家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜

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1章

決断の夜

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王家からの通達を受けて三日目の夜。
アストリア家には重い沈黙が落ちていた。
 暖炉の火は揺れているのに、
家全体がひどく冷え切っているように感じた。
 その日、アイラは珍しく早く眠ってしまった。
昼間、村の大人たちに避けられ、
友達にも逃げられ、
小さな心は疲れ切っていたのだ。
 そして──
アイラが眠った後、家族だけの“最初で最後の会議”が始まった。

 父ガルドは、深く深くため息をつき、ようやく口を開いた。
「……王家からの回答期限は、明日の朝だ」
 母ライラは震える手を胸に当て、
今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。
「……返事をしなければ、反逆罪。
家も、村も巻き込んでしまう……?」
「ああ。俺たちだけでは済まない」
 兄ルーグと姉ミリアも、難しい顔をして父の話を聞いていた。
「……じゃあ、お父さん。私たちは……どうすべきなの?」
ミリアが涙を浮かべて尋ねた。
「アイラは……アイラは私たちの妹だよ!
危ないところに行かせられるわけない!」
 ルーグが叫ぶように言うと、
母ライラは目を閉じて、震える声で返した。
「……でもね、ルーグ。
王家に逆らったら……あなたたちまで危険にさらされるのよ」
「そんなの……そんなの嫌だよ……!」
 ミリアも泣き出しそうな声を洩らす。
 父は、大きな手で顔を覆った。
「アイラを守りたい。
だが……王家はあの子を“力のための道具”としか見ていない。
そんなところに渡せば、きっと……人として生きられなくなる」
「だったら、渡さなければいいじゃない!」
ルーグが叫ぶ。
「……逃げるんだ。
家ごと、国から……誰にも見つからないように……!」
 息を呑む家族。
 母ライラは目を見開き、すぐに首を振った。
「そんなこと……できるはずがないわ。
私たちが国を出たと知れば、騎士が追ってくる。
……捕まったら、どうなるか……」
 誰も続きは口にしなかった。
だが、全員が思い浮かべた。
処刑。
拷問。
家族の破滅。
 やがて、父ガルドは低い声で言った。
「……一つだけ、方法がある」
 家族全員が、父に視線を向ける。
「……アイラを“家の外”で保護者に預けた、として……
王家には“姿を消した”と嘘をつくんだ」
「……!」
「アイラを連れて村を出る。森か、どこか遠くへ。
……王家が到着する前に」
 母ライラは一瞬希望の光を見たが──
すぐにその光は揺らぎ、消えた。
「……そんなことをしたら、私たちは……」
「ああ。“アイラを隠した”と疑われる。
だが、生きて逃げるよりはマシだ。
……俺たちが捨てたと見せかければ、
王家も“用済み”と判断して追ってこないかもしれない」
「……捨てた、ように?」
 ミリアが震えた声で繰り返した。
 父の手が震えた。
「本当に捨てるわけじゃない。
生き延びさせるための……偽りの“別れ”だ」
 母ライラの目から、涙がこぼれた。
「そんなの……そんなの……」
「残酷すぎるわ……!」
「だが……アイラを守るためには、それしかない」
父ガルドの声も震えていた。
 沈黙が落ちた。
 誰も賛成したくない。
だが、他に道がない。
 ルーグが歯を食いしばった。
「……アイラ……泣くだろうな」
「うん……」
ミリアも声を震わせた。
「私たち……嘘をつくの……?
アイラに“嫌いになった”って言うの……?」
「言わなければならない」
父は、もう涙をこらえられなかった。
「“嫌いになった”と。
“家族じゃない”と。
……そう言えば、アイラはきっと諦める。
追ってこない」
「そんなの……!
あの子が、どんなに傷つくか……!」
「わかっている。
だが、それが……アイラを守る唯一の方法なんだ……!」
 家族全員が泣いていた。
 母ライラは顔を覆いながら呟いた。
「……ごめんね、アイラ……
こんな形でしか守れなくて……」

 その夜、家族は眠れなかった。
 全員がアイラの寝顔を思い浮かべ、
まだ気づかずに眠るアイラの幸福な寝息を思い出し──
胸が締め付けられるような痛みに耐えていた。
 明日、愛する娘に嘘をつかねばならない。
 愛しているからこそ、
“嫌いだ”と言わなければならない。
 これは、家族にとっても地獄だった。
 だが、それでも――
アイラを生かすために、家族は“嘘の決断”を下した。
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