魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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作りすぎたのは昨日だけだと思っていたが、今日は部屋の外から起こされる。

「おい、そろそろ起きる時間だ。朝食を用意したから降りてこい」

起きてはいたが昨日のことを思い出すと、どんな顔をして過ごせばいいのか分からなくて今日は朝食を諦めていたところだった。

「はぁー、」

ピアスの箱を仕舞うと、部屋を出て洗面所に向かう。共有スペースからもっと早く起きろとか、いつものうんざりする言葉が聞こえるが無視してさっさと支度する。

急いで食卓に向かうと、私が来るまで待っていたのか、一緒に食べ進め始めた。

「待っててくれたんだ・・・」

「片付かないからな」

「片付けくらい自分でできるよ」

「そうか、今日の帰りは遅いのか?」

そんなこと初めて聞かれたので驚いた顔を上げる。

「なんだ!妻の帰る時間を聞いたらいけないのか!」

(妻・・・)

先ほどから予想外の言葉に思考停止しそうになるが、平然を装い答える。

「あー、いや。今日はそんなに忙しくなかったと思うよ」

「そうか、帰りは王宮の門で待ち合わせしよう」

「ええ・・・」

困っている私の返事を聞きながら、左手の指輪を眺める紫の瞳はキラキラと輝いて見えた。




一緒に王宮までの道を歩き、門の前まで来る。左手の腕を掴まれると、彼の顔の近くまで持ち上げられた。

「な、なに」

突然の行動に驚くが、ミハイルは気にもせず指輪を甘く見つめると、また手を戻した。

「また帰りにな」


優しく声をかけられると、魔法研究室の塔へと去っていった。



「大変っすねー」

後ろから声をかけられたので、振り返るとアルノーがいた。

「おはよう・・・」

「今日は一段と凄いことになってますよ」

「ええ・・・」

アルノーと一緒に魔法支援室に向かいながら、私にはオーラの分からない指輪を眺める。見つめすぎたのか、視界を遮るように青い瞳に横から覗き込まれた。


「もー、先輩!俺の話聞いてます?」

「あ、ごめんごめん。なに?」

「あの店の新商品!食べました?」

私の好きなケーキ屋さんの話をしてくれているみたいだった。

「んー、まだだね」


ミハイルとよく寄って帰ったお店だったので思い出しそうになると、横からピンクの可愛いラッピングがされたカップケーキを渡される。


「これ、新商品っす」

「え、いいの?」

「はい、お昼にでも食べてください」

「ありがとう・・・嬉しい」


アルノーは隣で満足そうに笑うと、一緒に部屋に入って隣で仕事に取り掛かる。


魔法支援室の中でも増強魔法が使える魔力持ちが少ないので、机は自由席となっている。皆なんとなく自分の席を確保して使っているが、アルノーは最初から私の隣だ。
広々としたテーブルに1人ずつ空間を開けて座っているのに、私達だけは2人で使っている。

彼が入職して初日から5年間変わらずこの席だった。


「今日は作業どんな感じっすか?」

「うーん、今日中にここまで終わらせたいね」

「・・・もしかしてお迎えまた来るんですか?」

「いや、門で待ち合わせしてるだけ」

「・・・わかりました。一緒にやります」

「いつもごめんね」

その言葉には返事を返さず、暗い表情のアルノーは仕事に取り掛かっていた。



お昼は食堂でアルノーと一緒に食べ、食後にカップケーキを食べていると見つめられる。

「美味しい!やっぱりここのお店のはどれも美味しいね!」

「ふっ良かったっす」

「ふふっ一口食べる?」

「あー、いや。今日は遠慮しときます」

「いつも食べてたじゃない。いらないの?全部たべーーー」

ガタンーーー

「僕がもらおう」

テーブルの間に手をつき、私たちの間に割って入る。ミハイルが食堂にいる姿を初めて見たので、もの凄いざわめきになっていた。

アルノーが見えなくなり、ミハイルが私の顔を覗き込む。

「ほら、くれるんだろう」

「いや、その・・・」

「あのー、先輩こんな風に注目されるの嫌だと思うんで、やめてあげて貰えませんか」

「なんだ、邪魔するな」

「邪魔してるのはあなたの方ですよ。周り見えてますか」

「くっ・・・」

アルノーがミハイルの背中からひょこっと顔を出すと安心させるように微笑み、声をかけてくれる。

「先輩、俺あと片付けとくんで、旦那さんなんとかお願いしますね」

「ああ、すまない」

「えっ、ええ?」

食器を置いたまま、ミハイルに腕を引かれて食堂を出る。

「ちょ、ちょっと!困るよ!!」

ミハイルはどんどん進んでいき、人気のない裏庭まで来ると、腕が解かれる。

私を近くにあるベンチに座らせると、すぐ隣に座る。
昨日よりも体がピタリと密着した距離に驚き離れようとするが、肩に腕がまわされて動けない。

「あの・・・困るんだけど」

「夫婦になるのだからおかしくない。それよりも、仲が良すぎないか」

ミハイルにも前にアルノーとの仲で怒られたことを思い出した。

(それに告白もされたし・・・)

ミハイルのことで頭がいっぱいで、他に考えている余裕がなかった。

「何を考えているんだ」

紫の瞳は光のなく私を見つめる。

「怒らせて・・・ごめん」

「君にそんな顔をさせたい訳じゃ・・・はぁ、」

ミハイルが持っていたカップケーキの袋を渡される。

「一口くれ」

「はいはい」

言われた通り、カップケーキを差し出すと私の食べかけていた所をかぶりつく。

「えっ、潔癖症でしょ」

「君は対象外だ」

「意味わからなんだけど」

「残りはもういらないのか」

「食べるよ。邪魔が入ったから食べられなかったの」

「ふっ、すまない」

ミハイルの視線を感じながら食べ終えると、魔法支援室の塔の下まで見送られる。

もう周囲の目は、いつもの光景に収まっていた。


仕事に戻ると、アルノーに真っ先に謝る。もう慣れてきたんでと悲しい声で返事をされると、私も黙って作業に取り掛かるしか無かった。



仕事が終わり王宮の門へ向かうと、ミハイルは相変わらず女性に囲まれているようだった。魔法がかかっても解けても人気は変わらないことに驚いていると、ミハイルは私を目掛けて一直線に来ると、肩をがっしり掴んで一緒に歩き出す。

「妻との間を邪魔するな。消すぞ」

冷たい声で言い放つと、一緒に早足で去っていく。

「あのっ、早いよっ」

「ああ、邪魔が入ってすまない」

「人気者だね」

「興味無い、君以外邪魔だ」

「ええ・・・」

王宮から少し離れたところで肩を掴まれていた手が解かれると、ゆっくりとした歩幅に戻る。

「今日は夕食の食材を選ぶのを手伝って欲しい」

(ミハイルとも・・・こうして)

「家に帰ったら今日あったことを話すんだろう?」

「確かに私が言ったけど・・・最初の共同生活のルールはもういいの?」

「ああ、すまなかった。君に結婚すると言われた日から無効だ」

「ええ・・・」

「僕達は結婚して夫婦になるんだろう?」

「うん・・・そうだね」

(ミハイルとの約束だからなんて・・・)

罪悪感に心が痛みながらも、頷いた。
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