家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜

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1章

最後の朝

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その朝、アルセリア公爵家は不自然なほど静かだった。

普段なら賑やかな使用人の声もなく、
長い廊下には靄のような冷たい空気が漂っている。
10歳を迎える直前のアイラは、
胸の奥に小さな棘が刺さったような不安を抱えたままベッドを降りた。

(……なんだろう。いつもの朝と違う)

侍女に挨拶すると、彼女は驚いたように背筋を跳ねさせ、
無理に作った笑顔を浮かべた。

「お、おはようございます……アイラ様。すぐに食堂へ……」

声が震えていた。

食堂に着いても、誰もいなかった。
大きすぎるテーブルと静寂だけが、アイラを包む。

(どうしたの……?
パパもママも、お兄ちゃんたちも……来ない)

不安を誤魔化すようにスープを口にしたとき──
重い扉が「ギィ」と音を立てて開く。

「……アイラ」

入ってきたのは父――
ガルド・アルセリア公爵。

その後ろに母、兄、姉が続く。
いつもならその姿を見るだけで安心できたのに、
今日はなぜか、胸がぎゅっと痛んだ。

「おはよう……? みんな、どうしたの……?」

アイラの声は震えていた。

ガルドは、氷のように冷えた瞳で娘を見つめた。

「アイラ。……今日話すことは、公爵家としての決定だ」

「け、決定……?」

嫌な予感が、背中を撫ぜる。

ガルドは淡々と告げた。

「お前は……公爵家には相応しくない“魔力”を持っている。
このまま家に置いておくことはできない」

世界が揺れた。

「え……なに……? どうして……?」
「わたし、なにか悪いことをした……?」

母は悲しそうに目をそらし、
兄も姉も一度もアイラを見ようとしない。

「家としての判断だ。……これはお前のためでもある」

ガルドの声は、優しさを装っていたが、
血の一滴も通っていない冷たい声に聞こえた。

母が震える声で続ける。

「アイラ……あなたは特別なの。
外のほうが、きっと幸せになれるわ」

その“優しさの形をした嘘”が、
一番アイラの心を壊した。

「いやだ……! 家族がいいよ……!」
「ママ、パパ、行きたくない……!」

小さな手を伸ばす。
けれど──誰一人、その手を取らなかった。

兄も、姉も、
ただ後悔に満ちた目でうつむくだけ。

そして、偽りの言葉が放たれる。

「……これは、お前のためだ」

アイラの世界はその瞬間、音を立てて崩れた。

だが遠い“星降りの森”では──
フェンリル、ウィングキャット、シャドーベアの三体が
同時に顔を上げていた。

『泣いている……我らの愛し子が泣いている』

その朝は、裏切りの終わりであり──
“新たな家族”が動き始める始まりだった。

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