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episode.13
しおりを挟む日が暮れてから王都に到着したリディオは、バルトロと共に外食に出ていた。
流石に夜遅くにソフィアの所には行けない。もし寝ていたなら急患だと思って飛び起きるに違いないからだ。
王都のメイン通りは夜も眠らない街。遅くまで飲食店が開いているのは出張帰りに夕食が遅くなった日は特に便利だ。
というわけでやって来たのだが、料理を運んできた看板女将にパシっと肩を叩かれてリディオは顔を上げた。
「ちょっとお前さん!ソフィは大丈夫なのかい?」
「は…?」
「………おや?ソフィと仲の良い騎士さんだと思ったんだけど……人違いかね?」
どこかのタイミングでソフィアの所にいるのを見ていたらしい女将だったが、はっきりと顔を覚えていたわけでは無かったようで眉を下げていた。
急にソフィアの話を持ち出されて驚いたリディオの咄嗟の返事に愛想が無かったせいでもあるかもしれない。
ソフィは大丈夫か?と問われたリディオは、いつかのようにまた無理をして体調を崩しているのかという事が1番に頭に浮かんだ。
「いや、その騎士は恐らく俺だが、仕事で暫く王都を離れていた。彼女に何かあったのか?」
リディオが答えると女将がコソッと話し始める。なぜ小声になったのかは分からないが、黙って聞く事にした。
「いつだったか、ソフィの所に旅のお方が担ぎ込まれたんだがね?そいつがソフィを嫁にとって旅に連れて行くってんだよ。あの子がいなくなったら、ガルブに薬師は他にいないよ!それは困るだろう?だから皆んな心配してるのさ」
「……………」
予想外の話にリディオは言葉を失って眉間に皺を寄せた。そんな様子を見て面白がったバルトロが女将と話し始める。
「それは困ったね、薬師がいないのは大変だ」
「そうだろう?」
「彼女にその気はあるのかい?」
それだ。大事なのはソフィアの意思だ。良い事を聞いたとリディオは珍しく心の中でバルトロを称えた。
「それが詳しくは私も知らなくてね。その旅人はよくこの店に食べに来てくれるんだけど、ソフィをどうするつもりかなんて聞けないだろう?だからお前さんに声をかけたんだよ、何か知っているかと思って」
「…それはすまない。その話自体、初耳だ」
困ったように女将が笑う。
「そうかい。……食事の邪魔をしたね。ゆっくりしていっておくれ」
女将が去った後、バルトロがモゴモゴと料理を口にしながら話し始める。
「旅人に見初められるとはね。盲点だったろ?」
「………ああ。風邪で寝込んでいると言われた方が良かった」
「お?お前がそこまで言うとはねぇ~」
冗談ではなく本当にそう思う。リディオは頭を抱えた。ソフィアに非は無いと分かっているが、たった1ヶ月、目を離した隙にこれだ。
「確かに可愛い子だけどね~」
「もう少し肉をつけた方がいいがな」
「……………胸の話?」
視線だけで責めれば、バルトロは「こわ。冗談だよ」と口をへの字にして言った。
「剣も女も負け知らず、天下無敵のリディオ様なんだけどな、お前」
「なんだそれ」
「実は奥手なんだよなぁ~!これがなぁ~!」
既に酔いが回って来ているようだ。バシバシと背中を叩かれるのを無視して、潰れたら面倒だなと思いつつリディオは料理に手を伸ばす。
「性格は置いておいて、お前は昔から顔は良いし、今や王宮騎士の称号もあるんだぞ?彼女の事もちょちょいのちょいだろ」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「……だから、天下無敵のリディオ様だって」
話にならなくなって来た。酒に弱いなら飲まなければいいのに、飲み屋で酒を飲まないのは男の恥だなんだと言っていつも早々に酔っ払うのがこのバルトロという男だ。下戸だとバレる方が恥じゃないだろうかと思うが。
はあ~、とリディオからは深いため息が漏れる。
明日は休日だからソフィアと顔を合わせられると思っていたのにとんだ懸念材料が出来てしまった。
あとこの酔っ払いを担いで帰らなければならないのも鬱陶しい。
「お前に落ちない女なんて…ヒッ…いねえって…」
「そんなわけないだろ。現に彼女は仕事の事で頭がいっぱいで、俺の事は眼中にない」
「……差し入れもして、一緒に食事をする仲なのにか?あと残ってんのは一緒に寝る事くらいだろ」
「本当にただ横で寝るだけだったら、ソフィアなら寝そうだ。いつも疲れているし、寝不足だからな」
「じゃあそこで手を出せ!既成事実だ」
「……………飲み過ぎだ。その辺にしておけ」
そんな事が出来るはずも無く、しようとも思わない。明日が待ち遠しいと思っていたのに、今はどんな顔をして会えば良いのか分からない。
つい先程まで、土産に喜ぶソフィアの顔を思い浮かべていたと言うのに、今はソフィアの顔がまともに浮かばない。
何度目かのため息の後、2杯半で酔い潰れたバルトロに肩を貸し、リディオはヨボヨボと店を後にした。
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