから逃げないと殺されちまう!)


「俺は本当に関係ないんだって!」

「それは僕が決める事だ」

「俺は何もやってない!あんたがやったんじゃないのか?」


その言葉を聞いて彼の顔はみるみる赤くなっていく。


「彼女は僕の妻だぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

処理中です...