【完結】銀鳴鳥の囀る朝に。

弥生

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銀鳴鳥の囀る朝に。

銀鳴鳥の囀る朝に。 第五話

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 その後、グラディウスはずっと悪夢の中にいるように感じていた。
 先帝が望んでいるらしく、首は塩漬けにされて隣国に運ばれるらしい。
 身体は火に掛けられて灰になるとも。
 ……不慮の事故で亡くなったことになるアイル・ラスターの墓には、遺髪の一本すら残されることなく、空の棺が埋蔵されるのだと騎士団長は説明していた。

 亡くなった騎士の部屋は片付けが不要なほどに整理されており、昔あいつと一緒に可愛がっていた後輩は、本を受け取って泣いていた。

 グラディウス宛に残されていた長剣と短剣は、昔あいつに『王から下賜された剣なんていいなぁ』と、どうして下賜されることとなったのかを知らなかった愚か者が望んだ物だった。
 王子の身代わりとして、任を密かに受けたから得た褒賞だと、あの頃はまだ知らなかったから、気軽に妬むことができた。
 他の騎士たちが泣いている間に、グラディウスは泣くことができなかった。
 何を言っているのだろう。あいつは、昨日の夜だって俺と一緒に飲んでいたのに。
 虚ろなままにアイルが残した剣を持って佇んでいた。
 他の騎士たちから、お前は顔色が土気色になっているから部屋に戻っていろと、あいつの部屋を追い出された。

 部屋に戻り、痕跡を探す。
 昨日共に飲んでいた場所は、綺麗に片づけられていた。
 ふっと、部屋の隅の荷物が視界に入る。

 昨日託された、銀鳴鳥。

 ふらふらと近づき、鳥籠に掛けられていた布を外す。
 鳥籠の中には、息を飲むほどに美しい銀の鳥がいた。

「ピィ! ピィ!!」
 
 銀鳴鳥は他の貴族の屋敷でも見たことがあった。
 だが、ここまで美しい銀鳴鳥は見たことがなく、どれほどまでにアイルが丁寧に育てていたのかが伺い知れるような様であった。

「……お腹が、すいたのか?」
「シリル! ……カワイイ! ……シリル!! ……ゴハンアゲヨウ!!」

――シリル、かわいいね。シリル。ご飯をあげよう。

 聞こえないはずの、彼の声が聞こえるようであった。
 震える手で彼の置いていった袋から魔石を数粒を取り出す。

「ピィ!」
 シリルと呼ばれていた鳥は、綺麗な声で鳴くと魔石を器用に嘴で突いて食べた。

「は……はは……」

 主がこの世から消えても、鳥は変わらず鳴く。
 朝が訪れるように。夜が訪れるように。

 銀鳴鳥は周りをきょろきょろと見渡す。
 ピィと小さく心細いように鳴いた。

「まだ、食べるか?」
 グラディウスは魔石を取り出す。

「シリル……カワイイネ? シリル……アイシテイル……アイル……アイル……ドコ?」
 持っていた魔石を取りこぼしてしまいそうになった。
 俺の方こそあいつのところにいきたい。

 銀鳴鳥は不安そうに鳴く。
 このシリルという銀鳴鳥は、覚えさせたい言葉は覚えないのに、覚えて欲しくない言葉ばかりを覚える。
 何度かアイルも言葉を選んで覚えさせようとしたが、シリルが覚えたのは寝台に倒れ伏して零した、消し去りたい弱音や吐露ばかり。 
 
 だからこそ、アイルが一番隠していた事ですら、暴き立ててしまう。

「グラディウス……」
「っ!!」
「スキダ……スキ……カレガホカノダレカヲスキデモ……ボクガカレニトッテユウジントシカオモワレナクテモ……」

――好きだ。……好き……彼が他の誰かを好きでも……僕が彼にとって友人としか思わていなくても……。

「あっ……ああ……ぁあっ……」
「イトシイ……コイシイ……ソレデモ……トナリニアリタイカラ……」

――愛しい。……恋しい。……それでも……隣に在りたいから。

「グラディウス……キミガボクヲスキデナクテモ……ズットボクガキミヲオモウノヲ……ユルシテホシイ」

――グラディウス……君が僕を好きでなくても……ずっと僕が君を想うのを、許してほしい。


 魔石を零し、ガシャンと鳥籠に手を掛ける。
 彼が、彼がずっと隠していた。
 彼の想い人は、自分だった。
 だから、昨日、真実を話さなくても……自分に抱かれに来たのは……。

 閉じていた瞳が、開くような恋だった。
 やっと心の隙間が埋まるような恋だった。
 朝起きたら、彼に告げようと……自覚したばかりの恋だった。

 
 けれども、もう隣に彼はいない。 


 どこにも、いない。




「うああああああああああああああ!!!!!!!」

 そう悟った時、胸をつんざ慟哭どうこくが、辺りに長く木霊した。




















 遠い遠い国の物語。
 
 隣り合った二つの国の衝突は激しさを増し、細い線で繋がれていた均衡はあっけなく崩れ去ってしまった。
 長く続く戦に民は疲弊し、大地は荒れ果て、多くのものが失われた。

 だが、二つの国を滅ぼし、戦を止めた者がいた。

 人は彼を聖騎士だという。
 一振りの剣技で何十何百と敵を屠る。
 人は彼を魔導士だという。
 一振りの魔法で何十何百と敵を屠る。
 
 荒れ果てた大地に佇み、数百のむくろの山を踏みしめた彼の肩には、金糸の混ざる美しい銀の鳥がとまっていたという。

 







『銀鳴鳥の囀る朝に。』

 ―終―


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