箱庭物語

晴羽照尊

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エディンバラ編 本章

狭まったからこその有利

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 ハク様。と、メイドは男をちらりと見た。目配せた。
 男たちの目的は理解している。自分と、淑女の奪還。あるいは、それに付随する、EBNAの壊滅。……それはやりすぎにしても、少なくとも、組織に反目して家族の奪還に来ているのだ。ある程度の損壊を与えなければ逃げ切ることも難しいだろう。

 メイドは思慮する。この場に、もう男がいる意味はない。自分はもう、彼らの元へ戻った。これ以上言葉を尽くしていただく必要はない。だったら、戦力にならない男は、先へ進むべきである。そういう、目配せ。

 それに対して、男は頷いた。……うん。気持ちが伝わったのかはちょっと、微妙なところだ。メイドは苦笑う。
 だがとにかく、伝わったと思っておこう。それを前提に、まず、道を作る。男が進むだけの、道を。

 そうしてメイドは、次いで、執事を見た。いまだにこの状況に違和感はある。だが、とにかく共闘、ということでいいのだろう。とすれば――

「アルゴ姉!」

 瞬間、執事の表情が強張る。叫ぶ。が、言われるまでもない。というより、気を抜いていたつもりなどないのに!

 ――おいおい、しっかりしろよお!?――

 体は、文字通り勝手に動いていた。助かりました。と、心で呟き、は自分で弾く。しかし、気持ちはまだうろたえていた。それを追い詰めるように、三撃目、四撃目――五、六、七、……と、数えるのも馬鹿らしい手数で、圧される。
 それでも、的確に捌く。圧され、後退する。普段であればその防御は、正しくともジリ貧だ。しかし、いまはその愚直な一手で問題ない。

「ダフネ!」

 執事が叫び、それとともに、投擲される、槍。宝装、『アテナ三装』が一本。『パラスの槍』。目標物を貫くまでどこまでも追いかける槍。

「甘いですわ」

 ブロンドメイドがなんでもないように呟くと、そばに生やしてあった樹木が反応し『パラスの槍』を絡め捕った。

 自動追尾の槍。その性能を、ブロンドメイドも理解していた。目標物を確実に貫き、その後は使用者の手に瞬間で戻る。そうして何度でも投擲できる。その槍の強みは、むしろそこだった。

 確実に対象者を貫き、ダメージを与える。だがそれは、あくまで目標物に当たる、というだけ。人体の特定部位を狙うことはできないので、うまく致命傷を与えられるものではない。つまり、一撃でのダメージはさして気にする必要がないのだ。
 しかし、軽傷も積もれば致命的になりうる。だから、何度でも失うリスクなく投擲できる、という点が、『パラスの槍』のもっとも厄介な性能だと、ブロンドメイドは判断した。
 だからこそ、樹木での絡め捕りだ。ブロンドメイドの扱う樹木は、彼女自身ではない。ゆえに、それを貫かれても、『パラスの槍』の帰還性能は発動されない。

 という、予想通りだった。それらの正確な性能については、EBNAの情報収集力をもってしても解らなかった。なぜなら、彼がその宝創ほうそうを使う機会があまりなかったから。地下世界へは、その目的地があまりに不明瞭すぎたから持ち込んだが、普段からこんな大仰な装備を、そもそも彼はしないのである。それに――

「甘いのは貴女だ。どこを見ている?」

 彼はそんな装備になど、もとより頼っていない。
 樹木で絡め捕られる防御くらいは、当然想定していた。だから、投擲と同時に、別方面へ回り込み、ブロンドメイドに近付く。

「『瞬間解放』」

 執事は極玉きょくぎょくの力を、右腕に込めた。途端に赤黒く燃え、炭化し、ひび割れる。禍斗かとの炎を、内に内に凝縮した、炎を上げない炎熱。言ってしまえば、固形化した炎だ。
 それを思い切り、ブロンドメイドへ向けて、振るう!

 ――いまだ!――

「言われるまでもありません!」

 執事の攻撃に、ブロンドメイドは視線を向けた。だから、ずっと圧されていたメイドも、即、反撃に転じる。
 執事がどこかで、ブロンドメイドへ攻撃をし、自分に助け舟を出してくれることは解っていた。だから、ブロンドメイドの攻撃を愚直に受け続けながらも、すぐに反撃できる気構えはずっとしてきた。

 具体的には、切り替わる準備だ。極玉――自分の内にいる、もう一人の自分と。同じ体を使うとはいえ、に代わった方が、本当の力は発揮できる。それでもそれを、EBNAに所属する他の誰もやらないのは、『自分』を乗っ取られる恐れがあるから。しかし、内なる自分と和解したメイドには、その心配はもう、ない。

 これまでよりもさらに赤く染まる、肌。そして、メイドとしての淑やかさなど失われてしまいそうにまで肥大する、筋肉。単純な筋力を振りかぶり、執事の攻撃とタイミングを合わせて、撃つ。

「いっくぜええええぇぇぇぇ――!!」

 互いに合わせたその攻撃が、完全に同時に、ブロンドメイドを襲った。

        *

 やっ……た……!? と、思いまでシンクロして、メイドと執事は思った。信じられない気持ちを抑えきれずに。
 もちろん、ブロンドメイドの得意とする、敵の力を利用する武術を警戒して、受け流されようにも、カウンターを当てようにも難しい攻撃方向を選んだ。一対一なら、どんな方向からのどんな攻撃にも、ブロンドメイドは対応できる技を持っている。しかし、相手が複数になればそうもいかない。

 相手のうちの一人に対応して体を使えば、当然、もう一人相手にその部位は使えない。そこに隙ができる。もちろんだからといって、達人クラスに極めた使い手であれば、ほとんどの攻撃に対応できるだろう。
 しかし、今回相手取ったのは、彼女の技をよく知り、かつ、十分な戦闘力を備えた二人だ。その二人の、完璧に狙いと、呼吸を合わせた同時攻撃。これならいける。確かに二人は思って、攻撃した。だが、実際にそれが決まってみると、達成感よりも違和感の方が強い。

 なぜなら、執事もメイドも、一対一だろうと複数対一だろうと、ブロンドメイドを傷付けたことなどなかったし、傷付いたところすらほとんど見たこともなかったのだから。
 だからこそ。と、二人は思ったわけではないが、直観的に次の動作を、互い互いが感覚的に選んだ。

 後付として、その理屈を説明するなら。執事は、だからこそ、追い打ちをかけるべきだ。ここで決めきるべきだ。と、次なる攻撃を仕掛けた。だが、逆にメイドは、だからこそ、退かねばならない。こんなふうに簡単に勝てるはずもない。と、ブロンドメイドから距離を取った。

 そして、今回正しかったのは、メイドの方だった。

「やはり、甘いですわ。カルナ」

 二撃目を向けている途中、彼も気付いた。受け止められていた。あの、極限まで高温に上げた、人体で触れられるはずもない、拳を。
 

 樹木と聞けば、燃えやすいものと思われるかもしれないが、実はそうでもない。樹木は燃やそうと思っても、燃えた表面が炭化し、その『炭化層』と呼ばれる部分が、熱の伝導や、燃焼現象に必須な酸素の供給を妨げる。
 もちろん、十分な火力があれば樹木は燃える。ゆえに、普通の樹木であれば、執事の極玉の力による、高温の拳に即座に燃やされるだろう。そう、

 しかし、ブロンドメイドが扱うのは極玉――しかも、EBNAでも有数の天然極玉として開花した、強力な力である。この場合、極玉の力でのぶつかり合いによる勝敗は、実質、純然たる極玉の力の差、とも言える。
 つまり、極玉としての力を極めたブロンドメイドの樹木を、少なくとも普通の樹木と同じように容易には、執事は燃やせない。

 そこまでを刹那に理解して、それでも、もう振るった二撃目は止められない。目前に迫る、ブロンドメイド。その、腕。
 結局、ダメージを与えられていなかったゆえに、一瞬の怯みもなくカウンターへ向けられた彼女の攻撃を、執事は思い切り、頭部で受けた。


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