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54 経験したこと
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ミハイルが元に戻ってから、1週間が経った。
あれからも生活は変わらず、夕食を食べ終えるまでミハイルと一緒にいる。
今週は休みが少なく今日しかない。
私は1人で過ごしたくて、もうすぐお昼になる時間だがベットから出ずにピアスの箱を眺めていた。
チャリっ・・・
ピアスを眺めると、ミハイルは存在していたのだと、あたたかい気持ちになる。
「おい、まだ寝ているのか」
部屋の前から声がかかり慌ててピアスを隠すと、扉を開ける。
「なに・・・」
邪魔された気分の私は不機嫌に答えた。
「もう昼だ」
「はいはい、先に食卓をお使いください」
「君の分も用意しようと思うんだが、どんな気分だ?」
ミハイルの提案に私は罪悪感に苛まれながらも、1人で過ごしたかったので断る。
「ごめん、今日は外でゆっくり食べたい気分だから、1人で行ってくるよ。いつも用意してもらってごめんね」
「そうか、じゃあ僕も出る準備をしよう」
そのままスタスタと自分の部屋に戻っていく彼を呆然と眺める。
(一緒に行くってこと・・・!?)
休日まで一緒に過ごすとは思わず、とりあえず準備を簡単に済ませた。
部屋を出ると共有スペースで待っているミハイルと目が合う。
彼は綺麗に着飾っていて、よくデートしていたミハイルと重なり胸がドキリとする。
私の姿を見るなり、彼はなぜかショックを受けていた。
「普段の仕事着とあまり変わってないじゃないか!」
「だって、ご飯を食べに行くだけでしょう?」
「それは!そうだが・・・」
彼は何か言いたげな視線を向けつつ、家を出た。
とりあえず並んで歩く。
「どこで食事をする予定だ?」
「1人でささっと食べられる所にしようと思ってたよ」
「・・・以前、僕達はどこで食事をしていた」
「クーライズ通りにあるレストラン・・・だよ」
「じゃあ今日はそこにしよう」
「え・・・そこはまあまあ金額がするから、今日は普通の所にしない?」
金額のことよりもミハイルを思い出してしまうので避けたかった。
「金額のことなら気にしなくても僕が支払う」
「ええ!?」
(相手の分を払う理由が分からないと言い放ち、割り勘したと王宮で噂されていた彼が・・・)
「僕の記憶には無いのに、そのレストランで美味しい物を食べた経験はある。それが許せない」
「そ、そう・・・じゃあ、お言葉に甘えて」
彼の気迫に押されて、クーライズ通りへ向かう。満足そうな足取りの彼の横顔を、複雑な気持ちで眺めていた。
「いらっしゃいませ」
いつものウェイターさんが出迎えてくれる。別人のような口調で話すミハイルに一瞬驚くが、いつものようにスマートな対応をしてくれていた。
(やっぱりここのレストランは素晴らしいな・・・)
席に着き、そのウェイターさんに感謝の視線を送っていると、向かいに座るミハイルが机の上に置いていた左手の指輪を握る。驚いてミハイルに視線を戻すと、満足そうな表情をしていた。
「なに・・・」
「指輪、似合っている」
「・・・どうも」
この指輪はシルバーリングの内側に紫の宝石がはめ込まれている。まるでミハイルそのものだ。
魔力のオーラを感じ取れない指輪を眺めていると、メニューを持つ彼に声をかけられる。
「僕達は何を頼んでいた?」
「ここのお店の料理はどれも美味しくて、コース料理と単品料理があるんだけど、私達は単品料理を分け合って食べていたの。あなたは潔癖症だし、コース料理にしよう」
「君は対象外だと言った。君が好きそうものを選んでいいか?」
「うん・・・」
私がよく選んでいた料理が運ばれ、いつも通り店側が取り分けをしてくれる。
「うん、美味いな」
彼が食べている姿を見ていると、ミハイルとデートをしていた時を思い出し、胸が苦しくなる。
(風景も、味も、目の前の人も全部同じなのに・・・)
美味しいはずの食事は味がせず、ただ口に運んでいると、彼が真剣な声で話し出す。
「ここに来る時にも言ったが、僕には経験はあるのに記憶が無い。どんな風に君と毎日を過ごしていたのか教えてくれないか」
食べていた手が止まる。
「家に帰ってからゆっくり聞こう」
あれからどうやって帰ってきたのかがわからないが、気が付くと食卓に座っていた。
今日買って帰った新しい花を眺めながら、どこまでを話すかを悩んでいた。
「話せる範囲で構わない」
視線を合わせないままでいると、優しく声をかけられる。
「ただ、僕は嫉妬深いから・・・君のことになると特に」
花から彼に視線を移すと、ずっと避けていた話題を話し出した。
「朝起きてから寝るまで、ほとんど一緒に過ごしていたよ。今とそんなに変わらない気がするけどね」
ミハイルとの1日のルーティンを大まかに伝える。
「・・・そうか、これからは僕ともそうして過ごしてくれないか?」
「今でも似たようなものじゃない?」
彼の作った朝食と夕食を食べ、行きと帰りは彼と一緒だ。
「全然違う。それに全く足りてない!」
「そうかな?」
真っ赤な顔をしていた彼が急に表情を変える。
「僕たちは、夫婦になるんだろう」
真剣な眼差しに、胸を射抜かれる。
「どんな1日でも君と過ごしたい。楽しい日も辛い日も全部君と共有した毎日を送りたい。君になんて思われようとも、そばにいて支えるのはこの僕だ」
(あなたは・・・どうして・・・)
彼の顔がぼやけて、真っ直ぐ見ていられなくて俯く。
ガタリと立ち上がると、私の横に来て跪く。左手を取ると、指輪に唇が触れた。
「君のその涙を拭うことは、許して貰えるだろうか」
ポタリポタリと膝の上に落ちている涙は、どんどん広がっていく。
大好きなあたたかい手は、優しく私を包み込む。
あの時と変わらない温もりに、無意識に握り返していた。
隣に座るミハイルに涙を優しく拭われる。大切に大切に動く指は愛情を感じた。
潤んだ視界越しに、彼の傷付いた顔を眺める。
(私はまた、ミハイルを傷付けてる・・・)
あれからも生活は変わらず、夕食を食べ終えるまでミハイルと一緒にいる。
今週は休みが少なく今日しかない。
私は1人で過ごしたくて、もうすぐお昼になる時間だがベットから出ずにピアスの箱を眺めていた。
チャリっ・・・
ピアスを眺めると、ミハイルは存在していたのだと、あたたかい気持ちになる。
「おい、まだ寝ているのか」
部屋の前から声がかかり慌ててピアスを隠すと、扉を開ける。
「なに・・・」
邪魔された気分の私は不機嫌に答えた。
「もう昼だ」
「はいはい、先に食卓をお使いください」
「君の分も用意しようと思うんだが、どんな気分だ?」
ミハイルの提案に私は罪悪感に苛まれながらも、1人で過ごしたかったので断る。
「ごめん、今日は外でゆっくり食べたい気分だから、1人で行ってくるよ。いつも用意してもらってごめんね」
「そうか、じゃあ僕も出る準備をしよう」
そのままスタスタと自分の部屋に戻っていく彼を呆然と眺める。
(一緒に行くってこと・・・!?)
休日まで一緒に過ごすとは思わず、とりあえず準備を簡単に済ませた。
部屋を出ると共有スペースで待っているミハイルと目が合う。
彼は綺麗に着飾っていて、よくデートしていたミハイルと重なり胸がドキリとする。
私の姿を見るなり、彼はなぜかショックを受けていた。
「普段の仕事着とあまり変わってないじゃないか!」
「だって、ご飯を食べに行くだけでしょう?」
「それは!そうだが・・・」
彼は何か言いたげな視線を向けつつ、家を出た。
とりあえず並んで歩く。
「どこで食事をする予定だ?」
「1人でささっと食べられる所にしようと思ってたよ」
「・・・以前、僕達はどこで食事をしていた」
「クーライズ通りにあるレストラン・・・だよ」
「じゃあ今日はそこにしよう」
「え・・・そこはまあまあ金額がするから、今日は普通の所にしない?」
金額のことよりもミハイルを思い出してしまうので避けたかった。
「金額のことなら気にしなくても僕が支払う」
「ええ!?」
(相手の分を払う理由が分からないと言い放ち、割り勘したと王宮で噂されていた彼が・・・)
「僕の記憶には無いのに、そのレストランで美味しい物を食べた経験はある。それが許せない」
「そ、そう・・・じゃあ、お言葉に甘えて」
彼の気迫に押されて、クーライズ通りへ向かう。満足そうな足取りの彼の横顔を、複雑な気持ちで眺めていた。
「いらっしゃいませ」
いつものウェイターさんが出迎えてくれる。別人のような口調で話すミハイルに一瞬驚くが、いつものようにスマートな対応をしてくれていた。
(やっぱりここのレストランは素晴らしいな・・・)
席に着き、そのウェイターさんに感謝の視線を送っていると、向かいに座るミハイルが机の上に置いていた左手の指輪を握る。驚いてミハイルに視線を戻すと、満足そうな表情をしていた。
「なに・・・」
「指輪、似合っている」
「・・・どうも」
この指輪はシルバーリングの内側に紫の宝石がはめ込まれている。まるでミハイルそのものだ。
魔力のオーラを感じ取れない指輪を眺めていると、メニューを持つ彼に声をかけられる。
「僕達は何を頼んでいた?」
「ここのお店の料理はどれも美味しくて、コース料理と単品料理があるんだけど、私達は単品料理を分け合って食べていたの。あなたは潔癖症だし、コース料理にしよう」
「君は対象外だと言った。君が好きそうものを選んでいいか?」
「うん・・・」
私がよく選んでいた料理が運ばれ、いつも通り店側が取り分けをしてくれる。
「うん、美味いな」
彼が食べている姿を見ていると、ミハイルとデートをしていた時を思い出し、胸が苦しくなる。
(風景も、味も、目の前の人も全部同じなのに・・・)
美味しいはずの食事は味がせず、ただ口に運んでいると、彼が真剣な声で話し出す。
「ここに来る時にも言ったが、僕には経験はあるのに記憶が無い。どんな風に君と毎日を過ごしていたのか教えてくれないか」
食べていた手が止まる。
「家に帰ってからゆっくり聞こう」
あれからどうやって帰ってきたのかがわからないが、気が付くと食卓に座っていた。
今日買って帰った新しい花を眺めながら、どこまでを話すかを悩んでいた。
「話せる範囲で構わない」
視線を合わせないままでいると、優しく声をかけられる。
「ただ、僕は嫉妬深いから・・・君のことになると特に」
花から彼に視線を移すと、ずっと避けていた話題を話し出した。
「朝起きてから寝るまで、ほとんど一緒に過ごしていたよ。今とそんなに変わらない気がするけどね」
ミハイルとの1日のルーティンを大まかに伝える。
「・・・そうか、これからは僕ともそうして過ごしてくれないか?」
「今でも似たようなものじゃない?」
彼の作った朝食と夕食を食べ、行きと帰りは彼と一緒だ。
「全然違う。それに全く足りてない!」
「そうかな?」
真っ赤な顔をしていた彼が急に表情を変える。
「僕たちは、夫婦になるんだろう」
真剣な眼差しに、胸を射抜かれる。
「どんな1日でも君と過ごしたい。楽しい日も辛い日も全部君と共有した毎日を送りたい。君になんて思われようとも、そばにいて支えるのはこの僕だ」
(あなたは・・・どうして・・・)
彼の顔がぼやけて、真っ直ぐ見ていられなくて俯く。
ガタリと立ち上がると、私の横に来て跪く。左手を取ると、指輪に唇が触れた。
「君のその涙を拭うことは、許して貰えるだろうか」
ポタリポタリと膝の上に落ちている涙は、どんどん広がっていく。
大好きなあたたかい手は、優しく私を包み込む。
あの時と変わらない温もりに、無意識に握り返していた。
隣に座るミハイルに涙を優しく拭われる。大切に大切に動く指は愛情を感じた。
潤んだ視界越しに、彼の傷付いた顔を眺める。
(私はまた、ミハイルを傷付けてる・・・)
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