ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 バレンタインデーは大好きなキミと

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「あれぇ? 和泉ぃ?」


 大きな口をにへっと横に開いて、誠がふり返る。


「ねぇ誠、どっかでヨウちゃん、見なかったっ?」

「え~? ぜんぜん。まだ、だれかのチョコを返しに行ってるんじゃん?」

「だよね~」


 はぁ~と、白い息をはきだして、肩をがっくり。


「あはは。和泉ってば、葉児にチョコわたすタイミング、完全に逃しちゃったね~」

「そうなの~。なんでこう、肝心のときにさ……」


「オレなら、すぐにもらってあげるのに」


 ハッとして顔をあげた。


 どうしよう……。あたし、今、無神経に……。


 誠は、桜の木の陰にかがんでいる。

 そこに、小さな飼育小屋がふたつならんでる。飼っているのは、チャボが三匹に、ウサギが五匹。


「和泉、オレ、これから飼育委員の仕事するからさ~」


 ふり返った誠はもう、眉尻をさげて笑ってた。鍵を開けて中に入って、ウサギのエサのお皿の上に、手に持っていたキャベツの葉っぱをのせている。


「あ。そういえば誠って、飼育委員だったっけ?」

「だよ。しかも六年だから、飼育委員長。今、給食室でさ、給食のおばちゃんに、のこりのキャベツもらってきたんだ」


「ね。あたし、水かえてきてあげようか?」

「和泉、いいの? 葉児をさがさなくて」

「だって、いないんだもん。ちょっと休憩」

「じゃあ、お願い~」


 誠から、お水のお皿を受け取って、あたしは蛇口のところへ歩いていった。


 誠は友だち。チョコは本命にしかわたさない。

 自分で決めたことなんだけど、なんだか胃がじくじくする。


 ごめんね、誠。


 昇降口から出てくる小学生たちの中に、とびぬけて背の高い琥珀色の髪の男子の姿はない。




「和泉、手伝ってくれて、ありがと~」


 ウサギとチャボのエサと水をかえて、誠といっしょに手を洗って。

 ハンカチタオルで手をふいていたら、誠がにっこり笑った。

 鼻の上にきゅっとしわが寄って、無邪気な笑顔。


 わ……カワイ……。


「オレはもう帰るけど。和泉はどうする? まだ葉児のこと待ってるの?」


「うん……待とうかな~」


 ランドセルを背中でゆらして、あたしは鉄棒にとびのった。

 鉄棒の上に腰かけて、足をプラプラ。

 アホ毛をゆらす冬の風。白い曇り空の下を、背中を丸めて帰っていく子どもたちの数も、ずいぶんと減ってきた。


 もしかして、入れちがいで帰っちゃった……?


「……こうやってるとさ。なんか、幼稚園のころを思い出すなぁ~」


 横を見たら、誠も、鉄棒に腕をかけて寄りかかって、目を細めてた。


「え……? 誠って、そんな大昔のこと、覚えてるの?」

「覚えてるよ~。オレ、すみれ組さんまで、和泉と同じ幼稚園で、よく遊んでたじゃん。親が離婚してからは、オレ、葉児と同じ保育園にうつったけど。和泉はわすれちゃった~?」


「お……覚えてるけど……」


「じゃあ、オレが和泉のこと、なんて呼んでたか覚えてる?」

「えっと、『あやたん』?」

「あれは、『綾ちゃん』って、言ってたつもりだったんだぞ~」

「誠って、口がまわらなかったんだ」

「そ~。こうやって昔よく、あやたん・・・・と、パンのトラックが通るのを待ってたよな~」

「あ、あれでしょ。お昼前になるといつも通る、食パンの形をしたトラック!」

「『ドレミの歌』のメロディー流して、幼稚園の前の道、通るやつ。園庭から、ながめるだけなんだけどさ。なんでか、トラックが通るのが、楽しみでさ~。お外で遊んでるとき、ふたりしてよく待ってたよな~」



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