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episode.07
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バァーンと勢いよく扉が開いて、取り付けていたベルもゴンガラリンといつもより激しめに来客を知らせた。
薬棚の整頓をしていたソフィアが振り返ると、そこには息を切らしたカストの姿があった。
「ソフィ…!俺を雇えよ!」
「え?」
「さっき裏の婆ちゃんに聞いたんだ。ソフィが助手を探してるって」
それはそうだけれども、とソフィアはパチパチと瞬きをした。何しろカストはまだ10歳になったばかりの子供だ。意外なところからの申し出に驚きを隠せなかった。
「もしかして、もう他の誰かに決まっちまったのか?」
「いや……そうじゃ無いけど…」
「なら俺を雇ってくれよ!」
「な……なんでまた………」
血相を変えて頼み込んでくるカストに気押されている間に、カストは理由を述べた。
「貧乏だからだ!貧乏だから学び舎には行けねえし、ただ遊んでても金にはなんねぇ。かと言って子供にできる仕事は犯罪の手助けみたいな事ばっかりだ。ソフィのとこなら、母ちゃんも文句言わねぇよ」
カストの言い分は分かる。働きたい理由も、その場所にここを選んだ理由も。ソフィアも幼少の頃に学び舎に通うだけの余裕は無かった。薬学以外の知識はトンチンカンだ。
「カスト………」
神妙な面持ちのソフィアに、カストはやはり自分は子供だから駄目かと自信なさげに眉を顰めていた。
「採用」
「…えっ………いいのか?」
「いいよ」
あっさりと決めてしまったソフィアに、頼みにきたはずのカストの方が面食らってしまっていた。
「本当に良いのか?」
「いいよ」
ソフィアは3歳で先生に引き取られた。その頃の記憶は曖昧だが、6歳になる頃には薬草畑で遊んでいたし、カストと同じ頃には先生の手伝い紛いな事をしていた。
どれも遊びの延長みたいなものだったけれど、だったらカストにも出来るはずである。
予想外の人材ではあるけれど、子供ながら強気に乗り込んできたその心意気を買おう。
「ほ…本当に…?まさか5年後に出直せとか、そう言う話か?」
「それでも良いけど、カストが良ければ仕事はすぐに頼みたいかな。掃除とか草取りとかだけど」
「………!! やる!俺、母ちゃんに知らせてくる!」
カストは子供らしく一度店を出て行ってしまった。入れ違いで近くの屋台のおばさんが来た。
「……何かあったのかい?あんなに慌てて。急ぎなら私はいつものだから後でも構わないよ」
飛び出すように出て行ったカストは確かに慌てていたに違いない。だが、その理由を知っているソフィアは穏やかだった。
「大丈夫。カストを助手として雇う事にしたんだけど、それをお母さんに教えに行ったのよ」
「おやまぁ、そう言えば探してると言っていたねぇ。あの子のとこは片親だし、母親を少しでも助けたかったんだろうね」
「そんなに良いお給料は出さないけどね」
「大事なのは気持ちさ。働き口がここなら安心だね。最近は子供に詐欺を手伝わせたり、盗みを働かせて報酬を渡す大人もいるからね」
「うん」
「あの子は街を端から端まで走り回る体力持ちだよ。力仕事はあの子にやらせな」
「そのつもり」
ソフィアがぐっと親指を突き上げると、おばさんもニコッと微笑んだ。カストの事をまるで親戚の子供くらいに思っていそうだ。
ひび割れに効く薬を手渡すと、おばさんは感慨深そうに受け取った。
「いつか、カストからこの薬を受け取る日が来るかもしれないね」
現段階でカストの立ち位置はあくまで助手だ。本人が望むなら薬学の知識を教えていってもいいけれど、大人になったら他にやりたい事が出来るかもしれない。
「そうかもね」
ソフィアに言えることは肯定でも否定でも無く、予想と希望を込めた返事だけだった。
「ソフィは自分の子供に薬師を継がせるのかと思っていたよ。いい人が居るんだろう?」
「え…え?」
「裏のおばあさんが言っていたよ。随分な色男をたらし込んでるって」
「え」
おばあさん………。そんな事を言いふらすおばあさんは1人しかいない。
「ち、違う!そんなんじゃないの!あれはおばあさんが勝手にそう言ってるだけで、全然!私なんか相手にされるような人じゃないのよ!」
うん?とおばさんは首をかしげた。
「なんだいそりゃ。相手は王子様かい?」
「いやっ、お、王子様みたいにかっこいいけど………そうじゃ無くて!」
顔を真っ赤にしているソフィアの元に、カランカランと来客が訪れる。
背の高いその人は少し屈んでドア枠を通ると、スッと体を起こし、それはそれは美しい騎士服を全面に見せてくれた。
「リッ……!?」
先客に気づいたリディオは軽くお辞儀をすると、持っていた紙袋を慣れた手つきでカウンターに置いた。
そしてあろう事かこれまた慣れた動作で暖簾の奥に入って行こうとするでは無いか。
お昼休憩をここで過ごしていくのは構わないのだが、今は他のお客さんの前だし、しかもちょうどそんな話になっていた所だしでソフィアは慌てた。
「あわわわわわ!おきゃ、お客さん!どっ!どこか、お怪我でしたか?」
頼む!頼むから話を合わせてくれ!妙な誤解をされないように!これはリディオさん!あなたのためだから!
と必死に心の中で叫ぶソフィアにリディオは怪訝な表情を浮かばせた。
「昼を食べに来た。邪魔するぞ」
ちがーーーーーう!!それでは全く逆効果だ。騎士がわざわざ狭い薬屋に昼飯を食いに来るのはおかしいと何故気付かないのか!いくら落ち着く場所かもしれなくてもなぁ!!
目も口も開いたまま塞がらないソフィアは、リディオを引き止める力も無く、易々と奥の部屋に侵入を許してしまった。
まだ店に残っていたおばさんの「おやまあ」とニヤついた声で我に返ったソフィアはその後しばらく、違う違うそうじゃないと弁明を余儀なくされた。
薬棚の整頓をしていたソフィアが振り返ると、そこには息を切らしたカストの姿があった。
「ソフィ…!俺を雇えよ!」
「え?」
「さっき裏の婆ちゃんに聞いたんだ。ソフィが助手を探してるって」
それはそうだけれども、とソフィアはパチパチと瞬きをした。何しろカストはまだ10歳になったばかりの子供だ。意外なところからの申し出に驚きを隠せなかった。
「もしかして、もう他の誰かに決まっちまったのか?」
「いや……そうじゃ無いけど…」
「なら俺を雇ってくれよ!」
「な……なんでまた………」
血相を変えて頼み込んでくるカストに気押されている間に、カストは理由を述べた。
「貧乏だからだ!貧乏だから学び舎には行けねえし、ただ遊んでても金にはなんねぇ。かと言って子供にできる仕事は犯罪の手助けみたいな事ばっかりだ。ソフィのとこなら、母ちゃんも文句言わねぇよ」
カストの言い分は分かる。働きたい理由も、その場所にここを選んだ理由も。ソフィアも幼少の頃に学び舎に通うだけの余裕は無かった。薬学以外の知識はトンチンカンだ。
「カスト………」
神妙な面持ちのソフィアに、カストはやはり自分は子供だから駄目かと自信なさげに眉を顰めていた。
「採用」
「…えっ………いいのか?」
「いいよ」
あっさりと決めてしまったソフィアに、頼みにきたはずのカストの方が面食らってしまっていた。
「本当に良いのか?」
「いいよ」
ソフィアは3歳で先生に引き取られた。その頃の記憶は曖昧だが、6歳になる頃には薬草畑で遊んでいたし、カストと同じ頃には先生の手伝い紛いな事をしていた。
どれも遊びの延長みたいなものだったけれど、だったらカストにも出来るはずである。
予想外の人材ではあるけれど、子供ながら強気に乗り込んできたその心意気を買おう。
「ほ…本当に…?まさか5年後に出直せとか、そう言う話か?」
「それでも良いけど、カストが良ければ仕事はすぐに頼みたいかな。掃除とか草取りとかだけど」
「………!! やる!俺、母ちゃんに知らせてくる!」
カストは子供らしく一度店を出て行ってしまった。入れ違いで近くの屋台のおばさんが来た。
「……何かあったのかい?あんなに慌てて。急ぎなら私はいつものだから後でも構わないよ」
飛び出すように出て行ったカストは確かに慌てていたに違いない。だが、その理由を知っているソフィアは穏やかだった。
「大丈夫。カストを助手として雇う事にしたんだけど、それをお母さんに教えに行ったのよ」
「おやまぁ、そう言えば探してると言っていたねぇ。あの子のとこは片親だし、母親を少しでも助けたかったんだろうね」
「そんなに良いお給料は出さないけどね」
「大事なのは気持ちさ。働き口がここなら安心だね。最近は子供に詐欺を手伝わせたり、盗みを働かせて報酬を渡す大人もいるからね」
「うん」
「あの子は街を端から端まで走り回る体力持ちだよ。力仕事はあの子にやらせな」
「そのつもり」
ソフィアがぐっと親指を突き上げると、おばさんもニコッと微笑んだ。カストの事をまるで親戚の子供くらいに思っていそうだ。
ひび割れに効く薬を手渡すと、おばさんは感慨深そうに受け取った。
「いつか、カストからこの薬を受け取る日が来るかもしれないね」
現段階でカストの立ち位置はあくまで助手だ。本人が望むなら薬学の知識を教えていってもいいけれど、大人になったら他にやりたい事が出来るかもしれない。
「そうかもね」
ソフィアに言えることは肯定でも否定でも無く、予想と希望を込めた返事だけだった。
「ソフィは自分の子供に薬師を継がせるのかと思っていたよ。いい人が居るんだろう?」
「え…え?」
「裏のおばあさんが言っていたよ。随分な色男をたらし込んでるって」
「え」
おばあさん………。そんな事を言いふらすおばあさんは1人しかいない。
「ち、違う!そんなんじゃないの!あれはおばあさんが勝手にそう言ってるだけで、全然!私なんか相手にされるような人じゃないのよ!」
うん?とおばさんは首をかしげた。
「なんだいそりゃ。相手は王子様かい?」
「いやっ、お、王子様みたいにかっこいいけど………そうじゃ無くて!」
顔を真っ赤にしているソフィアの元に、カランカランと来客が訪れる。
背の高いその人は少し屈んでドア枠を通ると、スッと体を起こし、それはそれは美しい騎士服を全面に見せてくれた。
「リッ……!?」
先客に気づいたリディオは軽くお辞儀をすると、持っていた紙袋を慣れた手つきでカウンターに置いた。
そしてあろう事かこれまた慣れた動作で暖簾の奥に入って行こうとするでは無いか。
お昼休憩をここで過ごしていくのは構わないのだが、今は他のお客さんの前だし、しかもちょうどそんな話になっていた所だしでソフィアは慌てた。
「あわわわわわ!おきゃ、お客さん!どっ!どこか、お怪我でしたか?」
頼む!頼むから話を合わせてくれ!妙な誤解をされないように!これはリディオさん!あなたのためだから!
と必死に心の中で叫ぶソフィアにリディオは怪訝な表情を浮かばせた。
「昼を食べに来た。邪魔するぞ」
ちがーーーーーう!!それでは全く逆効果だ。騎士がわざわざ狭い薬屋に昼飯を食いに来るのはおかしいと何故気付かないのか!いくら落ち着く場所かもしれなくてもなぁ!!
目も口も開いたまま塞がらないソフィアは、リディオを引き止める力も無く、易々と奥の部屋に侵入を許してしまった。
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