ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 決戦は卒業キャンプで

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 あたしが声をあげたとたん、妖精たちの目がいっせいにこっちを見た。


 気づかれたっ!


 踊っていた妖精たちが、氷づけにされたように、動かない。

 瞬間。向きをかえて、銀色の羽ではばたいた。

 羽音。轟音。

 あたしの耳横や、頭の上をすりぬけて、妖精たちが砲弾倉庫へ向かってく。


「い、行かないでっ!! 」


 あたし、走った。

 妖精より早く。

 手も足も、めちゃくちゃに動かして。

 アホ毛が風に舞って、後ろに流れる。

 妖精たちの前にまわりこみ、足を開いて向き直る。


 ヨウちゃんからあずかった小ビンを開けて、砲弾倉庫の入り口から、バッと上空にばらまく。


 チリチリチリ……。


 虹色の針が、ふりそそぐ。


 妖精たちのはばたきがとまった。

 銀色の小さなトンボの羽に、虹色の針がぷすりぷすりと刺さっていく。


 ……あ……あたし、今……。



 ぽとん。


 赤い髪の男の子の妖精が、あたしの足元に落ちた。


 ぽとん、ぽとん。


 羽を広げたまま、妖精たちが次々に地面に落ちていく。

 心臓がしびれたみたい。


 どうしよう……あたし……。


 地面の上で銀色の羽に針を刺して、チチやヒメが倒れてる。




 空で、黒い蛇がうねった。稲妻のように、砲弾倉庫の中にとびこんでいく。


「や、やめてっ!」


 もう一度、ゴースのビンをふりまわしたけど。

 蛇は、虹色の針をすり抜けてく。


 蛇にゴースは効かないっ!?


 きっと、もともとがモヤみたいなものだから。

 威力をそのままに、部屋の中に流れ込む。


「ヨウちゃんっ!」


 あたしも倉庫の中に走り込んだ。

 暗いはずの倉庫の中が、まぶしい虹色に染まってる。

 だけど、倉庫の奥には、金庫みたいな観音開きのとびらが開いていて、中から黒いモヤがあふれだしていた。

 モヤの中心にあるのは、黒いタマゴ。

 タマゴの前に、まるで虹色の光から守る盾みたいに、楕円形を横に倒したような黒い輪郭が、黒いモヤで形づくられている。その中には黒い円。


 邪視っ!?



 グゥオオオオ……。


 邪視の中から、ねじれまがりながら、黒い蛇たちがとびだしてきた。

 蛇は、倉庫の中央に立つヨウちゃんに、四方八方襲いかかる。


「っ!」


 ヨウちゃんは、体をひねって、手に持った小ビンの液体を、自分のまわりにふりまいた。

 軌道で、虹の輪ができる。

 パアッと、部屋全体が、虹色にかがやく。

 と、蛇は「ぎゃ」っと鎌首を返した。まぶしさに目をつぶされ、闇雲に、もと来たほうへ向かっていく。

 先にあるのは、黒いタマゴ。


 バンっ!


 蛇の鎌首が、巨大な目の盾に激突した。


 バシ、バシ、バシ、バシっ!!


 鎌首たちが激突するたびに、目の輪郭が砕けてはじけ飛ぶ。


 ピシ……。


 タマゴの殻にヒビが入った。


 こ、これが、呪い返しっ!



 とたん。

 
 砲弾倉庫の中に、ブワッと新たな黒い蛇が流れ込んだ。

 霊の恨みのモヤが蛇の形になって、横からヨウちゃんに食らいつく。


「よけて――っ!!」


 あたし、地面を足で蹴って、ヨウちゃんに向かってとびだした。


 タックル。


「う、うわっ!? 」


 あたしに胸を抱きつかれて、ヨウちゃん、ドスッとゆかに寝そべる。

 その上を黒い蛇がかすめた。

 蛇は、あたしたちの上空を通って、黒いタマゴの中に吸い込まれる。

 タマゴの殻が、力を帯びたように、つるっと黒く光った。


「……った~。あ、綾……た、助かった」


 小ビンをにぎりしめて、ヨウちゃんが、体を起こす。


「よ、ヨウちゃん。今、あのタマゴ、兵士の恨みを飲み込んだっ!」


「……へいしのうらみ……?」


「外に、兵士の霊たちがあつまってきてるの!」


「れ、れ、れ、霊っ!? 」


 って、こんなときに、ヨウちゃんてば、ビビりまくり。


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