【連載再開】シナリオ通りにお願いします!! 〜作者が当て馬令嬢に転生したら、男女問わず愛されまくって困惑しています〜

acoly

文字の大きさ
4 / 15
第一章

第3話 同じ家に帰るということ

しおりを挟む
第3話 同じ家に帰るということ


「フリージア様、ご婚約おめでとうございます!」
「殿下、とてもお似合いですわ…!」

 朝礼のあと、わたしはノワール様と廊下を歩きながら、ひきつった笑みを浮かべていた。
 今日は私が屋敷を離れ、学校の後そのまま城に移り住む日だ。エミリーは馬車の中で大泣きし、レオナルドが私につくことを羨ましがって今からでも剣術を習いたいと嘆いていた。

「……では、また授業が終わったら」
「ええ」

 私たちはお互いに上っ面だけの笑顔を交わし、互いの教室に入った。彼と話すのはヴィオレッタとの逢瀬を見て以来だ。その間何も連絡がなかった……というのは嘘で、やれ調度品が届いた、やれドレスの生地は、などの業務連絡ばかりはうちに来ていたから。
 学校で倒れたことを家の人たちは知っていたが、理由を話したのはエミリーだけだった。だからこんなに冷たい人だなんてと憤慨して、余計に私を嫁がせたくないという気持ちが強くなっていたようだ。


◇◆◇◆◇


「ふう……」

 授業が終わって、本当にエミリーが迎えに来ないんだわ、と思うと、帰りの馬車の扉が開いて、新しい使用人が笑顔で迎えてくれても寂しいままだった。エミリーの名前がこうだったかは覚えていないけれど、私は「主のことが大好き」という設定が好きだから、きっとエミリーもそうだったと思う。そう考えると、安心して話せる貴重な相手だったのだ。

 目の前に殿下が座ったけれど、特に話すこともないから外の景色を見て過ごした。 

「……この前の話ですが」

 視線を彼に戻す。この前の、というのはきっと空き教室のことだろう。

「僕は二人で話をしていただけです。他にやましいことは何も」
「ええ、そうですか」
「信じてないですね」
「信じるも何も。殿下が好きなのは彼女でしょう」
「なっ……」
「何にしても。見たのが私で良かったと思ってください。……他の生徒だったら、殿下も私も立場がありませんよ」
「…貴女は嫌じゃないんですか」

 わざわざ嫌かどうか聞くなんて、意地悪な人だ。嫌だと言ったってどうしようもないのに。
 これは決められた物語だから。

 以前通された部屋に、同じように案内される。大きなベッドに、洗練された雰囲気のある家具たち。この部屋にあるものの色が揃えられているからか、外出着のグリーンが浮いているように思える。

 実際、持ってきたドレスはこの着ているもの、そして下着を何枚かだけ。落ち着く物があれば持ってきてもいい、と彼に言われたけど、どうせ新しく彼らの色に染まっていかねばならないのだからと諦めた。

「フリージア様。お着替えを」
「ええ」

 できれば風呂を済ませてからゆっくりしたかったが、国王とお妃が夕食を共にしたいと言ってくださった。髪の毛を乾かす時間も惜しいので、簡単に身なりを整えてもらう。
 鏡の中の私はもう水色のドレスが似合っていて、この瞳の色だけがダルトワ家の人間なんだという実感をもたらした。2週間も前は髪もプリンのまま過ごしていたのに、フリージアとしての気持ちが芽生えてきていることがおかしくすら思える。

 メイド長のような人がまずは私についてくださるようで、私のマナーについてお小言(指導とも言う)を言いつつも私をきれいだと褒めながら支度してくれた。これもこれであたたかいけれど、どうしてもエミリーの友人のような、もしくは姉のような雰囲気を求めてしまう。この人にもきっと失礼だから、早く忘れなければ。

 私を迎え入れる晩餐会のようなものらしく、少人数ではあるが殿下の他に大臣(なんとサラのお父さんらしい)や殿下のお父さん(国王の弟)もその場にいた。関係は良好のようで、とくに派閥争いはなさそうだ。

 なんなくこなして、ようやく部屋に戻る。今度はお風呂だと使用人たちが呼びにきて、笑顔を見せつつも煩わしいと感じてしまった。
 同じ建物に住んでいるのだから、殿下に会えるタイミングもあるのかと思ったが特にそれはないみたいだ。
 ベッドに寝転んだら、意外に疲れていたようですぐに目を閉じられた。


◇◆◇◆◇


「……?」

 ふと、トイレに行きたくなって目が覚める。明日の朝じゃダメかしら?と自分に問いながら寝返りを打って(たまに誤魔化されて寝られるから)、固まった。

 ──部屋に誰かいる。

 急に背筋がさーっと冷たくなった。誰か呼ぶ? でも、どうやって?
 私が寝返りを打ったことで相手も驚いたのか、その人も息を潜めている。私の寝息風の呼吸音だけが部屋に響いた。

 ──5分後。

 私の膀胱は限界を迎えていた。
 やばい、このままだと1日目にして事件が…! 尊厳も何もないって!

「ん~……」
「!」

 声を出す。眠りが浅いことをどうにかアピールできれば……。と思ったが、使用人の誰かが廊下を話しながら歩いていく声がした。そんなに大きい声ではなかったけれど、十分気になる。これだと私が起きると判断したのか、その人物は部屋を出て行った。

 せめて1分、と頭の中で数えて、あたかもトイレで目が覚めたように(実際そうだけど)起き上がる。
 用を足して部屋に戻ろうとすると、レオナルドと鉢会った。

「殿下と話でもしたんですか?」
「え? いいえ。何かあったの?」
「先ほどすれ違ったので。あまり遅くまで起きてはいけませんよ」
「ふふ、はい。おやすみなさい」

 レオナルドは笑って、殿下ならまだあの辺りにいると思いますよ、と中庭を指差した。暗いからもう部屋に戻るようにととってつけたようにも言って。
 そういえば、彼には何も言ってないんだったな。ありがとう、と言って一応声をかけてみるか、と中庭のほうに歩いていく。レオナルドの言ったとおり、静かに歩いている姿を見つけた。

「ノワール殿下」

 一応深夜だからと声のボリュームに気を遣ったつもりだったが、彼にとっては驚く大きさだったらしい。肩をすくめてこちらを振り返り、私の姿を捉えるとほっと肩を落とした。そういうところもこの顔だからか可愛らしく見えて羨ましい限り。

「ああ、貴女でしたか」
「夜のお散歩ですか?」
「え、ええ」

 つい声をかけてしまったけれど、もし私の部屋に来ていたのが彼だとして、その真意を見誤ってはいけないことを思い出した。1年猶予をもらったと思っていても、彼が今日明日私を殺したって不思議はない。

「もしかして、起こしてしまいましたか?」
「私の部屋にいらしたんですか?」
「ええ。眠れているかと心配で」

 この言葉をどこまで信じればいいのか。だけど、1%の確率に懸けてお礼を言うことにした。

「ありがとうございます。お優しいんですね」
「いや。…君は妻となる女性ですから。不便があったらいけないかと思いまして」
「?」

 だから、それが優しいと言ってるんだけど。なんだかきまりが悪そうだ。

「……すみません。というのは母の受け売りで」
「あはは! そういうことでしたか」

 言いつけを無視することだってできたのに、そうしなかったということはそれぐらいの優しさは持ってるってこと。鵜呑みにしてはいけないと思ったけど、彼だってまだ10代だ。きっと素直な一面もある。…多分。それが最も顕著に出た部分が、あの日の「2番目の女性」発言なんだろうけど。

「それに、伯母上からもなるべく夜を共に過ごすようにと言われてしまいまして」
「へえ…」

 それはびっくりだけど。なんにしても、無理やり何かが起こると言うことはなさそうだ。

「殿下が優しい方で良かったです。期限付きですけれど」
「フリージア、あまりこの話は外では」

 私が笑うと、彼もきまりが悪そうにしながら、でもほっとしたような顔を見せた。私が彼のことをいろいろ吹聴しないように、機嫌を損ねまいとしているのかも。

「では、せっかくなのでお話をしてくれませんか?」
「お話ですか?」
「はい。ここから」

 わたしは自室の方を指さす。

「あちらまで、お送りいただけないかしらと…」
「ええ、ええ。わかりました」

 王子はかんたんに、1日過ごしてみての感想を聞いてきた。櫛やあの髪飾りがかわいかったと言うと、外国から取り寄せたのだと微笑んでいる。

「むしろ、晩餐会での態度で何か言われないか心配でしたけれど」
「そんなことありませんよ。マチルダも褒めていました」

 マチルダというのはあのメイド長の女性だ。

「殿下がここまでやってくださってるのだから、私も殿下のために頑張らなくてはいけませんね」
「え?」
「私、ちゃんと応援しますから。大丈夫ですよ!」

 仲間を作るには、まず自分が害のない人間だとアピールしなければならない。

「私にできることがあればおっしゃってくださいね」
「フリージア…?」
「あと、お部屋には鍵がかけられるようにしてくださいませんか? 殿下だったからよかったものの、他の人も入れるかと思うと怖くて」

 わざとらしく二の腕のあたりをさすって彼の様子を窺い見る。

「護衛が廊下に立っていますが」
「いくら殿下でも無断で入ってくるのはちょっと」
「……わかりました。謝ります。勝手に入ったことは」

 わたしはうんうんと満足げに頷いた。

「ですが、鍵をかけたら僕が入れませんよね」
「ん?」
「僕も鍵を持たせてもらえるという認識でいいのでしょうか? それならかまいませんが」
「ああ……」

 まあ、確かに夫婦となるんだからそうなるか。むしろ鍵をつけてたら入ってくるなってアピールになっちゃうし。本当はそのつもりだったけど。

「殿下がお一人でいらっしゃるなら。それ以外だと緊張してしまいますし」
「普通逆ではありませんか?」

 くすっと笑って、自分の発言が常識はずれだとようやく気づいて顔が熱くなるのを感じた。確かに、こんなのいつでも来い!と言ってるようなものだ。

「で、殿下のことを信頼していますから」

 この言葉で誤魔化されてくれたかどうかは定かではない。

「では、また明日」
「はい。おやすみなさい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...