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episode.08
しおりを挟む「どうしようソフィ!…私っ…!!」
「大丈夫ですよリリィさん。どうしたんですか?」
この日、ソフィアの元に訪れたのはソフィアと同い年で昨年一児の母となったリリィという若い女性と血だらけの子供と、その子供を背負った騎士様だった。
血だらけと言っても傷は顔の左側に集中している。
泣いていたようだが騎士様に背負われている間に泣き止んだらしく、涙の跡が残っている。
「ちょっと目を離したら泣き声が聞こえてきて、そしたらこの子、軒先で顔から転んだみたいなの。どうしよう、ソフィ…この子は女の子なのに、顔に傷が残ったりしたら……!」
「きちんと消毒をして、薬を塗れば大丈夫ですよ。子供の治癒力は大人の何倍も強いですから。それより、頭を打ちましたか?」
「………分からない…大きな音がしたわけでも無かったから…」
「それは大丈夫だと思うよ、俺の見た限りでは」
そう言ったのはリリィの子供…アリーチェを背負っている騎士様だった。
「ちゃんと先に手を突いたみたいだけど、勢い余って顔も擦ったんだよ。顔は見た目よりひどい傷じゃない。手と膝も見てあげて」
「そうですか。ありがとうございます騎士様。ひとまず傷を洗って消毒をしましょう。少し沁みるのでリリィさんも手伝ってもらえますか?」
「も、もちろん…!どうかお願いします、ソフィ」
「はい、大丈夫ですよ」
カストに綺麗な水を持ってきてもらって、ソフィアはアリーチェの手当てを始めた。相手はまだ1歳の子供で、傷に触るとやはり痛む様で泣いて嫌がっていたけど、ここで妥協して傷に菌が残って膿を持ったらその方が大変なので心を鬼にした。
薬を塗って手当を終える頃にはアリーチェは泣き疲れたのか包帯を巻かれながらもリリィの腕の中で眠ってしまっていた。
「ありがとうソフィ。私、本当にどうしようかと」
「どういたしまして。騎士様の言う通り、最初の見た目ほど酷い傷じゃありません。清潔にして薬を塗っていればいずれ跡形も無く治りますよ」
「うん…!騎士様も、ありがとうございました」
「気にしないで、これも仕事のうちだよ。疲れて眠っちゃったね。早く帰って慣れた布団でゆっくり寝かせてあげるといいよ」
「はい。本当にお世話様でした」
リリィはアリーチェを大事そうに抱えてソフィアの店を出て行った。
「あの、ありがとうございました。手を貸して頂いて。リリィは同い年で、アリーチェの事は生まれた時から知っているので。騎士様のおかげで早く手当をする事が出来ました」
「構わないよ。むしろ俺がいなくても彼女は真っ先にここへ来ただろう?」
「そうかもしれませんけど、騎士様の心遣いがリリィを救ったのは間違いありません。今日のリリィはあれでいて良く落ち着いていました。彼女、慌てん坊なんです」
クスクスとソフィアからは笑みが溢れた。
リリィとは子供の頃からの知り合いで、何かあるとすぐ慌てる子供だったけど、大人になっても変わらない。
彼女に陣痛が来た時は、それはもうパニックになって大変だった事は今では良い笑い話だ。
「話の通りの子だね」
「……はい?」
「ああ、ごめんごめん!君の話はリディオから聞いた事があるんだ。俺の名前はバルトロ。リディオとは、そうだな………腐れ縁的な?」
「!? そう、でしたか…」
リディオと仲の良い騎士だったのかと、ソフィアは驚いた。
「リディオは相当君の事気に入ってる様だけど、大丈夫?怖くない?愛想悪いでしょあいつ」
「きっ…気に入って………?いや、リディオさんは、あの、私が人として欠落しているので、その…犬の面倒を見ている…みたいな感じじゃ、ないですかね?」
「あははははっ!リディオが犬の面倒を見るわけがないって!はははっ!!」
そ、そんなにおかしな事を言っただろうかとソフィアは呆然としていた。バルトロにとっては相当面白かったらしく、暫く笑って、目尻に涙を溜めていた。
「や、ごめん!でも想像してみてよ、あのリディオが犬の散歩をしている所を。……ぷっ…可笑しいだろ…?ククッ」
「……………ふっ……ふふっ…たしかに、似合いませんね」
とんでもない仏頂面でリードを引っ張る姿なんて想像したらソフィアも笑わずにはいられなかった。
「リディオは、自分が仕事に真面目な分、真面目に仕事をしている人の事が好きなんだよ。君とかね」
「ほ、他にもそう言う人が?」
「あー、俺の知る限りではいないけど………気になる?」
ニヤッと含み笑いを向けられたソフィアは顔に熱が集まった。
「そっ…そういうわけでは………なくない…ような…?」
「リディオに聞いてみると良いよ。あいつは嘘はつかないから」
「む!無理です!!」
「ハハハっ」
ハハハじゃなくて!っていうか何の話をしているんだ。
「じゃあ俺もそろそろ戻るよ。リディオの事よろしくね、ソフィちゃん?」
「え?あ、はい………はい?」
またね~と手を振るバルトロに呆気に取られたソフィアは釣られる様に右手を緩く振り、首を傾げながら見送った。
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