ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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 足元から土が消えている。


 登山道のわきが、土砂くずれにあったときのまま、崖になって、闇の底へ落ち込んでいる。


「よ、ヨウちゃ……」


 胃が浮いたような感覚がして、ジェットコースターに乗ったみたいに、体が落下しはじめた。


「きゃああああああっ!!」


 痛い、痛いっ!

 激突してくる木の枝。しめった土。


 ヨウちゃんが両腕をまわして、上からあたしの頭を守った。


「ぶっ! ふぎゃっ!!」


 目の前のモッズコートの胸に、あたしはしがみつく。


 葉っぱのにおい。

 土のにおい。

 あたしたちは抱き合ったまま、土の斜面を落ちていく。



「きさまら、どこに逃げる気だっ!! 」


 さっきまでいた登山道の上から、ハグの声がした。


 妖精の羽のついた杖が、槍のようにせまってくる。

 ヨウちゃんの背中に向かってくる。


 あたしは、肩甲骨に力を入れて、アゲハチョウの羽をはばたかせた。


 右足の裏で、地面を蹴る。重いモッズコートの胸とともに、夜空に舞いあがる。


 杖はヨウちゃんの左わきの下を通って、崖を落下していった。

 

 ハアハアと、暗がりに自分たちの息づかいがきこえてくる。

 闇に落ちていく杖を見届けてから、あたしはヨウちゃんを抱いて、ふんわり山の茂みに舞いおりた。







 ヨウちゃんの心臓の音がきこえてくる。

 あたしを頭から包み込む、頑丈な腕があったかい。


 枝の上から、フクロウの鳴き声がきこえてくると、ヨウちゃんはようやく身じろぎをした。

 のろのろと、あたしの頭から手をはなす。


 あたしは、懐中電灯をつけて、背中の羽をしまった。

 まぶしさに目をしかめるヨウちゃんのおでこを見たら、ヘッドランプは割れてしまってる。


「……綾……ほっぺた、痛いだろ?」


 ヨウちゃんは壊れたヘッドランプをはずすと、モッズコートのポケットをさぐって、小ビンを取り出した。


「……レモンバームの塗り薬?」


「……ああ」


 小ビンの中に指をつっこんで、虹色のローションをあたしのほおに塗りつける。

 虹色の光がほおにあたったと思うと、痛みは波が引くように、消えていった。


「ありがとう」


「……いや……オレのほうが助けられた。綾が来てくれて……よかった……」


 ヨウちゃんの細い声が、あたしの胸にやわらかいあかりをともす。


「ねぇ、これから、どうする……? 計画めちゃくちゃになっちゃった……。あいつをどうにかしなきゃいけないのに、このままじゃ身動きもできないよ……」


 たずねてみたけど、ヨウちゃんは返事をしない。見たら、木の根にひざを抱えて座り込み、うつむいていた。


 だよね……。ヨウちゃんにだって、かんたんには、作戦をたてられないよね……。


 あたしは崖の上をあおいだ。

 真っ黒い木の枝が、魔女の腕のように星空にのびている。この山のどこに、あいつがうろついてるのか、もうわかんない。




「綾。やっぱり、羽を切れ」



「……え?」


 あたしはまばたきして、ヨウちゃんを見返した。


「だけど……ヨウちゃんだって今……あたしに助けられたって言ったじゃない……」

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