【完結】銀鳴鳥の囀る朝に。

弥生

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銀鳴鳥の囀る朝に。 短編

短編 あの言葉を何度でも。

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亡霊ファントムの物語です。
 ちょこっと切ないです。

 
「グラディウス。僕の愛しい人。永久に、君の幸福を。君の幸いをこいねがう」

 
 男にとってその言葉は希望であり、祝福であり、そして……忘れる事の出来ない呪いであった。


 
 魔法の込められたつるぎが騎士を貫く。
 片膝を付いて血反吐を吐いた騎士は、団長しか帯刀を許されない宝剣を地に突き刺し身体を支える。
 流れ落ちる血の量から、自身の命が長くない事を理解していた。
 国に忠義を尽くしてきた騎士団長を貫いたのは、古いフードを被った隻眼の男。
 一切の情を感じさせない瞳で騎士を見ていた。
 
「く……隻眼の男よ……お前の狙いはなんだ……私を殺そうとも……我が王国は崩れぬぞ……」
「どうだか。……死ぬ前に聞きたいことがある。彼の……呪具を解除する解除呪文レリース・ワードは何だ」
「それを……聞いて……どうする」
 騎士団長は理解できない顔で男の傍らで事切れる青年を見つめた。
 その美しく眠る様に死ぬ青年の顔は、この国の第三王子そのものであった。
 手首に付けられた腕輪は特別製で、装着した者は顔を変える事が出来る。
 死んでからも永遠に効力を発揮する為に、王族の身代わりには装着が義務付けられていた。
 後から解除ができない為に、いまさら解除呪文レリース・ワードを知っても意味はない。

 壮年の男は肩を竦めると、「今後の為に」と望んだ。
 銀に金の混ざる美しい鳥がそっと男の肩にとまると、凛とした声で鳴いた。

 騎士団長は目の前が暗くなり、死へと向かう意識の中、ふと、男の相貌が部下の一人と似ていることに気が付いた。
 だが、年齢的に合わない。
 確かに強い青年ではあったが、ここまで強い騎士ではなかった。
 ただ、その哀しみを通り越して光が無くなったような男の瞳に、そっと解除呪文レリース・ワードを囁いた。
 
つるぎを折る。……その青年は最期まで清廉で、国のために殉じた。……見事な騎士だった」
「剣を……確かにあいつは言葉にしなさそうだな」
 ふっと血が通わないような瞳に一瞬だけ切なさが過る。
 騎士団長は、だから……その言葉を選んだのだと……死の間際まで四肢を奮い立たせる。
「貴様が……何を持ってして剣を血に染めるのか……私にはわからぬ……だが……その力があるなら……この不毛な戦を……止めてくれ……」
「……俺にそれを頼むって言うのかよ」
「すまない……力……及ばず……。わが……王国に栄光あれ……我が騎士たちよ……今……私も……ヴァルハラに……」
 
 騎士団最強と呼ばれていた騎士団長は、剣に身を傾けたまま事切れていた。
 壮年の男はそれを見つめると、傍らにあった青年の身体を抱き上げた。

「また……救うことができなかった。何度繰り返せば……助けられるのだろう……」
 その瞳に絶望が差す。
 
 断頭台に上がる前に助ければと思い、あの夜を迎えぬままに彼を救いだした。
 けれども追手が掛り、彼はあっけなく事切れる。
 何度も何度も。時を超え条件を変え世界を繰り返し、その冷たい骸を抱いてきた。
 やっと今回、その手を引いて救い出すことができても、彼の命は奪われてしまった。
 身代わりの呪具が発動し、そのせいでどれだけ彼の姿が塗り替えられてきたことか。
 解除呪文レリース・ワードを騎士団長を吐かせるにも、何度もやり直し、やっと聞き出す事が出来た。
 
『グラディウス。僕の愛しい人。永久に、君の幸福を。君の幸いをこいねがう』

 息を潜めて、あの夜を越えたばかりの彼を救おうとした時もあった。
 彼が眠るグラディウスじぶんに囁いた言葉に涙が止まらなかった。
 
 最期まで、彼は残される者の幸いを願い続けていた。
 
 それは亡霊ファントムに残された希望であり祝福であり、そして永遠に消えない呪いとなった。
 託された願いを叶えるためには彼の存在が必要であり、残された祝福のためには彼の未来が必要だった。
 
 彼の残した言葉は、永劫ともいえるほどの旅路に男を誘った。
 
 けれども、その言葉があったから、亡霊ファントムは何度も時を巡る事が出来る。
 彼を助けるその日を目指して。

「アイル……アイル……カナシイ。……モット……ネガイヲ」
「わぁってるよ。彼を弔ったら……このクソ忌々しい世界とおさらばするために、戦争を止めるぞ。宮殿の地下にある膨大な魔石を食わせれば、またお前も飛べるだろうよ」
「タリナイ……ネガイヲ……カナエルタメニ……」
「はいはい」
 
 亡霊ファントムとなって時を巡る男は、古びた外套を翻して歩み始める。

 彼を救う、その日まで。
 
 
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