乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

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第3章 敬虔なる暴食

19話 GAME START!!

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馬車から降りた俺達は、教会の中へと案内された。 
中ではユーリが出迎えてくれた。
どうやら、入り口で待っていてくれたみたいだ。

「いら…っ…しゃい…」

「うん。今日は兄様と2人、よろしくね!」

「急ですまないね。今日はよろしく頼むよ」

俺達はそれぞれ挨拶をした。

「ん、ぼく…の…へや…あんない…す…る」

俺達はユーリの後に続いて、教会奥へ歩いていった。
教会内は天井には宗教絵画、壁には細やかな彫刻が施されており外見同様に芸術的だ。
かなりの金銭が注ぎ込まれていることがうかがえる。

「これは……見事ですね」

寄付金はちゃんと正しく使われているのだろうか?

疑うわけではないが奥に行けば行くほど、絢爛豪華になっていく事に一抹の不安を感じた。
教会内なのに、その絢爛さは王宮にもひけをとらない。

「ん…いま…の…きょぅ…こう…が…は…で…すき…だ…から…」

「よく派手に寄付金を募るパーティー開いているよね。1度行ったことがあるけど、まるで成金貴族みたいだったよ」

ユーリは顔をしかめてそう言い、兄様はその時の事を思い出しているのか苦笑いだ。
皆思う事は同じようだ。

今の教会はどうやら清廉潔白な性格とは言えないようだ。
まぁ、金や権力の絡む場所では、潔白なやつの方が珍しいのかもしれないが。

そんな風に話ながら、3人で歩いている時だった。

「──っ、一体何を考えているんだ!?」 

急に男性の怒鳴り声が俺達の耳に入った。

「……何なんだ?」

俺と兄様は首を傾げる。
声は進行方向から聞こえた。
はっきりと内容は聞き取れないが、どうやら男性2人が言い争っていいるみたいだ。

「…お…とぅ…さま…?」

ユーリがそう呟くと、急に声のする方へ走り出した。

「ユーリ!?」

俺達も後を追う。
すると角を曲がった所で、トーリ・クレイシスの姿と、緑色の髪に濃紺の瞳の太った中年男性が言い争っているのが見えた。
怒鳴り声の正体は、トーリ・クレイシスだったようだ。

「りゅ…う…と」

ユーリは父親(トーリ)の初めて見る激しい怒りに、声を掛けることが出来ずにおたおたとしていた。

「どうかなされたんですか?」

そんなユーリを見かねたのか、兄様が完璧な笑顔を携え会話に割って入った。

「……レイアス・ウェルザック殿……どうして此方に?」

トーリは一先ず言い争いをやめて、兄様に問いかけた。
言い争いを子供に見られたくなかったのか、少しばつが悪そうだ。

「ユーリ君に招かれたので。聞いていませんか?」

兄様がそう言うと、ユーリに聞いてないぞと目を向けた。

「…あえな…かった…から、…しんかん…に…でんご…ん…を…たの…ん……だ」

ユーリは恐る恐るそうトーリに答えた。

「……そうか、……申し訳ない連絡に不備があったようだ。大した出迎えも出来ずに申し訳ない」

トーリは頭を下げ、俺と兄様に謝罪した。
トーリの顔を正面から改めて見ると、酷い隈が出来ていた。
何日もの間、眠っていないのかもしれない。

「いえ、僕達も急な訪問でしたので……それより何かあったんですか? 酷い隈ですよ?」

兄様もそう思ったのか、俺の代わりに聞いてくれた。

「いえ……お話しするようなことは何もごさいません。……申し訳ございませんが、この後も仕事が詰まっていますので失礼させていただきます。ユーリ、きちんとおもてなしををするだよ。……教皇、話はまた後で」

そう言ってユーリの頭を撫でると、俺達に頭を下げ去っていった。
残されたのは俺達3人と見知らぬ太った男。

「慌ただしくて申し訳ありません、レイアス・ウェルザック殿と……そちらの方は、リュート・ウェルザック殿かな? お噂はかねがねうかがっていますよ。今日はこのアテナリア教の本殿である、此方までお越しいただきありがとうございます。私はカイザーク・クレイシス、アテナリア教の教皇を任せております。いやあ、それにしてもリュート殿は噂通り将来が楽しみな美貌でありますな!」

残された男はどうやら教皇だったようだ。
先程も思ったが、丸々太って汗を垂れ流している姿はまるで豚だ。
腐女子が前世で言っていたトーリ・クレイシスの容姿は、明らかに今目の前にいる教皇の姿の方が当てはまる。
ゲームの設定と同様に教皇職でもあるし、類似点が多い。

……まさか、俺や母様が生きている事で多少誤差が出ていて悪役が交代しているとか……ないよな?
それかトーリ・クレイシスも前世持ちで、同じ設定にならなかったとか。

俺は新たな可能性の浮上に、頭を悩ませた。
そうであるのならば、乙女ゲームの設定もシナリオも殆どあてにならない。
そうなると、目の前の男についても詳しく探りを入れるべきだが、先程からギラギラとした好色の目を俺に向けてきている。

気持ち悪っ、少年趣味かよ!
気安く名前で呼ぶな、鳥肌がたったぞ。
……本当に生理的に無理だわ、魔法で燃やして豚の丸焼きにしてもいいかな?

あまりの気持ち悪さに、危険な思考が俺の脳裏を過った、

「……お久し振りです、教皇。相変わらずお元気そうで」

兄様もその視線に気付いたようで、さりげなく俺の前に立ちその視線を遮ってくれた。
兄様は普段あれだが、やっぱりいざとなったら便りになる。
若しくは、俺の危険な思考を読み取ったのかもしれないが。

「それもこれも貴族の皆さま方の寄付のお陰ですなぁ。今回もウェルザック公爵からは多大な寄付をいただきましたし」

笑う度に頬や腹の肉が揺れる。
寄付金の大半が、あの腹に入ったのだと思うと腹立たしい。

やっぱり丸焼きに……

「そうだ! 私が教会を案内致しましょう! ユーリは言葉が不自由ですので、分かりにくいでしょう?」

俺が行動に移そうかと考えていると、豚(カイザーク)がふざけたことをほざき始めた。
豚の癖に笑えない冗談を吐くものだ。
あり得ない、豚に案内されるくらいなら自分で探索した方がましだ。
その視線といい、悪臭といい、全てが生理的に受け付けない。
それにユーリの事を馬鹿にしたような物言いに腹がたった。
ユーリは確かに話し方が独特だが、ゆっくりと伝えたい事はちゃんと言っている。
不自由な訳ではない。
素直だし、カイザークと比べようもなく可愛い。
そしてそれは兄様も同じだったのだろう。

「「結構です!」」

俺と兄様は同時に断りを入れていた。
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