家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜

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序章

星の森が見た運命

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 夜の深い静寂が、王国全土を優しく包み込んでいた。
 満天の星々は、まるで地上に降り注ぐかのような光を零し、
 その光は、王国北部――星降りの森と呼ばれる神秘の森へと吸い込まれていく。

 その森の奥深く。
 人ならざる三つの影が、静かに気配をそろえていた。

 一つ目は、月光をまとうかのように輝く巨大な狼。
 白銀の毛並みには一筋の曇りもなく、
 圧倒的な威厳と神聖さをにじませる――フェンリル。

 二つ目は、白い天使の翼を背に生やした小さな猫。
 大きさは普通の猫だが、金の瞳には古き叡智を宿す――ウィングキャット。

 三つ目は、黒い影のように淡く揺れる小さな熊。
 影から影へ、まるで水のように移ろう不思議な存在――シャドーベア。

 三体は同時に、空の彼方で瞬きを増すひときわ強い光へと顔を上げた。

『……生まれたか。星をまとう子が』

 フェンリルの低い声が、森の空気を震わせる。

「きれい……すっごい光。あれ、間違いなく“特別な子”だよね」

 ウィングキャットの小さな翼が、期待に震えるようにふるふる揺れた。

『あんな濃い“気配”……初めて。あの子……すごい子、だと思う』

 シャドーベアは影の中から半分だけ顔を出し、星を眇めるように見つめた。

 フェンリルはゆっくりと立ち上がる。
 白銀のたてがみが、星光を反射して神のように輝いた。

『千年に一度、星の祝福を受ける者は生まれる。
 だが……これは違う。これは“祝福”ではない』

「じゃあ、なに……?」

『運命だ。強すぎる。深すぎる。
 人間の器では抱えきれぬ“光”――だからこそ、いずれ迫害される』

 二体は息をのむ。

「まだ……生まれたばかりの子なんだよ?」

『むしろ生まれたばかりだからこそだ。
 あれほどの力を宿す子を、人間は恐れる』

 風が静かに森を撫でた。
 葉のざわめきさえ、フェンリルの言葉に耳を傾けるかのようだった。

『――あの子はきっと、家族にさえ見捨てられる日が来る』

 ウィングキャットの金色の瞳が揺れた。

「そんなこと、させないよ。絶対に」

『……あの子、泣かせない……。ぼく、守る……』

 シャドーベアが小さく拳を握るように影を震わせた。

 フェンリルは二体を見つめ、静かに、しかし揺るぎない声で言う。

『だから行く。
 あの子が孤独に震える前に――
 我らが、あの子を“選ぶ”。
 誰よりも早く、誰より深く、愛するために』

 ウィングキャットの翼がぱっと広がった。

「うん! 行こう、フェンリル!」

『うんっ……行く……!』

 三体は一斉に駆け出した。
 ウィングキャットは夜空へ羽ばたき、
 シャドーベアは影から影へと瞬きのように移り、
 フェンリルは森を揺らす力強い足取りで前へ進む。

『待っていろ、愛し子よ。
 いつか必ず、お前が泣く日が来る。
 その涙を誰より先に受け止めるのが――我らの使命だ』

 星が、まるで祝福するように瞬いた。

 それは、アイラがこの世界に生まれる――
 ほんの数分前の出来事だった。
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