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5 真夜中のダンスパーティー
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しおりを挟む「お母さん、できましたっ!」
あたしは、虹色の液体の入ったビンを抱いて、書斎からとびだした。
階段を一階へかけあがりながら、ハッとする。
今は、明け方。
お母さんもさすがに寝ちゃったよね。
「本当、綾ちゃんっ!? 」
お店のカウンターから、お母さんが手をエプロンでふきながら出てきた。
「がんばったわね~っ!! 綾ちゃん、エライっ!! 」
ビンごと、ぎゅっと抱きしめられちゃう。
有香ちゃんと同じくらいの身長のお母さん。だけど、有香ちゃんよりふわっふわ。
「ううん。お母さんが助けてくれたおかげです~」
なんだか、また目に涙がたまってきちゃう。
そういえば、うちのママに抱っこされたのって、何年生のときが最後だろ?
「あの、この薬を早くヨウちゃんに!」
チンっ!
カウンターの奥の厨房で、オーブンの鳴る音がした。
「あ、あら。ケーキが焼けたみたい」
お母さん、あっちにこっちにバタバタ。
そっか……。お店の準備をしてたんだ……。
「お母さん、あたし、先にヨウちゃんのところに行ってます」
「お願い。二階の手前の部屋だから」
「は、ハイっ!」
ビンをにぎって、バタバタ階段を二階にのぼっていって。手前の部屋。
ドキドキしながら、ドアノブをつかんで引いたら、ヨウちゃんの部屋の窓の外も、白んでいた。
部屋の広さは、となりのお母さんの部屋とおんなじくらい? あたしの部屋よりは、ほんの少し、せまいかな?
男の子の部屋って、こんなんなんだ……。
ぬいぐるみとかキャラクターグッズとか、そういうカワイイ物がひとつもない。たなはメッキのラック。色も青とか黒とかメッキばっかりで冷めた感じ。
だけど、生活感はばっちり。勉強つくえの上は、マンガとか教科書とかゲームの攻略本でごっちゃりだし。テレビラックの下は、雑誌とかDVDとかゲーム機とかがつみかさなってる。
これ見たら、女子たち、がっかりするんじゃない?
だって、マンガの中の男の子って、たいていでっかい部屋を持ってて、オシャレな家具が数個置いてあって、あとはひろびろ~。すっきり清潔~。観葉植物、ポンって感じなのに。
どうでもいいところばっかり見ちゃうのは、窓の下のベッドで、すーすー寝ているヨウちゃんを、どうしたらいいかわかんないから。
やっぱ、お母さんがヒマになるまで、お店で待とうかな……。
そっとドアを閉じようとしたら、「……綾?」って呼ばれた。
ぎゃっ! 起きたっ !!
「……あ、あの……ヨウちゃん、薬できたよ……」
「……マジで? すげぇ……」
言葉は返してくれるんだけど、ヨウちゃん、ちっとも動かない。
もしかしてあたし、寝言と会話してる……?
そろそろと近づいていって、ヨウちゃんの目の前にビンを持っていったら、ヨウちゃんは、目を半分だけ開けて、「ホントだ……」って口元で笑った。
あ……胸、キュンって鳴った。
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